ペンギンとマシンガンと女の子2

 明日という曲を、頭の中で作っていたマシンガンだったが、実際早く、誰かに聴いてもらいたいと思っていた。なので、マシンガンは音楽の話をすることにした。

「けい。なあ、けいよ」

「気持ちわ~り~なっなんだよ! わたしと、じゃなくてあの変な人魚みたいのと、一緒に喋ってろよ、ふんっ!」

「妬いておるのか?お前もメスだな兎瓦けい_」

「無視!」

「さっきから、実は頭の中で考えていた、曲があるのだが、なあ、今すぐお前に捧げたい」

 けいは立ち止った。なかなかに、ずぎゅんと来る台詞では、あった。シャチに言われたことは、一瞬忘れた。

「おうっ。なら、やってみ!え、歌うってこと?」

 -

「音なのよ、全部_」

 しん、と静まり返ったスタジオの一室。不気味だった。これだけの人数で、この静けさというのは。坂口浄介は、今日初めて耳を奪われた。根っこは見えないが、説得力のあるフレーズだったのだ。

「全部、、、音?」

 -

「おっそーっい!スティーブさん、もういいよ、あなた全然自炊したことないでしょ!いいや、もう、こっちで鍋見てて!カレーにこんだけ時間かかるって、ほんといいヒマ潰しだわったく」

「なら、よかったじゃねえか。どうせ、他にやることもねえんだ」

 スティーブはどかない。

「ちょっと!わたしがやるって、どいてよ。もう!もう持ち方違うし!」

「まあまあまあ、まあ」

 男はできない、ことは認めたくないものである。

 -

「ところで、けいよ。なぜギターが恩返しに使われたか、疑問には思わなかったのか?」

「あ?こっちは、もう疑問だらけで何から聞いていいか、わからねー状態だったんだよ。わかっぺや、そんくらい!で?なんでギター?」

「それはな。全部、音だからなのだ、兎瓦けい_」

 -

「あんたら速攻デビューできんだろ!なんなんだよそれ!」

 坂口浄介は、芸能人を前にしているかのように興奮していた。

 演奏を始めたのだ。話し合われていたのは、スタジオであり、当たり前のようにミュージシャンの練習するスペースである。こう使うのが、最も、正しい。では、坂口浄介が現在、突然付き合わされているこの密会にいるメンバーを紹介しよう。ドラムス。

 -

「もう!カレー簡単なのに鍋ほら!これ底焦がさないでよ、もう!」

 しかしスティーブは、へらへらが止まらない。何をやってもダメと言われるが、まったく腹が立たない。今までの沈黙地獄より、百倍マシである。だが、スティーブは一言、厳しい言葉を放った。

「調子乗んなよ?仁美!」

 だがやはり、真剣さに欠けていた。口角が上がり過ぎていた。崖の上のキッチンで、コンロと格闘する八千草仁美は、そんなに楽しんでいる様子ではないが、本当のところは解らない。

 -

 演奏を終えた。

 マシンガンは、どうだ、とばかりにポーズを決めて、と言ってもいつもと体勢は、変わらないうつ伏せなのだが、そういう態度が見て取れた。対するけいは、どうだろう_。けいは、かがみ込んでいた。顔を膝の隙間に、しまい込むかのようになかなかに身体の柔らかさが窺い知れる、恰好だったが、それは今は、どうでもよかった。

 相変わらず、人魚は距離を取って、少し離れた別の大木の太めの、枝に乗る恰好でこっちを眺めている。ペンギンは、もうどこかへ行ってしまった。恩返しの下りは、一体どうなってしまったのだろう。けいは、泣いていた。

「実は、話があるのだ、兎瓦けい_。わたし達の正体、そして一部始終、、、。 お前が一体、何に巻き込まれているのか、ということを」

 マシンガンは、兎瓦けいがただ今号泣していることは、ちっとも意外じゃなさそうであった。

「(今頃かい、、、。ふ。)」

 けいは、笑いながら、つぶやいた。

 -

 ドラムス。レノン。恰好はふざけている。例のガチャピン少年である。フクロウをモチーフにしたような、いやむしろ、そのもののような物体を頭の上に、乗っけた着ぐるみ装備の、微妙なセンスである。が、しかし打ちだすリズムは骨があった。例えるなら、アメリカ大陸___だが、土ではない、流れる川である___。しかし大胆。しなやか。喰らわせるのは、微動だにしない視界のようなリズム。腕。天才だった。

 ベース。ツチノト。さっきまでレノンとかやをつけていた、ゲイ風の男である。無愛想な表情と低い鼻。厳しく閉じた口。おまけに坊主。間違っても、イケメンではないが、恰好は一番まともな様だ。いや、そんなことはない。ズボン腰部分がおかしい。なんと、カエルだ。カエルのふざけた顔が本来ベルトが巻かれているはずの、場所にお腹を覆い隠すように、陣取っている。演奏に話を戻そう。影自体は、薄い。だが、よく聴くと気付くことが、ある。

 -

「けいよ。泣くでない。おれの話を聞くのだ」

「うるっせえよ!お前こそ、<おれ>なのか<わたし>なのか、はっきりしろ、ばか」

「日本語をよく知らんのだ。悪く思うな」

「ペラペラのくせに。魚寸前」

「今、何と言った?」

「お前らなんか、魚(さかな)寸前(すんぜん)だと言ったんだ!(ぐす。)」

「褒め言葉だ。まあいい話を聞け」

「そうかよ」

「我々は、惑星守護色期巫天(わくせいしゅごしきごみてん)と言われる存在だ。動物ではない」

 -

「うまいっ!」

 スティーブは、躍り上がりたい気分だった。そのまま上昇し、星にタッチし、大気圏で、ラップのリリックを考えたいぐらいの高揚を感じた。

「ぐらいうれしいよ!仁美!」

 いつの間に、呼び付けになったのだろう、と思いながら、スティーブに無言でうなづく、仁美。

「ほんとうめえよ」

 ただのカレーだった。誰が作っても、大差が出るようなメニューではないが、ずっとカップ麺だったことを、考えると体験する温度、手作りという最高級のスパイスが、かもす本当の意味でのおいしさ、それはスティーブを唸らせたのだ。

「そりゃどうも」

 -

 ありがちな話では、あるが、ベースの彼は、「実は」うまかった。形容しようのない感覚である。さあ、言葉を選ぼう。まず、目の前にねずみがいる。そのねずみは、ひどく腹が空いている。チーズを狙っている。今、自分には、自分の腕にはチーズがあり、与えたい気持ちはある。待って欲しい。やはり、何かが違う。とにかく、ツチノトは達人だった。正確、とか才能があるとか陳腐だが、格好いい、と言うよりかは、ベースにちゃんと歩み寄れている、ような弾き方だった。

 ベースを彼、とするなら、彼に背伸びをさせない、そんなベースだった。これが表現の限界である。勘弁してほしい。ギターそしてボーカル。かや。

 -

「ねえ、マシンガン。なんかいるよ?」

「お前はいつになったら、わたしの話をは!!!」

 人魚が遠くから、手をコイコイしている。次に、右腕を自身の口に、添えた。

「来たぞ、ゆし!」

 メスのシャチが、浜近くまできていた。マシンガンの呼吸が荒くなった。

「うん?ちょいマシンガン!だいじょうぶけ!?だいじだって(栃木の方言で「だいじょうぶだって」)!喰われそうになったら、わたしが助けてやっから」

 マシンガンは顔を真っ赤にさせて、ぷるぷると震えだした。

「たわけが」

 -

 驚くべきことが起きた。スティーブは言った。

「ん?」

 レノンは、驚いた。

「あぁ!?」

 けいは、言った。

「?」

 いや、何も言わなかった。

 坂口浄介は、言った。

「どこ!?」

 仁美は目を丸くした。

「ななな!?」

 求喰柚宇は、「あ」と言った。

 全員が同じ場所に居た。

 浜に近付くメスのシャチ。ふわり、、、。突然、上空に、カメが現れた。

「失礼致しました。皆様を元の、時間に、お返し致します」

 告げると、カメは消え、今現れたはずの何人もの人間が、兎瓦けいとマシンガンの前から、その周りから、姿を消した。

 2人だけになった。人魚を除くと。

 今居た白衣の女の人は誰だ?ガチャピンみたいなのは?変なゲイ風は?見覚えのあるけいと同じ制服の男子は?おまけに、自分そっくりの凄まじい恰好の、女は?長髪を後ろに束ねたイケメンは?口にはカレーがついていた。一体なんだったのだ、と思っていると、目の前で、水が割れた。飛沫が立った。シャチだった。シャチとは_

 -

「今、一瞬あたりの景色が、変わったような、、、」

 坂口浄介は、冷や汗に、その中で、表情の行き場を失くした。演奏が再度、始められた。メンバーに動揺は、見られない。気を取り直して、、、。ギターそして、ボーカル。かや。

 -

 仁美とスティーブはカレーを食っていた。がつがつとただ食事を、押し進めた。なぜ、そんな気分になっているかはわからなかった。わからなかったが、目の前の皿を、とりあえずメタクソに、きれいにたいらげてしまいたかった。わからなかった。一言もしゃべらなかった。今、何が起きたのだ、とどちらもふっかけなかった。食べた。もうどうにでもなれ、と思った。人類の精神力とは、強かった。

 -

 かやはミュージシャンだった。ミュージシャンとは、音を出した時にちゃんと、発した自分と客との距離が解っている人間である。主張、押し付け過ぎてはいけない。かといって、引いてはもっといけない。かといって、バランスを取ろうとする、というような受け身なニュアンスでもない。圧倒的な自信で音を放ち、50%は酔い、50%は身体で批判する。顔に出してはならない。パフォーマーであることを楽しまなくてはならない。だが、ストーリーには責任を持たなくてはならない。見ていて、浄介にとって一番居心地が良かったのは、かやである。見られ、聴かれていることを意識しながら、何も気負っていない上、部屋で独りで楽しんでいるような、身勝手さも楽しませるレベルで機能している。プロだった。特徴の話でいうと、ギターは並、声は目立ったものでなかったが、そうではない何かが、アンサンブル全体に安定を持たせていた。

 良いわき役である。同じくギター、ボーカル、月と呼ばれた女、彼女の名は、桂といった。

 兎瓦けいと同じ名であった。こっちは、かやと真逆だった。

 -

  出現したかと思ったメスのシャチは、顔を出して空気に触れたあと、すぐに水の中に戻ってしまい、10分間現れなかった。マシンガンは話を始めた。

 「兎瓦けい。おれの解っている範囲で説明しよう。まず、あの時は迷惑をかけたな。あの、校舎に現れたキリンとお前らが呼ぶ動物_。告げようあれも、我らと同じく、所謂生物ではない」

 けいは、真面目に聞き始めたが、目は腫れたままであった。「うるせえし」失礼した。

 -

「地球様」

 坂口浄介は自分の口を、瞬時に抑えた。今、無意識で意味不明の単語を口にしてしまった。誰のことだ、地球様とは。

 桂。演奏の、鬼そのものだった。髪を振り上げ、マイクを責めるように、2,3秒おきに握り直し、どこに焦点を合わせているか、わからない目で音を、張り上げている。上手い、ではない。だが、賞賛に間違いはない。見とれる。これ以上、パフォーマーが持つべき機能は存在しないだろう。坂口は、初めて自分の親友が羨ましくなった。ギターに関しては、始まってから、全く弾いてないので、腕のほどはまったくわからない。最後、ずっとぬいぐるみかと思っていたが、イルカも演奏に参加している。

「あ、違うあれシャチだ」

 イルカの近縁であることに変わりは、ない。

 マシンガンの姿をした、しかし異なる人格が宿っているそれは、名をハンダあさり、と言うらしかった。桂がそう呼んでいた。なんと、見事なふりふりダンスを披露している。切れがいい。踊りも立派な演奏である。そういうことにしておこう。 

 そして、坂口は、なぜ「地球様」などと、自分が口にしたのか、不気味さが脳内で駆け巡っている様子だった。

 -

「どういうことか、な。兎瓦けいよ_。世の中、不思議なことばかりだ。そう、思わないか?わたしの意識は、お前たちと、現代を、共に生活している、お前らが鯨類と呼ぶ動物の、仲間だ。だが、なのに別種である、お前らと言葉を交わしている。おかしいと思わないか?」

「だから、もう慣れたって」

「疑問に思え。扉は開かれんぞ?」

 マシンガンは、水の中に入り始めた。瞬時に群がる、歯の生えたワカメの群れ、「マシンガン、危ない!」サメが三匹、現れた。

「、、っと、そうだった」

 身体を半分、水に沈み始めたマシンガンはいるべき生息地、正しいジャンルに今還ろうとしている。けいは、何か感動を覚えた。だが、話はさせた。

「うん思う、思うから、何?で?」

「ああ」

 自分を囲む、サメ三匹(身体をほぼ全身浅瀬に乗り上げている。)、大きさは、マシンガンの数倍はある、いやおそらく5,6mは、ある見るからに凶暴そうなサメが、不可思議にも今、ミニサイズのシャチを守っているのだ。囲い込むような形で、ワカメをマシンガンに触れさせまいと、まさに壁と化している。マシンガンは気にも留めず、しゃべり始めた。

「さっき全ては音だと言った。そこから話そう」

 ペンギンがよちよちと森林から、現れた。意外なタイミングで、意外な場所から現れた。さっきと同じ個体らしい、腹に傷が、見えている。

 -

 坂口浄介は、考えていた_。何を、だろう彼自身解らない。本当になぜ、さっき、「地球様」などと口にしたのだ。なぜ。音が、止んだ。響き渡る、クラッシュシンバルの残響音。

 桂は、マイクを通さず、坂口浄介に一言、発した。

「カミオカまや様のことよ」 

 -

 マシンガンは、海からけいに話しかけている。 The Rolling Stonesも、彼の喉奥から、かかっている。波間が、沸き立ち、マシンガンの周りで、3つの水柱が立った。

「自治医大。小山。鹿沼」

 けいは、つぶやいた。今、4頭は、再び集っている。沸いて出た、とはこのことだろう。ところで、夕陽が眩しい。

「水は居心地がいいな、お前ら」

 3頭は、答えない。もぞもぞと、塩水の(感触と呼べるものかはわからないが)質感を楽しんでいるように、見えた。

 気のせいだろうか、身体が全員大きくなり始めている。けいは、自身の目をぬぐった。視界は特に、洗われはしなかった。やはり、大きくなっている。サメ三匹が消えた。襲いかかるワカメの群れ。自治医大だったシャチは、今体長9m。鋼のような筋肉により、制御、形成された尾、先の水かきで、向かい来るすべてのワカメを薙ぎ払った。ひるがえした水の着地点で、大きな飛沫が舞った。それは、4頭を覆い隠した。マシンガンの声がする。 The Rolling Stonesが止み始める。

