生徒会長とお話

「し、失礼します……」

「適当に座ってちょうだい」


 四宮先輩に促され、中央に設置されているソファに腰を下ろした。


「コーヒーは飲める?」

「あ、はい! 大丈夫です」

「ちょっと待っててね」


 お構いなく……そう伝えようと思ったが、機嫌良さそうにコーヒーの準備を始めたので黙っておく。


(何の用なんだろうか……)


 こうして連れてこられたのは生徒会室だ。

 実を言えばここに来たのは初めてで、高校にしてはあまりに整いすぎている設備に驚く。


(もしかして……バレたとか?)


 体育倉庫でひなたさんたちと濃密な絡みをしていた時、そこに現れたのが四宮先輩だった。

 あの時は見つかってなかったし、事なきを得たと思っていたけど……あれから一日も経たずにこうしてわざわざ呼ばれたとなれば、流石に嫌な予感が止まらない。


「はい、どうぞ」

「……ありがとうございます」


 背筋に嫌な汗が流れ、手が震えそうになる……いや、震えていた。

 コーヒーの注がれたカップを受け取ったが、俺の手の震えをこれでもかと示すようにコーヒーの水面が揺れている。


「緊張してる? ちょっと気になったことがあって、それを聞きたいだけだから気を楽にしてくれると助かるわ」

「……うっす」

「ふふっ、まずは飲んで落ち着いてちょうだい」


 そうだな……せっかく淹れてくれたし、飲んで気持ちを落ち着けよう。

 ふぅっと息を吹いて冷まし、ゆっくりと口に付けて飲んでいく……温かいコーヒーが喉を通るのと同時に、心が落ち着いてきた。


「どう?」

「美味しいですとても」

「良かったわ。それじゃあ私もいただこうかしらね」


 ぎこちなかった俺とは違い、四宮先輩はとても優雅だ。


(……この人もこの人でとんでもない美人だよな)


 ひなたさんやありささんとは、また違うタイプの美人だ。

 長くウェーブのかかった銀髪に、若干の冷たさを感じさせる整った顔立ちは、どこか気品ある美しさを醸し出している。

 目付きの鋭さが怖いとされているが、そこもまた悪くないと評判なのも知っている……そして極めつけは、ひなたさんたちに勝るとも劣らない圧倒的なスタイルだ。


(……マジでなんで呼ばれたんだ?)


 ……いや、弱気になるのは止そう。

 どんな話をされたとしても俺は俺で答えれば良い……さあ、ドンと来いってんだ。


「さてと、それじゃあお話をしましょうか」


 来た!


「君に聞きたいことは他でもないわ。私と同じクラスに、本宮ひなたという子が居るの」

「っ……」


 ドクンと心臓が跳ねたが、幸いに表情には出ていないはずだ。

 ただ……彼女の口からひなたさんの名前が出たというのは、あまりにもタイムリー過ぎてビビッてしまう。

 四宮先輩はジッと俺を見つめながら言葉を続けた。


「クラスの子が君と本宮さんが一緒に居るのを見たって言うの。別にそれくらい気にすることでもないんだけど、その子が言うには君が本宮さんにイジメられてるんじゃないかって言っててね」

「……は?」


 俺がひなたさんにイジメられてる……?

 なんだその酷い嘘は……まあひなたさんと初めてエッチをした時は色んな意味でイジメられた部分はあるけどさ。


「その様子だと全然違うみたいね?」

「当たり前ですよ。俺、全然イジメられてないですから」

「……そうよねぇ、分かってたわ。でも一応理由はあってね……本宮さんが模範となるような素行の良い生徒ではないのと、今まで全く繋がりの無い組み合わせだったから」

「あ~……」


 それは……確かに気になるのかな?

