第3話 初恋

少しずつ、夕陽が海に飲み込まれていく。


その様子を俺はただ黙って見てる。


佐伯は呼吸すら簡単には出来ない。身体中で呼吸してる。

きっと俺が想像するよりずっと、痛いだろう。


俺の顔も、ボヤけて見えてるはずだ。


お前の顔を見ると、胸の奥がギュッと掴まれるようで、みぞおち部分がズンと痛くなる。


喉の奥が熱くなって、声なんか出したら全てが溢れてきそうになるんだよ。


お前は悪くないのに、この怒りに似た感情をどこに沈めてしまえばいいのか分からない。


また、いつもみたいに笑ってほしい…

大きな声で笑うお前を見たいんだ…


あの時のお前の笑い声が頭に響いてくるよ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「佐伯、知ってるか?山﨑ってずっとヒカリちゃんのことが好きなんだよー」

ガハハと笑いが起こる。

男って奴は、その場のノリですぐに人の秘密を暴露する。


「そうなのか?お前、意外と高嶺の花狙いなんだな」


そう言って、佐伯は大笑いした。


オオヌキ ヒカリさんは、俺の初恋の人だ。

小さくて、可愛くて、頭が良くて、スポーツも得意だ。誰に対しても優しくて、こんな俺にも頑張ってね、山﨑くん!と笑顔で声をかけてくれる。

清楚で、話し方も丁寧で、ザ・女の子!という女子なんだ。


多分、学年男子の半数はオオヌキさんのことが好きだ。多分。


俺は無謀にも、この気持ちを伝えたいと思うようになってた。

人間の七不思議だと思う。どうして、好きって気持ちを無性に伝えたくなるんだろう…


ちょっと気持ち悪い感じに聞こえてしまったらすみません。


ほんとに不思議だなと思う。

最初は、可愛いなぁから始まって、目で追うようになって、話せたらその日は、顔のニヤつきが戻らないという病気に罹る。


佐伯に相談した。


佐伯は、えっ!と目をそこまで大きく開けれるのか!というくらい大きな目をして驚いた。


数秒の沈黙の後に、いいんじゃない?と言った。

手紙がいいのか、メールか、直接言うかなど色々話した。


「面と向かって告白!の一択だな」


佐伯なら、そう言うと思った。


俺もその方がいいだろうとは思うが、なんせ緊張しいだ。上手く伝えられるのか‥‥


「山﨑はさー、ヒカリのどこが好きなの?」


ダイレクトな質問だった。


どこだろう‥‥


俺って、オオヌキさんのどこが好きなんだろ。

ん〜かわいい、とこ?


頭が真っ白になって何も言えなかった。


「まっ!ちゃんとアンタの気持ちを伝えなよ。アンタ、自分で思ってるほどブサイクじゃないんだから」


そう言って、佐伯は大声で笑った。


そして、俺は面と向かって告白をして、面と向かってフラれた。

付き合えるなんて思ってなかったのに、落ち込む…

ちょっぴり泣けてきたりした。

風呂の湯につかりながら、フラれました。と呟いた。

そのまま俺はボーッとして自宅の風呂でのぼせてしまうとこだった。


次の日の学校へ行く足はかなり重たかった。


「山﨑ー!おっはっよ!!」


そう言って後ろから思いっきり俺の背中におぶさってきた佐伯。


「ひどい顔してるぞ、今日の体育はバレーだからな!勝負だな!負けたら、コーヒー牛乳だからな」


そのまま、耳元で大笑いする佐伯おぶって学校まで走らされた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




俺は少しため息をついて、目を瞑っている佐伯の肩を温めるようにゆっくりさすった。

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