第12話 花と氷と
来栖たちから格闘技の手ほどきを受けた翌日、陸は
「また、あの
ヤクモは
「まぁまぁ、たぶん、研究の為のデータ取りとかだと思うよ」
陸がヤクモを
「おはようございます。
「
「私も呼ばれているんです。一緒に行きましょう」
微笑む
「しかし、陸は人間にしては随分と寛容であるな。あの
ヤクモの言葉に、陸は少し考えてから答えた。
「俺も怖かったけど、
「陸、そんな風に考えていては困るのである。
「ご、ごめん」
思いがけずヤクモから諭される形になり、陸は首を
――俺を育ててくれた爺ちゃんと婆ちゃんが亡くなって、もう心配をかける相手もいないと思っていたけど、今は一人じゃないんだっけ……
「あの、
黙って二人の話を聞いていた
「仕事熱心だから、きつく見えるけど……元々は正義感が強くて優しい人なんです」
「
陸は、ふと気付いたことを口に出した。
「そうですね。家同士が親しくしていて、私と
「私は似合っていると思うんですけど、本人は、下の名前が可愛すぎるから呼ばれるのが恥ずかしいって言ってて……だから、人前では名字で呼んでいるんです」
「
陸は、くすりと笑った。無意識に冷たい機械のように感じていた
実験室では、既に
「
陸と
そこにあったのは、折りたたまれた服と、バイザーのようなものだ。
陸は、手に取った服を広げてみた。
上下が
繋ぎのほうは、戦闘員たちが身に着ける黒を基調とした戦闘服に似ているが、背中の部分が大きく開いている。翼を出した際に邪魔にならないようにする為だろう。
黒に近いスモークガラスを思わせる素材で構成されたバイザーは、目元を覆う形になっており、それにインカムが付けられている。
「サイズを確認したいので、その戦闘服に着替えてください」
事もなげに言う
「ど、どこで着替えれば……」
その様子を見ていた別の男性職員が、口を挟んできた。
「こっちに、使っていない部屋があります。
「え……ああ、では、そちらでどうぞ」
心底うっかりしていた、という表情で、
職員に案内された小部屋で、陸は渡された戦闘服に着替えた。伸縮性のある生地で仕立てられた戦闘服は、陸の想像以上に動きやすいものだった。
「まぁ、アニメに出てくる人みたいですね」
小部屋から出た陸を見て、
「そ、そうですか? このバイザー、外から見ると真っ黒でも、内側からは普通に見えるんですね」
「それにしても、サイズぴったりで驚きました」
「身体検査で計測した、あなたの身体のサイズから調整しましたから。戦闘部隊の制服には特殊素材の装甲が縫い込まれていますが、あなたの場合は機動性を重視して軽量化しました」
「出撃の際は一般人に顔を見られないよう、常に、そのバイザーを装着してください。『
「……分かりました」
――俺のような事例があると一般の人たちに知られれば、混乱が起きる可能性もあるからな。仕方ないか……
「正体を隠して戦う……まるで『ひーろー』ではないか。人間の男は、そういうのが好きであろう?」
ヤクモの呑気な言葉で一気に緊張感が吹き飛んだ陸は、苦笑いした。
「まぁ、嫌いじゃないけどさ。君は、変なことばかり覚えてくるなぁ」
漫才状態になっている陸たちを横目に、
「あのバイザーと対になっているインカムです。もちろん、指令室や他の戦闘部隊との通信も可能です」
「お揃いですね。これは
小さく折りたたまれていたインカムを広げて眺めながら、
「材料は殆ど既製品だし、特別な技術は使っていないから、大した手間はかかっていませんよ」
そう言う
「
先刻、陸を着替えの為の小部屋へ案内した職員が、何度も頷きながら言った。
「俺と同い年くらいなのに三佐なんて凄いと思っていたけど、本当に凄い人だったんだ」
陸は、素直に感嘆した。
「私は、本当は術師になりたかったんですけどね。術を発動できるほどの霊力がないので、『呪化学』の専門家になったのです。霊力を持たない人間でも『怪異』と戦える技術を開発できるように」
不意に、ぽつりと
「まり……
「S区Y公園内に大型の『怪異』出現、民間人に負傷者が出ている模様!
「ここ何日か静かだと思っていましたが……私は指令室に行きます」
「あ、あの!」
考える前に、陸は声を出していた。
「俺たちも、行ったほうがいいですよね?」
彼の言葉に、
「実戦投入は戦闘部隊と演習をしてからと思っていましたが、そうも言っていられませんね。
「了解です! ……では、転移の術で現場に向かいますから、
「転移の術って、瞬間移動みたいなやつですよね?」
「はい。
そう言いながら
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます