第一部 竺土隠没品(じくどおんもつほん) 第一回 五人 Journey to the West

 恒星ほしあかりさえない漆黒しっこくの宇宙空間を、巨大な白い物体が凄まじいスピードで飛んでいた。

 そこは銀河系ぎんがけいから隔絶かくぜつされた亜空間回廊あくうかんかいろうの中で、飛んでいるのは亜光速あこうそく航行こうこうする宇宙船うちゅうせんであった。


――――宇宙船内部


 その宇宙船の中にはいくつもの部屋があったが、その中の一部屋に、パッと灯りがついた。その部屋は壁も床も天井も、六面がすべて真っ白な部屋だった。


 その部屋の中にはそなけの大きなテーブルが一つと、そのテーブルを取り囲む椅子が六つあった。その部屋にはテーブルと椅子以外の調度品ちょうどひんは存在しなかった。そこはどうやらミーティングルームのようだった。

 

 その部屋に灯りがついてからしばらくして、一人、また一人と、その部屋の中に人が入ってきた。入ってきた人は、テーブルを囲む椅子にそれぞれ腰掛けていった。


 最終的に四人の人物がテーブルを囲んで着席した。

 

「おい、玉龍ぎょくりゅう、全員集まったぞー」

 四人のうちの一人が顔を天井に向けて言葉を放った。彼女は若い女だった。

 

 ピー、ガガガガガ、ピーピーピー、キュキュキュキュキュキュ……

 複雑な電子音が部屋のなかにひびいた。

 そして、電子音がなり終わると、ヴオンといううなりとともに、テーブルの上にホログラムの立体映像りったいえいぞううつされた。


 それは幼い少女のホログラム映像だった。


「はい。お疲れ様です」

 ホログラム映像の少女はみを浮かべながら返事をした。


  四人の視線が少女の方を向くと、少女はおもむろに話し始めた。

「それではこれよりブリーフィングを開始します……

 と言いたいところですが、その前にしなければいけないことがあります」

「なんだよ」

 さっきの若い女が聞いた。

「出欠を取ります!」

「はあ?なんでそんなモン取んなきゃいけねえんだよ?あたしたちは五人しかいねえんだぜ?どう見たって全員揃ってるじゃねえか!」

「念のためです!」

「何が念のためだよ……」

「やれやれ、玉龍のマイペースぶりにも困ったものだな」

 四人のうちの一人、若い男がつぶやいた。

「とにかく出欠を取ります!皆さん、いいですね!」

「わあったよ。やればいいんだろ、やれば……」


「それでは、これより出欠を取ります。呼ばれた人は起立して返事をして下さい!」


「では、まず猪八戒ちょはっかいさん!」


「うーす」

 猪八戒と呼ばれたのは、少女と話していた若い女だった。

 年齢は外見から見て十六歳。背の高い女だった。


 彼女は深緑色のハンチング帽を被り、帽子と同じ深緑色のジャケットを着ていた。ジャケットの下には白いブラウス、首には長くて黄色いスカーフを巻いていた。下には、白いスラックス。左手首に金色の腕輪をめていた。


 帽子からは茶色い長い髪が背中に流れていた。耳には金色のイヤリング。その顔つきは精悍で、目に欲をたたえていた。


「つぎは、沙悟浄さごじょうさん!」


「うむ」

 沙悟浄と呼ばれたのは、少女をマイペースと言っていた若い男だった。

 年齢は外見から見て二十歳。背の高い男だった。


 彼は浅葱色あさぎいろ長袍ちょうほうの上に紺色こんいろ坎肩かんけんを着ていた。首には大きな黒い玉をつらねた、とても大きなネックレスを掛けていた。右手首に金色の腕輪を嵌めていた。


 彼の髪は銀髪で、長い髪だった。その顔つきはいかにも仏頂面ぶっちょうづらで、何もかも面白くないといった表情をしていた。


「つぎは、孫悟空そんごくうさん!」


「ああ」

 孫悟空と呼ばれたのは、若い男だった。

 年齢は外見から見て十八歳。中肉中背ちゅうにくちゅうぜいの男だった。


 彼は黄色い道士服を着ていた。首には短く黒いスカーフを巻いていた。右手首に金色の腕輪を嵌めていた。


 彼の髪は短く、赤い髪だった。彼は頭に金色のっかを嵌めていた。その輪っかには切れ目があって、その切れ目は彼のおでこの前で、上に向かってうねっていた。彼の瞳は炎のような真紅しんくで、虹彩だけが金色に光っていた。


「つぎは、わたくし、玉龍ぎょくりゅう!はーい!」

 ホログラム映像の少女はみずからを玉龍と名乗った。

 彼女の年齢は外見から見て八歳。


 彼女は藤色ふじいろブラウス薄桃色うすももいろスカートを当てた、とても美しい斉胸襦裙せいきょうじゅくんで身を着飾っていた。右手首に金色の腕輪を嵌めていた。


 黒く長い髪を飛仙髻ひせんけいに結い、大きな無色透明の宝珠たまのついた髪飾りをつけていた。耳には真珠のピアスをつけていた。


 彼女の表情には溌剌はつらつさと柔和にゅうわさが同居していた。


「そして、最後は……三蔵法師さんぞうほうし様!」


「玉龍。ぼくのことは三蔵法師じゃなくて、江流こうりゅうって呼んでって言ってるでしょ……」

 三蔵法師と呼ばれ、自らを江流と名乗ったのは幼い少年だった。


 年齢は外見から見て十一歳。


 彼は一見少女とも見紛みまがうような中性的な美少年だった。


 その髪は美しい金髪で、細くふわふわとした髪だった。顔の輪郭りんかくはすばらしく均整きんせいがとれていて、顔のパーツは瞳、耳、鼻、唇、すべてが美しく、愛らしかった。


 彼の美しい容姿は、たとえるなら一流の芸術家が彫った大理石の彫像のようだった。


 白いローブで全身を包み、上半身には金色のケープを掛けていた。右手首に金色の腕輪を嵌めていた。


 彼は完璧な美少年だったが、そんな彼の容姿には一つだけ違和感を感じさせる部分があった。


 彼の左頬には大きな黒い文様もんようが刻まれていたのだ。その文様は中央に小さな真円が配置され、その周囲に水滴形を引き伸ばしたような形の花弁が八枚、放射状に配置された、花をイメージさせる文様だった。


「無事全員の出席が確認できましたので、これよりブリーフィングを開始します!」

 玉龍は元気な声で説明を始めた。

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