 普通の人なら気にしないことではあっても、生徒の代表である生徒会長の立場だからこそ何気ない一言が気になったのか。


「それで俺を呼んだんですか?」

「えぇ、全然心配は無さそうで良かったわ。もしも本当に君が困った事態になっていたとしたら、生徒会長として助けようと思っていたから」

「それは……ありがとうございます」


 どうやら、心配する必要は何も無さそうだなこの様子だと。

 しかし……こうして一生徒のために動いてくれるというのは、素晴らしい生徒会長ではないだろうか。

 冷たい印象があるとか、告白の振り方がえげつないとか、色々話を聞くけど……まあそれが本当のことだとしても、今の俺視点からすればとても優しい生徒会長だという印象を受けた。


「それだけ聞ければ大丈夫よ。ありがとう三笠君」

「いえいえ、それじゃあ帰りますね」

「えぇ、気を付けて帰ってね」


 何事も無くて良かったと、生徒会室を出る直前で立ち止まった。


「どうしたの?」

「……………」


 正直、伝えたところで意味はないかもしれないが……それでも今後こんなことがもしもあった時のために、言っておいても良いかなと思った。


「ひなたさんとは最近仲良くなったんです。俺にとってひなたさんは凄く優しい人で、時に凄く可愛い人だなって思ってます」

「へぇ、そこまで言うのね」

「そう言えるくらいに親しくさせてもらっているからですね」


 そんな会話を最後に生徒会室を後にした。

 何事も無く安心したのもそうだが、ひなたさんに関しての誤解が解けたのも良かった……ふぅ、でもちょっと緊張してたから疲れたな。


「……………」

「お疲れ」

「っ!?」


 生徒会室を出て息を吐いた瞬間、鼓膜を震わせた声にビクッとした。


「ひなたさん……?」

「うん」


 そこに居たのはひなたさんだった。

 扉のすぐ近くの壁に背中を預け、ほんの少し頬を赤くして口の中のガムを膨らませている……はっ、もしかして!?


「あの~……聞いてました?」

「……うん」


 その後、改めて下駄箱に向かう中で話を聞いた。

 どうやら俺が四宮先輩に連れて行かれるのを見たひなたさんは、気になって後を付いてきていたらしい。


「ごめんね」

「謝る必要ないですよ。その、ビックリしましたけど聞かれて困ることを俺は言ってないですし……ただ――」

「私が椿をイジメてるって難癖のことは気にしてない。だってもう、君がああやって否定してくれたからね」

「……否定するに決まってます。だって全然真逆ですからね」

「ふふっ♪」


 下駄箱から出てもひなたさんと離れることはなかった。

 校門を出てグラウンドを横切る際に、サッカーの練習で汗を流す奏斗の姿と、そんな奏斗を真剣に見守る莉緒の姿があった。


「お友達?」

「はい。親友みたいなもんです」

「どれ?」


 ひなたさんに教えるように、二人を指差した。


「女の子はともかく、男の子は知ってるかも。クラスの子がかっこいい後輩が居るって見てた気がする」

「へぇ……」

「ま、私からすれば椿の方が好みだけど」

「っ……ありがとうございます」


 しばらくサッカーの練習風景を眺めた後、俺たちは歩みを再開させた。

 これから何をするか、どこまで一緒なのか、そんなことは一切話さずに歩き続けたところで、背後からチリンチリンと自転車のベルの音が聞こえた。


「……? ひなたさん」

「え?」


 まさかと思い振り向けば、自転車はそのまま走っていた。

 ひなたさんの肩に手を置いて抱き寄せて安全を確保したが、自転車に乗っていた馬鹿野郎はスマホを弄りながら走行を続け……建っていた電柱へと突っ込んでいた。


「ったく……スマホなんか見てっからそうなんだろうが」

「ありがとね椿」

「いえいえ、悪いのはあいつですから」


 自転車から落ちた奴は、顔を真っ赤にして悪態を吐いている。

 どこか痛めているようにも見えるも、結局はあいつが悪いのだから心配なんて全くする気にもならない。


「ねえ椿」

「はい?」

「飴、舐める?」

「いいんですか?」

「いいよ」


 ひなたさんが自分が舐めていた棒飴を口から取り出し、それをそのままの流れで俺の口に入れてきた。

 ヌルヌルとした感覚はもちろんあったが、甘いオレンジの味が口内に広がり普通に美味しい……とはいえ、舐めていた飴をもらうというのは流石に予想外だった。


「……あの、ジッと見られると恥ずかしいんですが」

「私はただ飴を美味しそうに舐める椿を見てるだけ」


 モゴモゴと口の中で飴を舐める俺を、椿さんは楽しそうに見つめながらそっと囁いた。


「週末、楽しみだね」


 ドキッとしながらも、俺は頷いた。

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