稀代の画家と蒐集家、二人の対話と言葉の物語

美術収集家の松方幸次郎と、画家のクロード・モネが、第一次世界大戦下のパリ郊外にて、相まみえたかもしれない。本作は、そんなifの世界を描いたヒューマンドラマ短編です。

西洋美術を日本に持ち帰り、美術を志す者たちに見せたいという夢を持つ幸次郎は、モネの画(え)を自分用に譲ってもらえないかと持ち掛けます。
対するモネは、幸次郎に意外な勝負を持ち掛けます。若き日に見たとある画に、なぜ自分が感銘を受けたのか、考えてほしい――と。

人は、なぜ、芸術作品に心を揺さぶられるのでしょうか。全貌を視覚で捉える「画」は、言葉を大きく飛び越えて、鑑賞者の胸に届きます。そんな感動を、言葉で丁寧に繙いていく文章は、非常に真摯な筆致で綴られていて、芸術や創り手に対する畏敬の念を感じました。

モネの問いに、幸次郎は答えを出せるのか。稀代の画家の絵を、手に入れることができるのか。二人の対話の行方を、ぜひ見届けていただければと思います。

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