第40話 包囲網
かつて政界のフィクサーあるいはキングメーカーと呼ばれた
広大な平屋の日本家屋は高い塀に囲まれており、重厚な構えの正門を見ただけでも、全盛期の
幸いにも、屋敷があるのは、住宅が集まっている区域からは、やや離れた場所ではある。しかし、念の為、「
現在、術師たちが屋敷を監視しているが、たしかに強力な「怪異」の気配が感じられるものの、内部では未だ動きがないという。
陸と
「『
屋敷を眺めながら、伊織が得意げに言った。
普段は本部の外で見かけることの
「姿を隠す能力を使っても、術師の皆さんには見付かってしまうんですよね」
「その通りです。
陸の言葉に、伊織がますます鼻を高くしている。
「伊織よ、相手の正体が分からぬ以上、油断は禁物ぞ。まして、少なくとも人間と同等の知恵を持つ者だろうからの」
背後から聞こえた声に、陸たちは振り返った。
そこに立っていたのは、
「これは……術師長までが現場にいらっしゃるとは」
驚いて姿勢を正す伊織を見て、
「これは、結構な
「と、とんでもない! 久々に師匠の術が見られるかもしれないと思うと、楽しみですらあります」
普段は、どこか高慢な伊織が
ふと、陸は胸の奥から、これまでに感じたことのない灼熱感が湧き起こるのに気付いた。
「ヤクモ、何か変な感じがするんだけど」
「……『悪しきもの』の気配である」
陸の脳内に、これまでになく暗い声が響いた。
「『悪しきもの』?」
「すまぬ、『あれ』を的確に言い表せる言葉は、人間の語彙の中にはないのである」
「もしかして、何か思い出したの?」
「未だ霞がかかっているようではあるが……
普段とは異なるヤクモの様子に、陸は一抹の不安を覚えた。
「案ずるな、
陸の心を見透かしたようにヤクモは言うと、小さく笑った。
その時、正門の分厚い扉が音もなく開いた。
開いた門の間には、杖をついた和服姿の老人が
すっかり髪が抜けて、つるりとした頭部に、曲がった腰、深く皺の刻まれた顔――絵に描いたような「年寄り」である。だが、まとっている着物は遠目に見ても高価なことが分かるものだ。
「おや、皆さん、お揃いで。こんな年寄り一人に、大層な出迎えですな」
外見に似ず張りのある声で、老人が言った。
その声と姿に、陸は言葉に表せない不快感を覚えた。嫌な感じとしか言いようのない感覚と共に、胸の奥の灼熱感が更に強まっていく。
「陸よ、そろそろ
ヤクモが言うと共に、陸は自分の意識が身体の奥に沈むのを感じた。
「あなたが、
一方、術師長である
「
老人――
「ふむ、
「そこまで分かっているなら、回りくどい言い方は不要だ。あの老人は、情報を得る為に
「この屋敷には
伊織が問いかけると、「怪異」は哄笑しながら言った。
「
その言葉が終わらないうちに、
凄まじい光と熱の奔流に、陸を始め周囲の者たちも圧倒される。
しかし、最後の光が消えた時、「怪異」は何事もなかったかの如く
着ていた服は術の熱で焼け落ちているものの、本体は無傷だ。
「そんな……おじい様の、あの術を受けて……?!」
「戦闘部隊、術師ともに、一旦、対象から距離を取れ!」
インカム越しに
同時に、
頭上にあった門まで破壊しながら、不定形だった「怪異」は、巨大な
「
「怪異」の声――いや、不快な思念が直接脳内に捻じ込まれるのを、陸は感じた。
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