霧の中で立ちすくまないで。前に進むのです、勇気を持って。

本作が Web 小説として、いや、商業小説として構成が適切かと問うと、是と言い難いところがあります。

物語の開始時点で全貌を明かさないのは昨今の小説としては課題があります。冒頭の事件は、とある少年の視点から語られます。幼い故に世事をしらず、事件の背景が分かりません。

ですが、その少年は少しずつ世界を学んでいき、同時に読者も世界を学んでいきます。少年の成長を追体験します。

その様子は、周囲の霧が次第に晴れていくような。

この小説を読み始めたなら、霧の深さに諦めて引き返すことはしない方がいいです。明らかになっていく世界は広大です。

作中で語られる、魔術師と非魔術師の隔絶には心を打ちのめされます。弱くも単純な非魔術師と、全能の如きでありながら深い業を背負う魔術師は、どちらに生まれるのが幸せか。これも胸中に抱えるべきです。

勇気を持って進んだ者だけが見られる景色が、ここに在ります。

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