05.


「多分、嫌だったんだ。面倒なことに巻き込まれたって、思ってた」

「うん」

「けど、島田しまだの告白を聞いてからさあ……むしろ、柳之介りゅうのすけの告白って、本当に本気だったんだ、って、現実味がわいてきて」

「それって、つまり?」

「そっくりだったんだよ。照れ方とか、好きになった理由とか……あー、この一言を言うために、めちゃくちゃ勇気出してくれたんだなーって感じが。……多分、島田と同じくらい、柳之介は俺のこと好きなんだと思うよ」

「うん」

「……羽菜はなさんは、性別が理由で嫌になることなんて、いくらでもあるって言ってくれたけど。好きじゃないものを、無理して好きになる必要はないって言ってたけど……」

「……うん」

「俺の好み一つでさ、こんな、簡単に……片方を、ないがしろにしようとしてるんだと思うと、すごく、申し訳なくて……」

「うん……そっか」

「…………」


 それ以上は、言葉にならなかった。


 当たり前のように存在する好き嫌いが、あまりにも、重たくて。

 今も心のどこかで、柳之介が告白さえしなければよかったのにと思っている。雄太ゆうたが「それはおかしいよ」と言ってくれてたら、気が楽だったのにと。男性とも女性とも恋ができる鏡子きょうこさんは、おかしく感じて。男性と恋ができない羽菜さんという女性を、自分にとって心から残念な人だと、思っていて。


 申し訳ない。

 申し訳ない。


 みんな自分を好いてくれたのに、その俺自身が、人間として小さすぎるから。


「あんまり気に病むなよ」


 不意に雄太がそう言った。

 ポテトをつまむ手を止めて、俺を見て。


「柳之介の母ちゃんの言うとおり、好きなものだけ、好きになればいいと思うよ。賢治けんじが好きになれないものはさ、別のやつが好きになってくれると思うから」

「…………」

「柳之介だってそりゃ、ちょっとショックかもしれないけど。賢治にフラれたからって、それで何もかもだめになっちゃうような、ヤワなやつじゃないよ。絶対」

「……ああ」

「大丈夫だよ。たくさん悩んだだろ。だからもう、いいんだよ」

「…………」




 日曜日。


「賢治さん!」

「よ、よう。柳之介」


 マンションの前にいると、柳之介が中からぱたぱたやってきた。

 最初は緊張した待ち合わせも段々慣れてきて、周りの人に見られたらどう思われるのかという不安も、今じゃ顔を出さなくなった。思いのほか周りの人たちは、俺たちのことなどお構いなしで、だけどわざと無視しているようにも思えた。

 わざと、触れないように。

 今までの、俺のように。


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