迷って泣いてる暇はない。道は自分で探す。
- ★★★ Excellent!!!
ボルダリングは少し奇妙なところがあるスポーツです。壁を上まで登ればいいことは決まっていますが、途中の経路が指定されていません。というより足を掛けたり掴んだりする器具「ホールド」を選ぶ選択眼が技術の一つとなるように競技のルールが設計されています。
そこに経路選択を助言するオブザーバー、ラリーなどの自動車競技で言えばナビゲーターにあたる人物を加えると、どうなるか?
道を選ぶ人を、選ぶ。その選択眼が問われます。オブザーバーを選んだ時点で競技中に選べる道が決まります。どのような人を選ぶか。信頼するか。その眼が問われます。
出場選手はいずれも重い過去を抱えています。それは心中に傷として残っています。しかし「経験値」も得ました。辛いことがあったから、それを乗り越えようと足掻くために、経験で得た教訓を胸にペアの相手を選びます。相手を選んだら、あとは信じて進むのです。
道に迷って泣いていれば、落下はしませんが、置いていかれます。「生き残る」のではなく「勝つ」ことを目指すのです。それがスポーツ競技です。競技に臨むなら泣いている暇はありません。道は自分で探します。そして、最後の最後に道を選ぶ人を選ぶため、時間をかけて人を選ぶのです。
本作の作者様は、テンプレに沿わない設定と物語でありながら、各種ラノベ新人賞の上位選考にて常連である人です。作者自身が自分で道を模索してきた人です。作者の人生観が前面に表れています。
フィールドは広く、障害もあります。そこで進む道を選ぶのは自分。
読むと心に火が着きます。