「兎瓦けい」

「はい」

 けいは、真面目な顔で返した。

「我らは<オルカ>_。確か、キリンのときにも、我(われ)が口にした内容だな」

 大雨のようだった水しぶき、ぼたぼたと、今すべてが海面に、帰郷し巨大な鯨類、その姿が明らかになった。何mもある動物が、浅瀬でひしめき合っている。

 なかなかに圧巻だった。けいは、マシンガンの声を聞きながら、またべつのことを考え始めている。なにか、聞きたくない。知りたく、ない。

「この惑星は、ある一つの法則で成り立っている。真実とは、そう何個もあるものではない。Simple is guestとはお前らの言葉だな」

「それを言うなら、bestだべ?」

 マシンガンはなかったことにした。けいは、ちょっと安心した。マシンガンは続けた。けいは、聞くまいとごにょごにょ、一人でしゃべり始めた。

 けい「あのとき、私を追いかけたシャチ、あのシャチ、私知ってる、、、」

 マシンガン「反発×重力×音=時間。これが、この惑星たった一つの真実だ」

 けい「どこで。どこで私は見たんだべ。いや、会ったんだべ、、、」

 マシンガン「例えば、あのキリンが出現した経緯を考えて、照らし合わせてみよう。この公式にだ」

 けい「あ!水族館だ。水族館で昔会った、あの具合の悪そうなシャチ。絶対あいつだ」

 マシンガン「我々が言う<オレンジ>とは動物のことだ。なぜ、学校にオレンジ<<属、鬼女>>失礼、我々独自の分類だ。キリンが現れたのか」

 けい「昔、あいつの、顔についてた傷、あとでお母さんに聞いたんだけど、私、そこを舐めてあげたんだ」

 けいは、またぽたぽたと、泣き始めた。

マシンガン「確かめたわけではないが、あの学校のどこかに、キリンのお前らが魂と呼ぶもの、これが存在していたのだ。魂とは、知らぬかもしれぬな、酸素、炭素、そしてプロテインのことだ。総じてそれは上で言う反発を担当する、物質だ。小山が口にしたKansmarssとは反発のことだ。キリン、おそらく違う地であの時間、生きていたキリンのKansmarssが、何かの経緯で、お前の学校付近に入り込んだのだ。ついてこいよ?話を続けるぞ」

けい「、、、ち。うるせえなあ」

 けいは、全く聞いていなかった。

マシンガン「おそらくはフンか何かだろう。魂は、魂だ。まだ、キリンが出現するには至らない。キリンが姿を現すには、この魂がもう一つの物質と触れ合う必要性がある。それが体だ」

けい「、、、。ちなっちゃん元気かな。最近、彼氏にフラれそうになったんだーって話しよ」

マシンガン「体とは、鉄、塩素、マグネシウムのことだ。上の公式の中にある、音の担当だ。キリンの魂が、この三つのいずれかと融合し、動物<キリン>を、遠い地から、日本に全く同じ個体を呼び寄せたのだ。そばにいた仲間はびっくりしただろうな。突然仲間が消えてしまったのだから。もちろん、何もせず、魂が体と融合するはずはない。そこで、ギターだ。お前の知るあの、あれだ」

けい「、、、うるせえ。ああ、もうやだ。帰りたい。聞きたくない。ふつうがいい。お母さん」

マシンガン「時間が、すべての合計だ、と公式は述べている。だが、実はこの時間は左辺のあるものと全く同一の、具象なのだ。音だ。式を変換しよう。反発×重力×音=音 または 反発×重力×時間=時間 と、いうことだ。聴く音。これはこの世のすべてを統括する」

