第46話 配信事務所に突撃
大学で超々緊急会議があった翌日。
俺はリビングでノートパソコンを使って、配信事務所マフティのことを調べていた。
「思ったより情報が乗ってないな。配信者ならいくらでも出て来るけど」
マフティは配信事務所では世界最大手で有名なVtuberなどが多く所属している。
なので所属している人なら生身もVも含めて、情報はいくらでもあった。
だがマフティ自体の情報はそこまで多くない。
この会社自体の企業理念が『配信者が主役』みたいで、あまり表に出てこないからな。
俺もマフティという配信事務所の名前は頻繁に聞くが、実体とかはあまり詳しくない。
なのでちゃんと調べてみたら以下のことが分かった。
1.マフティは配信業以外にも色々とやっていて、元会社は海外でもかなり有名であること。
2.配信者への補償が厚い。例えばVtuberなら円満引退後は、演者が名前を公表することも許される。
3.社長の名前が『大宮司 亮』という名前であり、本社は大阪の
社長の名前がカッコイイな。なんかやり手の実業家って感じで、スマートな若手男社長をイメージさせる。
実際マフティは短期間で大成長を遂げているので、その社長なら間違いなくエリートのやり手なのだが。羨ましい。
結論を言うとマフティは悪い会社ではないと思う。
配信者を厚遇することで面白い人に所属してもらって、それでより稼ぐというスタイルだからだ。
Vtuber事務所には酷いところもあるからな。演者をコマみたいに扱って潰すところとか。
なので俺というかフライマンが所属しても、そんなに悪い扱いは受けないのではなかろうか。
だがネットでの評判は完全に信用できるものではない。それに俺の判断が間違っている可能性もある。
なのでここは信用できる人物に相談してみようと思う。
スマホを取り出してエリカさんに電話をかけてみると。
「高梨さん! どうされました?」
少しテンションが高いエリカさんの声。
「フライマンが配信事務所のマフティに募集されてるじゃないですか。あれに行ってみるか迷っているのですがどう思われます? ほら一般人の俺よりもそういうのに詳しいかなと」
『高梨さんが一般人なら、この世に一般人は存在しない気がしますけど……』
いやいや。俺なんてちょっと魔法が使えて、巨大ゴブリンを蹴りで殺せて、異世界に転移できる程度の人間だ。
……言われてみれば確かにそうかも。客観的に見て少なくとも一般人ではないなあ。
『ええと。マフティはいい事務所ですよ。私の知り合いがVtuberの中の人で所属してますが、かなりいい条件で仕事出来ているそうです。配信者を大切にしてくれる事務所です』
「ふむふむ」
『なので高梨さんがもし配信者になるなら、おススメの事務所ではありますね。配信者になるつもりなんですか? 高梨さんの正体がバレたら面倒ごとになりそうな気も……』
エリカさんの心配そうな声が聞こえる。
魔法が使える人間なんて下手したら研究対象だもんなあ。
それに有名になることはデメリットも生まれる。
それこそエリカさんは変な厄介勢に付きまとわれてたし。
「なるかは考え中です。ただ仮に配信者になっても正体はばらさないで、フライマンとして活動するつもりですが」
『その方がいいと思いますよ。高梨さんなら絶対に注目を浴びるでしょうから』
「ありがとうございます。すみません、急に電話してしまって」
『いえいえ! いつもお世話になってますし、もっと頼って欲しいです! こんなことならいくらでも答えますので、いつでも電話してきてください!』
ということでエリカさんとの通話を終えた。
そして俺はミラージュ・クロークを着こんでから、転移魔法を発動して大阪の
ちなみに転移先はビルとビルの間の路地裏だ。ここなら人気もないしな。
それにミラージュ・クロークさえ着ておけば、最悪転移魔法が見られても問題ない。正体はバレないしな。
路地裏を出るとオフィス街で、高層ビルがいくつも並んでいる。
夢渡市はかなり都会だし土地も高いのに、マフティは専用の自社ビルを持っているらしい。
ちなみにこの辺に巨大ゴブリンが現れていたらしく、小さなビルがひとつ半壊していた。
もう少し早く召喚して倒していればよかったな……死人は出ていないらしいのが幸いか。
俺はスマホで地図を見ながら、マフティ本社ビルへと向かっている。
そして到着したのはいいのだが、ビルの入り口には人だかりが出来ていた。
なにかイベントでもやってるのかな? と聞き耳を立ててみると。
「俺がフライマンだ! 入れてくれー!」
「いや俺こそがフライマンだっ! マフティに所属させてくれっ!」
「俺はフライマンの弟です! 生き別れの兄さんと会わせてくださいっ!」
「フライマンの親族です! 通してください!」
……偽フライマン(+アルファ)がいっぱいいた。
フライマン募集で雇ってもらいたいのが大勢来ているのか。
まあ最大手配信事務所な上に、配信者への補償も厚いとなれば所属したい者も出て来るか。
ただ仮に嘘をついて所属出来たとしても、すぐにメッキが剥がれると思うのだが。
飛べないフライマンってただのマンじゃん。
フライマンを名乗るなら空を飛んでこようよと思ってしまう。
それによく見たらビルの周囲には、カメラを立ててる人が大勢いる。
しかもかなりお高そうなカメラで、ビルの最上階に向けられている。なんでだ?
「おいそこのお前! そこで突っ立ってると邪魔だ! フライマンが来た時にノイズになるだろ! もしお前のせいで動画PVが落ちたらどうしてくれるんだ! ボケがっ!」
すると後ろの方から声をかけられてしまった。
「え? あ、すみません」
慌ててカメラの範囲からズレるように右に動いた。
でもボケとか言われるほどの筋合いはないのだが。
「チッ、邪魔なんだよゴミが! フライマンの映像が完璧に撮れたら、俺の知名度も上がるんだからな。ああ、フライマン早く来てくれ!」
男は舌打ちしてきた。なんだこいつ嫌な奴だな。
しかし周囲のカメラを持った人たちを見てもすごく真剣な顔だ。
もしかしてカメラを立ててる人たちって、みんなフライマンを撮ろうとしているのか?
でもよく考えたらおかしな話じゃない。
なにせ部長が雑に撮った低画質フライマン配信ですら、大金が転がり込んできたのだ。
高性能のカメラでバッチリ撮れたらPVマネーも稼げそうだ。
それにSNSで投稿すればバズる可能性もあるし、そう思えばこれだけの人が集まるのも道理か。
……ここで俺が正体明かすように飛んだらどうなるんだろう?
ふとやってみたい衝動に駆られてしまった。
「あー喉渇いたな。ちょっと飲み物買って来るか」
するとさっき「クソが」と言ってきた奴が、どこかに走り去っていく。
……あいつ、態度悪かったよな。舌打ちまでされて正直不快だった。
――今の間にやってやろうかな!
俺は風魔法を発動してフワリと身体を浮かせていく。
すると周囲の人たちがそんな俺に気づいて。
「う、浮いてる……ふ、フライマンだっ! フライマンが出たぞおおおお!?」
そんな幽霊やお化けみたいに言わないで欲しい。
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