カバとマシンガンと女の子(名前はけい)

「カバは、えー、実は非常に、えー、激しい気性を持っていましてですねー。これは、あまりよく知られてないんですがー」

「ちょっとテレビ、消してマシンガン。ふふ耳触りなのよ」

「おっけ~」

「はっはっはーマシンガン、だってっ!失礼しました、Kansmarssあさり様」「気にしない気にしない」

 喉に備え付けたテレビを、しまい込み、マシンガンは、ばば!と身を、ひるがえした。

「少しずつリアルが、かさが、あはははははははははははははははははははは」


 第6話


「責任、持てよ?」

 マシンガンと兎瓦けいは、外にいた。チュンチュン。朝の光は、緑を影と人々の声と、姿に弾み、街の静かな呼吸は、不可思議なムードをさらす2頭を、どこかあしらう様でもあった。だが、2頭は気にしない。なんと、この2者、昨日の夜、友達の家に泊まっていく、と言い残したまま、夜通し、宇都宮の街をぶらぶら、と歩きつづけたのだ。なぜ、職務質問を受けなかったのか、謎である。というよりも、見た目はただの女子高生である。連れているペットの現実も相まって、いろいろにおかしさを漂わせていた。

 交番にいた。やはりそういうことになっていたのである。

「自分の言動には、責任持てよ?子供じゃないんだから。なんでこんな時間帯まで、外を歩いてたんですか?」

 こっちも寝てねえんだよ的な、表情を刺すように突きつけながら、警察官は、けいに質問をしていた。

「えっと、、、えっと」

 交番の前には、アルコール飲料を売る、店があった。店の名前は、看板を見る限りは「ひなた」である。


 一億。この数、確かな実感として想像ができるだろう、、、はずはなかった!!

「一億曲ぅ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?そんなもん、メジャーデビューする前にさあ!人生終わっちゃうよ」

 目の前のコップを、声量で割らんばかりの勢いで、否を申し立てるのは、一人の、少年だった。メジャーデビューなどという言葉を、持ってくる、それに対して、何か思案を巡らせるのは、まだ早すぎる歳に見えた。

 おそらく、ほんの16歳程度の高校生か、中学生だろう。

 前には、丸いテーブルを挟んで、女の子がいた。返事を冷静に開始する。目を、少年と合わそうとはしなかった。

「無理なら、解散ね。わたし以外のギター見つけてね~」

 少年は、な、と言った。おそらく、少年が言ったつもりになった程度の小さい「な」だった。

「な!」

 今度は大きい、な、だった。

「ちょっとさあ!おかしいだろうさあ!なんなんだよそれえ!?」

「そんな、ただまくし立てられても、何を答えればいいの?」

「フェアじゃねえ!!」

 ダン。

 大きな、薔薇の室内花壇のようなものを、配置した少し、高めそうな喫茶店にて、そうひと気も多くない店内で、二人は他のお客を静まりかえらせてしまった。 

 ちゃぶ台返しでもするのかなあ、と呑気に構える向かいの女の子は、ただ、少年の顔をみた。

「悪いけど、冗談じゃないから」

 見つめたのは、太陽だった。フラれた、好きな子に告白を拒否されたような、暗い表情で、少年は店を出ていた。もう、彼女とは、会うことはなかった。独りごちた。

「また、変人。。。」

 少年は、手に持った怪しげな名簿にチェックを入れた。

 線を引いたのは、ある人間の名前の上だった。松雪香。さきほど、話をした、彼女だった。

 となりには、年齢が書いてある。19歳。少年より年上だった。

「あーあ」

 少年は変化を遂げた。少年は人外の存在だった。瞬く間に、小さい虫に変貌してしまった。

 近くの池に、ぽちゃり、と落ちたごみのように身を、まるでマイホームかのように、迷いもなく入っていった。少年の種類は、タイコウチといった。他の虫を捕食する、大胆なハンターである。