けい「、、、。、、、。っせえ、、、。っせえ」

マシンガン「キリンの魂とそばにあった体の基となる物質。この二つは、ある、特殊な音によって結びつけられた。我々はそれを、リズムと呼ぶ」

けい「せえ」

 -

「カミオカまや様が地球様よ」

 坂口浄介は深い眠りについた。

 -

 マシンガンは言った。

「少し休むか?」

 けいは答えた。

「せっかく聞いてたんだから、早く終わらしてよ」

 うそをついた。内容など何一つ記憶にとどめてはいない。マシンガンは言った。

「ETIATIAGXN(イシアシアガン)または、ETIAGXN(イシアガン)。意味は、音だ」

 は、とけいは顔上げた。なぜだろう。聞こうと思った。

「Kansmarss とEtiagxnを結びつけた、ギターにより発すられた音。これが、Jettoesを生み出した。重力だ。そして、お前らの言う、、、」

「「こころ」」

 けいとマシンガンは同じ言葉を口にした。けいは、すでに無意識のような思考レベルであった。

「そういうことだ。人類」

 マシンガンは更に話を続けた。

 -

「スティーブさんはさあ」

 洗い場で、ごしょごしょと食器を洗っているスティーブの背中に、声をかけた。

「普段、何してるヒト、、、なの? あ、ラッパーって言ったっけ」

「ラッパーだ」

 スティーブは、表情を変えずに言葉を放った。自分の職に誇りを持っているらしかった。

「ラッパーって難しい?」

「そうだなあ、、、。リズムとメッセージの神になれるガキのごっこだな。最高に」

 スティーブは振り向いた。 「クールな!God, what I live for all what I am supposed to do! 」

 いきなり英語を喋り始めた。 仁美は答えた。

「Is that it?」

 -

「心と重力はイコールであり、兎瓦けい。知っていたか、この目に見える全てのものは<心>なのだ」

「うん」

「我は心、その担当なのだ。 Jettoesその発生は、リズムを伴う」

「うん」

「キリンの魂と体は、ギターから発せられたリズムを飲み込み、心、キリンという姿を丸ごと召喚せしめたのだ。心は姿」

「こころは、、、すがた」

「そうだ。ただ疑問なのが、あの時、けい、お前は何も願っていなかったのに、ギターは勝手にキリンの発生を促した。それがおかしいのだ。いや、最初の犬公の件からおかしかった」

「うん」

「リズムは、その持ち主が心で願って初めて、効力をスタートさせる。言うまでもなく、ギターの持ち主はお前だ」

「うん」

「誰か、居たのだ。まあ、正体は割れているのだが」

「うん?」

 -

「坂口浄介くん。わたしとちょっと楽しいことしよっか~」

 -

「突然失礼致します」

 カメだった。仁美とスティーブは、同時に声を上げそうになったがこらえ、表情をすぐに戻し、スティーブは「よう」と言い、仁美は「こんにち、、は」と言った。

「通告です。わたしのサポート、ねくたが、ええ、先にスティーブさんには会ってますよね?」

「会ってねえよ?え、ああー!あのシャチのこと?お前が使えるって言った」

「そのシャチでございます。ねくた、と申します」


「あの者が来ます。よろしくお願いします」

 カメは消えた。忙しいらしかった。

「へ?」

 -

「まあ、いい。説明を続けるとだな、うーん」

 珍しく、疲れているようだった。けいはしかし距離を詰めた。

「それで?」

「ああ。それでだ。魂、心、体は、ちなみに目に見えるのは、大抵心だけだ。Jettoesだ。Kansmarss、Etiagxnは多くの場合、視覚で確認するのは難しい。音であるEtiagxnはしかし、聴覚で認識できる。反発のKansmarssは、感触つまり触覚だ。視覚できるのは心だ。ふぅー。それで、、、」

