第4話

目があうと、まばたきもせずみつめてくる。正面から見るのは、それがはじめてのことだった。



その目は、すこし潤んでいるようにみえた。泣いたわけではないだろう。すごくきれいな瞳だった。化粧をしているわけでもない。生まれながらもったものだろうか。




心臓が、鼓動を速めていた。



「…おれは蒼井龍。あんたはカザネっていったよな。きれいな名前だけど、どんな字をかくんだ」




それを聞かれるとは思わなかったのか、すこし表情をとめて…それからうれしそうに口を開いた。



「……風の音ってかいて風音。きれいだっていわれたのははじめてだったから、ちょっとびっくりした。ありがとう」



風音は、ゆっくりとしたリズムで話した。トーンはちょっと高いくらいで凛としている。アナウンスがなって、電車の速度おちていく。




「櫻井さん。アドレス交換しようよ」



それまで黙っていたアキトは、スライド式の携帯を顔の横でゆらしながらいった。風音はそこでにっこりと笑っていう。無邪気な笑顔だった。

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