 水面に波紋が広がり、そこにかぶさる恰好の長めの雑草は、一匹の別の虫を宿していた。

 カマキリだった。

「レノン!」

「あ?」

 カマキリに呼ばれ、即座に水面に顔を出したタイコウチ少年は、すっとんきょうな返事を上げた。少年、名をレノンといった。カマキリは、かや、である。

「どうした、かや」

「そっちがどうした?どうだった?」

「どうもこうも!」

 少年は、くるりと飛沫を上げた。

「最低だよ、今まででな!」

 -

「 うぬぼれろ財産だ。だが、やるなら自分を鏡で見るヒマのない、くらいとことんな」

 一体何を言ってるんだろう、こいつは、という目で、レノンは、女の子に見られていた。

 シチュエーションを紹介しよう。

「ところであなた、名前は何ていうの!?」

 何か汚いものを、見るような目にまで、表情を武器化させた女の子は、しゃべり始めた。

「レノンだ」

「レノンくん!あのっさあ!この、風に、なりませんかとかいうキャッチコピーも意味わかんないし、こっちだってヒマじゃないんだから、本当に、あたしとスムースジャズやる気があるのか、はっきりしてくんない!?」「ジャンルは問題じゃない」

「もう!なんなの、こいつ!いいよ、わけわかんない!」

 こともあろうか、ついさっき松雪香と時間を共にした、まったく同じ店で、今度は別の女の子とレノンは話し込んでいた。

「あたしとやる気ないのね!?」

「今考えてるところだ!ちょっと待ってほしい!」

「一週間待ったよ!ってか、まだ互いの音も聞かずに、こうして、そっちが意味不明な質問するだけで、もう~~~っ、、、」

 女の子は、おそらくキレていた。レノンは、冷静だった。

「その前に、お前の魂の色を知る必要が」「おっけ」

 女の子は、席を立った。もう二度と会うことはなかった。

 中空を見つめ、レノンはつぶやいた。

「、、、あるんだ」

 言葉の続きだったが、誰も聴くものは居なかった。

「このまま続けたって埒があかない、と思うよ?」

 レノンは声を、かけられた。

 レノンに声をかけた主は、しかし、別の誰かと会話を始めた。

「もしもし。ちょっと、ツチノト。回線繋げて。うん、あたしに。うん、、、いいよ、待つから。、、、平気?ありがと。」

 レノンは立ち尽くした。ここは、歩道橋の上である。

「(シロナガスクジラBalaenoptera musculus発見!コピー?>こちら、尼李柚宇(あまりいゆう)!えー、コピーシロナガスクジラ!数は?>およそ10頭!!!!!!!!)、、、間に合うかなあ、、、」

「おい、コラ、かや、話しかけといて無視か、虫だけに!」 

 しかし、かや、と名を、呼ばれたのは虫ではなかった。人間であった。

「つまんね!」

「おもしれえだろ!おい、お前何しにおれにストーカーしに来たんだよ!」

「失礼な!」

「がっはっは!うそうそ、わり今回もダメだったわ」

「そうだろうね」

「やっぱきついなあ」

 ふう、とかやはため息をついた。

「そうねえ!、、、」

 言いかけたかやを、レノンが邪魔した。見た目は、レノンと同じくらいの年齢。金髪の、どこか異世界的な表情の配りと、底抜けに明るそうな声を同時に持った女の子が、レノンに迫られた。レノンは、かやにキスをした。にんまりと笑うレノンは、一歩下がり、かやの目を見ずに、叫んだ。

「かや!おれと、組もうぜ!」

「あったぼうよ」

 瞬時に答えたかやは、歩道橋を降りるレノンを自分のペースで追いかけた。

 向こう側には、もう一人、二人を視界に入れながら、それでもある程度の距離を取ろうとしている様子で、近付いてくる、人影があった。この男、名を「ツチノト」といった。

 二人の知り合いだった。

 -

 歩き出したのは、三人だけでは、なかった。 交番から出た、桂(マシンガン付き)の姿が、ちょうど通りの向こう側に。お互いに、存在を確認し、レノンは手を、上げた。

 合流した、不思議な、4人とシャチは、近くのパン屋に滑るように、スムーズに、一言も交わさず入って行った。

 バンドの名前は、「ユウホドウ」といった。

 話し合った結果では、なく、5者の脳裏に、同時に浮んだ言葉だった。

 彼らは、もう一度言う、人外の存在だった。

  -

「マシンガン!ちょ!どうした!?なんでおめ、、、!花になってんだ?」

 マシンガンは、泣きそうだった。

「おおい!おおいって!返事しろ」

 マシンガンは、泣いていた。

「わかるな」

 マシンガンは心の中で、ちゃんとしっかり返事をしていた。

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