「ちょっとー疲れてんじゃない?私が残り説明するよ?」

 小山が隣りで、心配そうな声を上げた。

「頼む」 

「うん。えっとでね、けいちゃん」

「はい」

「そんな怖い顔しないでよ」 「はい」

 -

「ラッパーラッパーそうそう。聴いてみる? おれのラップ」

「いや、いいです」

 風が吹いた。

 -

「公園でサバの血から、出てきたシャチ、これの説明をするわね?」

「はい」

「怖い顔しないでって」

「はい」

「(笑。。。)えっと。あのシャチ、けいちゃん知ってるわね?」

「はい」

「まあ、それは私たちの突っ込むところじゃないわ」

「、、、」

「あれもキリンと似たような原理よ。あのサバを捕食したシャチの魂が、あの切り身の中に入ってたの」

「、、、。シャチが一回噛んだものを、スーパーで売られてたってことけ?」

「うん、おかしい?」

「どう考えても。そんなん痛んでるに決まってっぺ」

「じゃあ、いろいろおかしいわね。まあ、いいわ。続ける」

「はい」

「サバの中にある、塩分これを<体>にし、シャチの魂がそれと結びつき、公園にシャチを、同じ個体を呼び起こしたのよ。キリンにしてもそうだけど、体が、実際の動物と違う成分を使っているから、厳密には動物じゃないの」

「、、、????」

「だいじょうぶ?」

「でも、同じ個体なんだべ?」

「魂はね?ただ、体は公園で、サバの中から生まれたものを使っている。シャチじゃあないでしょう?サバは。だから、実際には存在しないはずの動物。でも魂はあなたの知っている彼」

「うん」

「、、、そしてね。ギターのリズムが、魂と体の化合を生み出し、公園の水たまりにシャチの心(姿)を生み出した。心は、その個体の欲望をつかさどる。重力とは、自身にそれを引き寄せる性質と同じように、ね。私が担当してるKansmarss反発は、わたしたちの感情や意志の大部分をコントロールしている。心、とはちょっと残酷なようだけど、欲しがる気持ち、それだけを指すの。意識は魂の中にあるの」

「べつに。残酷でもなんでもねえよ?」

「そう?人類は心を崇拝している、と聞いたから」

「わからんくもないけど、みんな本当はそんな余裕はないよ」

「そっか。うん。でね?暗くなっちゃったけども。えー。私、小山はね。その反発を担当している。この意味が解る?私たちの意識、感情は、他者を拒絶、反発することから成り立っている」

「その方が、残酷かもしれねえな」

「ね。でね。聞いてね、けいちゃん。話を戻すと、はっきり言ってね。敵がいるのよ、私たちには」

 -

「坂口くん、起きて」

 浜辺であった。振り返ると、標識には大洗と書いてある。地名のようだ。

 坂口浄介は今、来たこともない場所で目を覚ましている。

「なにい??」

 坂口浄介を、取り囲むように、さっきまで一緒にスタジオで話し合いを、していたメンバーが自分の顔を覗き込んでいた。皆、安心したようだった。

「よかったー」

 ふう、と安心するように桂は息を吐いた。何か、人物の印象がさっきと変わっている。手には、フランクフルトを持っていた。レノンは言った。 

「にしても、あれだよな」

 かやが答える、ツチノトも同時に答えた。

「「何が?」」

 レノンは、微妙に驚いて、口から言葉を吐いた。悪い、顔だった。

「あのシャチども。古代で元気かねえ。。。」

 -

「レノン。かや。ツチノト。桂。木村優美。求喰柚宇。ハンダあさり。カミオカジョウスケ。そして<地球>もとい<鈴音>、カミオカまや」

「うん」

「この9人が、我々の敵よ」

 -

 むしゃむしゃとフランクフルトを食べながら、桂は言った。

「浄介くん?」

 いきなり覆いかぶさってきた。

「へ!?」

 肩に、光る目とともに体重を、丸ごと、坂口浄介に預け坂口の腰に馬乗りになるような状態になった、桂。言った。浄介は、表情とは裏腹に喜んだ。

「あなたの名前ね。わたしたち惑星守護色期巫天(わくせいしゅごしきごみてん)全員の総元締め、リーダーの名前と同じなのよ」

「あい??」

 聞いていなかったことを、浄介は心の中で詫びた。

 -

「ところで、ギター。あれは普通のギターじゃない」

「はは、知ってる知ってる」

「あれはこの時代のあるシャチの声を、型取ったものなの。名をゆし」

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