第19話 ゲームアイテムを送ろう


 俺たちは無事にファミレスで注文に成功して、料理が来るのを待っている。

 ファミレスで注文に成功というのもおかしな話だが、さっきの件があるので仕方ない。


「そういえばあの不審者三人、身元とかもまったく分からないのですか?」


 さっきはアナウンスのせいで話が流れてしまったが、不審者三人組はまだ捕まっていないのだ。

 エリカさんは変装して外に出ているが、それでもきっと怖いだろうし。


「残念ながら……実は外に出るとたまに怖くて……」


 やはり三人組に襲われたことは少しトラウマになっているようだ。

 そりゃそうだよな。歩いてたら包丁を持って脅されたとか、怖いに決まっている。


 ……これは俺も悪いな。あの時、あいつらを捕まえられたらよかったのだが。


「すみません。あの時にあいつらを捕縛できていれば……」

「いえいえ! 高梨さんは悪くありませんよ! あの三人が全部悪いんです!」


 エリカさんはそう言ってくれるが、やはり逃がしてはいけなかった。

 あの時、ウインドバレットを強めに撃てば、あの三人を確実に逃がさなかった。


 だが手加減に自信がなくて、最悪殺しかねないからと見逃してしまった。

 人を殺すのはダメだ。でもその結果としてエリカさんの安全が脅かされている。


 ……次にこんなことがあれば今度は絶対に逃がさない。

 もっと魔法の練習もしておこう。

 

「よかったらこれを貰って頂けませんか?」


 俺は懐に入れていた『癒しのロザリオ』や、腕につけていた『鎧のお守り』を外してテーブルに置く。


「ええと。それってもしかしてマジブレの『癒しのロザリオ』に『鎧のお守り』じゃないですか?」


 どうやらエリカさんも知っているようだ。それなら話は早い。


「そうです。どちらもゲーム通りの効果がありますので、二つとも差し上げますよ」


 どちらもそこまで惜しいアイテムではない。

 俺はベルセリオンの防御力を持っているし、それにマジブレには結界魔法がある。


 それを使えるようになればいいだけなのだから。

 そして癒しのロザリオに至っては、コレクター的に購入しただけだ。俺は回復魔法があるから不要だし。


「そ、そんなに凄そうなモノ、頂けませんよ!」

「不審者たちがまた襲ってくる可能性もあります。もし不意に包丁で刺されたらどうにもなりません。でも鎧のお守りがあれば三回まで防げますし、最悪刺されても癒しのロザリオで治癒できます。あと少し声を小さくしてもらえればと」


 傍から聞いたらゲームの話題にしか思えないだろうが、騒いでいると悪目立ちしかねない。


 癒しのロザリオを使うとなると、鎧のお守りを使い切った後だろう。四回も刺されるという最悪を想像したくはないけど。


「す、すみません。お気持ちは嬉しいのですが、そんな魔法の道具をもらって私はなにで返せば……」

「ファンからのプレゼント、ってことではダメですか?」

「ダメです。仮に知り合いから千万円の宝石が渡されたとして、高梨さんは素直に受け取りますか?」


 流石にそんな高価なモノは受け取れないか。

 マジブレの魔法の道具って、日本での価値なら千万円以上だろうし。


 だが俺としても不審者を逃した負い目があるので、受け取ってもらわないと困る。


「じゃあこうしましょう。その二つは貸すことにします」

「貸す、ですか?」

「はい。両方とも使ったらなくなるタイプなので、逆に言えば未使用なら価値は落ちません。なのでしばらく貸しますので、不要になったら返してください」


 我ながらナイスアイデアだ。

 これならエリカさんに無料で渡しておける。


 そもそも腕輪もロザリオも使わないにこしたことはない。

 もし使わざるを得ないことになったならば、渡しておいてよかったという話になる。


「で、でも……借りるにしても対価は必要だと思います」

「そうですね。ならたまに食事を奢ってもらえますか? 一か月に一度、いや三か月、半年に一度でもいいですので」


 これは仕方ない提案なんだ。

 決してエリカさんとたまに話す機会が欲しいからじゃないんだ。


 彼女が俺に罪悪感を抱かないようにする方便であってだな。


「それはむしろ私の方からお願い……い、いえなんでもありません。わかりました。ならお言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます」


 エリカさんは俺からロザリオと腕輪を受け取ると、さっそく腕輪を腕につけた。

 すると腕輪はキュッと閉まって、彼女の腕にベストフィットする。


 流石は魔法の道具だなあ。

 ……腰のベルトとかもサイズ調整できないかな? 今度ミーシャさんに相談してみるか。


 さてひとまずエリカさんの外出時に関しては、ある程度安全にはなっただろう。

 だがまだ懸念があるのでそちらも解決したい。


 ……ただすごく聞きづらいというか、普通なら絶対に許されないことを尋ねないとダメなのだが。


「それとですね。もうひとつ提案があるのですがよいでしょうか?」

「なんでしょうか?」

「エリカさんの自宅回りですが、不審者が寄り付かないように結界を張りたいと思っています。あの不審者たちに家がバレていたら、なにをしてくるか分かりませんから」


 包丁を持って襲ってくるような不審者だ。

 家に押し入ってきたり、火をつけるなんて可能性もあるかもしれない。


 マジブレには結界を張れる魔法がある。

 この結界は守る対象に対して、悪意や敵意がある者を弾くのだ。


 しかも術者は悪意ある者が触ったことが分かるから、ものすごく使い勝手のいい魔法である。


 結界魔法は現状の俺では使えない。だがゲームのベルセリオンは覚えていた。


 なら練習すれば使用可能になると踏んでいる。最悪、結界を張るアイテムがあるのでそちらをゲーム世界で探してもいい。


 あの不審者たちは明らかにヤバイ奴らだった。用心しすぎるくらいでちょうどいい。


「け、結界ですか?」

「はい。ただ私に自宅を教えることになるので、嫌でなければの話になるのですが……嫌なら本当に断ってくださいね?」


 声優の自宅の場所を聞くとかどう考えてもアウトだろう。

 普通なら絶対に許されない所業だし、普通じゃなくてもダメだと思う。


 だがあの不審者たちがエリカさんの自宅を知っていた場合を考えると、そんなことを言っている場合ではない。対策しておくべきだ。

 

「い、嫌というわけではありません! むしろすごく助かります! 助かるのですが……流石にそこまでしてもらうわけには……」


 どうしよう。

 これが暗に俺に家を教えたくないからか、それとも本当に遠慮しているのか分からない。


 こういうのって面と向かってだと断りづらいよな。ならば、


「私にとってはものすごく簡単なことなのと、もし万が一があった場合に後悔するので問題ありません。ただ私に自宅を教えるリスクもありますし、解散してからスマホにお返事頂ければ。もちろん断ってもらって大丈夫ですので」


 後でスマホに連絡してもらうことにしよう。

 これなら本当に嫌だったら断ってくれるはずだ、たぶん。


 するとエリカさんは申し訳なさそうに頭を下げて来た。


「……本当にお気遣い頂いてありがとうございます。もしご迷惑でなければ、ぜひお願いしたいです。最近はあまり眠れていなくて」


 どうやら遠慮の方だったようだ。


「わかりました。ただ本当に申し訳ないのですが、今日は準備が出来ないので厳しいです。明日でもよろしいでしょうか……?」

「も、もちろんです! 私はなにか言える立場ではありませんので……」


 そうして話は終わって俺たちは解散した。

 さて……急いでゲーム世界に転移して、結界魔法の練習をしないと。


 今夜は徹夜だな。

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