或る美しい日にて、君を想う

橘 永佳

起-Exposition【提示】

 パラパラと砂塵が舞い上がっている。


 そう、塵ではなく、塵が。

 埃っぽいと言われる範疇を超えて、明確に視認できる大きさの、いわゆる砂粒大のものが浮いているのだ。


 重力のくびきから解放された、と主張しつつ。


 それは間違いではない。

 比喩でもない。

 現に、私自身の身体も軽くなっているのを実感しているのだから。


 地面の振動がジリジリと大きくなってきている。

 それと比例するように重力が減衰してきている。

 遠からず、空気も薄くなっていくのだろう。

 そうすれば酸欠に陥る羽目になるが、その前に、地球の核が爆発四散する方が先ではないだろうか。


 連邦の鬼才と呼ばれた一世代前の研究者が開発を目指したものは、当初狂気の産物、もしくは文字通りの空想科学と一考だにされなかった。


 何しろ、さらにその一世代前に実現不可能と結論付けられた仮説を下地にしていたのだ。当時から現在まで為す術のない太陽風の増大による被害、それを地磁気をコントロールして軽減しようという仮説。


 まさに机上の空論だったそれを、鬼才は実現してしまった。


 ただし、真逆の方向で。


 地磁気を制御してに厚みを変え、中心はゼロにする。

 イメージするなら、太陽から放たれる太陽風を漏斗で受けて、集めて地表の一点へと注ごうとする図が最適だろう。もしくは、もっと単純に、太陽の光を虫眼鏡で集めて火を付ける、それを思い浮かべれば良い。


 そう、要するに、太陽風を集約して兵器として利用したのだ。


 まず第一に、地磁気はそう都合よくできはしない。

 それに、兵器として足りるほどの火力に届くとは考えられない。

 そもそも実現させるには必要エネルギー量が膨大過ぎで、それほどのエネルギーが用意できるなら直接攻撃へと転用した方がよっぽど容易で効率的だ。

 あらゆる点で、とても実現するとは思えない内容。


 故に、完成したと発表されても疑問視されてお蔵入りになり、今回使用されるまで塩漬け状態だった代物だ。


 ところが蓋を開けてみれば、地磁気の流れは綺麗な漏斗になり、それに留まらず渦まで巻いて太陽風を余すところなく集約し、一方で太陽では数万年に一度レベルの太陽フレアが唐突に発生した。


 平均約450 km/sで飛来する100万度近い極高温のプラズマが、集光された太陽光が紙を焼くかのように、地球の裏側に位置する共和国の軍事拠点を焼き払った。


 想定外だったのは、その火力が一国の軍事拠点どころかその大陸、地球の地殻のその下のマントルまで吹き飛ばしたことだ。


 共和国どころか連邦の一部をも大陸ごと消し去った一撃によって泥沼の第n次世界大戦は終結したが、その結果、地殻によって抑え込まれていた流体のマントルが噴出し始めた。


 抉られた地殻の穴から、マントルに続いて地球の外核も吹き出し、それら超高温の流体が地表を焼き払っていくのか。


 その際に急膨張して地殻の穿孔を拡大し続けて、地球の何分の一かがクレーターと化すか。


 それともマントルと外核というが突如消失し、圧縮固化されていた内核がされる際の乱流で核融合反応が加速度的に進行して、地球が爆発するか。


 もしくは減圧によってエネルギーのベクトルが変容、爆縮を引き起こしてやはり爆発するか。


 現実は、それらいくつかの組み合わせとなると予測される。

 重力の減衰は地球の質量の減少を、つまりマントルと核を失いつつあることを示唆している。そう考えるのが妥当な線だ。


 なお、奇跡的に流出だけで済んで爆発しなかったとしても、すき間だらけとなった地球は縮んでスケールダウンすることになる。なら、天体は小さいほど重力は増すのだから、これも人類が生存できる環境ではなくなる。

 何なら、結局増大した重力に縮んだ地球自身が耐えられずに重力崩壊を引き起こすかもしれない。


 何にしても救いは無い。

 今この瞬間は、まさに終末の一歩手前地獄へのカウントダウン中といったところだろう。 

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