第27話 茅葺き屋根の家
まだ日の高い午後の時間帯である所為か、田園風景の中を走る電車の中に、客の姿は
「この路線、線路が一本しかないけど、反対側から電車が来たら、どうするんでしょうか」
二両しかない電車の最後尾から外を眺めつつ、普段着姿の
「単線だから、駅で待ち合わせて、すれ違うんだ。
陸は、心底不思議そうな顔の
「
「俺を育ててくれた祖父母は旅行が好きで、あちこちに連れて行ってくれたんだ。田舎だと駅前なのにコンビニすらなくて困ったこともあるけど、今となっては笑い話だよ」
田園風景と緑豊かな山や森が互い違いに流れていく車窓を眺めて、陸は自身の幼い頃を思い出した。
――考えてみれば、爺ちゃんも婆ちゃんも既に高齢で大変だったろうに、旅行も、俺の為に連れて行ってくれていたんだろうな……
「君たち、物見遊山に行く訳ではないんですから、気を引き締めてくれないと」
術師の
スーツ姿で座席に腰掛けている伊織は、長い髪さえなければ普通の勤め人に見えなくもない。術師の装束は目立つので、彼らも長距離を移動する際は普通の服装になるらしい。
「『使い魔』の彼は
フンと鼻で笑う伊織を、
「
陸たちとは反対側のロングシートに座っている
彼の言葉に
「
「うむ、そうであろう」
やや不穏になりかけた空気が回復したような気がして、陸は、何とはなしに安堵した。
そうこうしているうちに、一行は目的地の駅に到着した。
駅は無人で、小屋のような駅舎に切符や整理券を回収する箱が設置されているだけだ。
周辺には雑貨店らしき店が数軒あるものの、営業時間が終了したのか、あるいは、そもそも使用されていないのか、いずれもシャッターが下りていた。
そろそろ日が傾き、薄闇が迫りつつある、ロータリーと言うには小さい駅前のスペースに一台のワゴン車が停まっている。
「『
ワゴン車の傍に佇んでいた人物が一行に近付いてきた。一見どこにでもいそうな、眼鏡をかけ、MA-1にデニムという姿の中年男である。
「『怪戦〇〇支部』所属の術師、
身分証を見せながら、山吹が言った。
陸たちは、軽く挨拶を済ませると、荷物を持ってワゴン車に乗り込んだ。
木々に囲まれ、車同士が、やっとすれ違えるくらいの細い道を、ワゴン車は安全運転で進んでいく。
「この辺りを管轄する支部があるのに、どうして俺たちが呼ばれるんですかね」
「君、話を聞いていなかったのかね」
「うちの支部も人手が足りなくてですね。こんな田舎だから術師も戦闘員も十分に確保できていないんですよ。そこに『怪異案件』が起きた訳ですが、
ハンドルを握っている山吹が、本当に申し訳なさそうな様子で言った。
「いえ、責めるつもりとかじゃなくて……すみません」
中央にいると分かりにくいが、人口密度に比例して「怪異」への備えが手薄になりがちなのは否めない。「怪異」が出現する確率は、世界中どこでも変わらないのに、だ。
やはり、先日テレビでインタビューに答えていた若手議員の言うような「
やがて、一行を乗せたワゴン車は集落に到着した。
一軒の農家らしき
「集落には宿泊施設もありませんから、こちらのお宅に滞在していただきます。もちろん、住民の方たちには話をつけてありますので」
「なるほど、後で、かかった経費を本部へ請求してもらわなければいけませんね」
伊織が頷きながら言った。
一方、陸たちが到着したのに気付いたのか、家の中から住人であろう老夫婦が姿を現した。
「『怪戦』の人たちだね、よく来なすった」
「むさくるしいところですが、どうぞ、上がってください」
二人に促されて入った家の中には都会の住宅には見られない囲炉裏などがあり、昔話に出てきそうな雰囲気を
「絵本に出てきそうな家ですね」
「私らには普通だけど、都会の人には珍しいのかねぇ」
物珍しそうに周囲を見回す
「こんな大人数で、何だか申し訳ないです」
「昔は、大勢の家族で住んでいた家だ。これくらい、どうということはないさ。今は、みんな都会に出てしまったがな」
老夫婦と、手伝いに来た近隣の者たちによって振舞われた夕食に舌鼓を打ち、長い移動で疲れていた陸たちも、人心地がついた。
「東京から術師の人が来てくれたなら安心よね……あなたも、術師なの?」
手伝いに来ていた女性の一人に問いかけられ、陸は一瞬戸惑った。
「ええと……俺は、そちらの術師の方の助手みたいなもの……です」
そう言って、陸が
「そうよねぇ、戦闘部隊の人にしては細っこいと思ったのよ」
女性の言葉に、陸は隣りに座っている
――これでも、以前に比べて筋肉は付いてきたんだけどな。帰ったら、トレーニングのメニューを増やそう……
「
何となく考えていた陸の脳内に、ヤクモの声が響いた。
「聞こえてた? まぁ、もうちょっと筋肉付いてたほうがカッコいいかなって」
「ふむ、人間とは、変なところを気にするものであるな。して、カッコよくなった姿を誰に見せるのであるか?」
ヤクモに問われて、陸は、ふと
――見た目にも
たまゆら、陸は、そんなことを考えた。しかし、ヤクモに知られるかもしれないと、なぜか恥ずかしく思った彼は、慌てて真理奈のイメージを打ち消した。
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