第17話 ゲーム世界で無双したいよね


 俺とミーシャさんは広い草原にやってきていた。

 ここは希望の草原だ。マジブレでは前半に訪れるステージで、それなりくらいの魔物が出現する。


 遠くにはちょくちょく魔物が歩いているのが見える。スライム、ゴブリンなどの弱いやつばかりだが。


「ここで魔法の練習をするのですか?」

「はい。村だと危ないですから」


 ミーシャさんの返答に軽く笑って頷く。

 俺がこれからしたいのは魔法の練習だ。


 日本ですればいいって? 残念ながら狭いし人の多い日本では、使える魔法がほとんどないのだ。


 思い出して欲しい。今まで俺が使って来た魔法も、基本的に殺傷能力の低そうな風魔法だ。


 しかも攻撃魔法は初級のウインドバレットしか練習していない。

 初級でもコンクリートの壁くらい破壊できそうだったので、それ以上の魔法は日本だと練習すら危ないのだ。


 海に向かってぶっ放すのも考えたが、漁師の人に迷惑がかかる恐れもある。

 それに誰かに見られていたらややこしいことになる。


 だがゲーム世界なら魔法を使っても目立たないし、日本に比べれば土地も余っている。

 特に魔物が出て来る周辺は危険なので人は寄り付かない設定だ。


 なので安心して魔法の練習ができるというわけだ。

 ついでに余裕があれば魔物も倒せるか試してみて、今の自分の強さもある程度は把握したい。


「じゃあまずはウインドトーネードを使ってみますね」


 念のためにミーシャさんに宣言しつつ、魔力を体内に練り始めた。

 実は風魔法に関しては、他の魔法もなんとなく使えそうな感じがしている。


 今までずっと風魔法を使ってきたからだろうか。風を操るということに強いイメージを持てるのだ。


「風の中級魔法であるウインドトーネードが使えるのですか? 流石はユウキさんですね」


 ミーシャさんが褒めてくれる。


 さてウインドトーネードは風の中級魔法だ。人の高さほどの風の竜巻を起こして、敵を飲み込んでから風の刃で切り刻む魔法だ。


 もし日本ならかなり魔力を制限して撃つ必要があるが、ここならば全力で放っても大丈夫だろう。


「逆巻く風の刃よ、輪転せよ。ウインドトーネード!」


 すると俺の目の前に竜巻が現れた。

 だがかなり大きい。日本の平均的な一軒家を飲み込むくらいで、マジブレの大きさとはまるで違う……。


「あ、あのユウキさん。ウインドトーネードってこんなに大きくないですよ!? せいぜい人を飲み込むくらいですよ!?」


 ミーシャさんも驚いているので、普通より数倍大きいっぽい。俺の知力の高さが原因なのだろう。


 まあチートキャラの能力を持ってるからな、俺。

 すると遠目にいた魔物たちが、俺から逃げるように離れていくのが見えた。


 その中にレアモンスターであるゴールデンスライムがいた。

 ゴールデンスライムは一定確率で黄金を落とす。この世界でもどうなるか気になるし狩りたい……。


 そう思った瞬間、ウインドトーネード君が蠢きだした。

 逃げるゴールデンスライム目掛けて、巨大な竜巻が猛進していく。


 そしてゴールデンスライムと、ついでに周囲にいた魔物も十体ほど飲み込んでしまった。


 ちなみに魔物は何種類かいる。オーガが数匹。それに頭にツノを生やしたクマであるハザードベアや、緑の小人なゴブリンなども一緒にだ。


 魔物たちは空に巻き上げられてスパスパと切断されて、まるでプラモデルかのように身体が切り裂かれていく。


 む、むごい……そして粒子となって消えていき、代わりにアイテムっぽいものが地面に落ちていく。なんか遺品みたい……。


 そしてウインドトーネードは空気に溶けるように消えていった。

 なんとなく空気が澄んだ気がする。台風一過だろう。


 マジブレでは魔物を倒すと魔素になり、たまに魔素が変質してドロップアイテムになる設定だったはず。


 ゲーム的な都合での設定だったが、この世界でもそうなのだろうか。

 

「ミーシャさん。魔物は倒すと魔素の粒子となって消えて、たまにアイテムになるのですか?」

「は、はい。その通りです。ところで……倒した魔物のアイテム、集めなくていいのですか?」

「あ、そうですね。ちょっと待っててくださいますか?」

「私も手伝いますよ」

「いえいえ。俺が巻き起こした惨劇なので自分でやります……」


 そうだった。魔物たちの落とした遺品ドロップアイテムを拾ってやらないと。


 俺は台風が過ぎ去った跡地まで走って、落ちているアイテムを拾っていく。

 ポーション、骨、スライム欠片、骨、骨……骨ばっかりじゃん。


 なんか遺骨拾ってるみたいになってきた。マジブレ内では骨は錬金素材とかに使えるのだが、実物は特に欲しくないなあ。


 すると草原に似つかわしくない、キラキラと輝く黄金のインゴットが落ちている。

 や、やった! ゴールデンスライムがドロップしてくれた!


 するとステータスが表示される。


【黄金のインゴット】・・・純金の塊。この輝きに目がくらむ者は多い。


 純金確定だ! これを日本に持ち帰れば数十万の価値になるんじゃないか!?

 もはや他のドロップアイテムには目もくれず、俺は黄金に向けて走っていく。


 すると少し離れた場所にいたミーシャさんの声が聞こえた。

 なにか言ってる気がする。なんだろう、耳を澄ましてみると。

 

「ユウキさん! 後ろ! 後ろです!」


 後ろ? と思って振り向く。

 ――すると鎧を着こんだ首無し騎士が、俺に対して剣を振りかぶっていた。


「なあっ!?」


 首無し騎士は俺に対して剣を振り下ろしてくる!? 魔法、ダメだ間に合わない!?

  

 俺は咄嗟に身を護るように、右腕を突き出して防御しようとした。

 だが当然だが鉄の剣相手に、人の腕など歯が立つはずもない。


 ガギィィィィィィィン!!!!!


 剣に斬られた俺の右腕は、真っ二つに切り裂かれ……なかった。

 なんか鉄みたいな鈍い音がして、俺の右腕はデュラハンの剣を受け止める。


 ――そして何故か、デュラハンの剣が半ばからへし折れた。


「ドゥオオオオオオ!?!?!?!?」


 デュラハンが不気味な咆哮を上げながら、自分の折れた剣を困惑して見つめている。

 それとともにデュラハンのステータスが出現した。



『エリートデュラハン』

レベル:20

MP:100

攻撃力:150

防御力:150

知力:100

スキル:【無音の騎士】


【無音の騎士】・・・相手への不意打ち成功率上昇(小)



 なるほど。スキルのせいで不意打ちを喰らったんだな。

 決して俺が黄金に目がくらんだわけではない。


 しかし鉄剣を生身で受け止めたばかりか、相手の剣の方がへし折れたぞ。

 俺ってステータス上は防御力もかなり高いけど、実際も本当にそうなのか?


 もはや目の前のデュラハンはまったく怖くないし……試してみるか。

 勢いよく横蹴りをしてみると、なんとデュラハンの金属鎧の腹部分を蹴り砕いてしまった。


「デュオォォォォォォォォ……!?」


 デュラハンは悲鳴とともに魔素の粒子になっていく。

 マジか。金属鎧を蹴りで砕けるとかヤバイだろ……魔法だけじゃなくて生身も化け物じゃん。


 するとミーシャさんがすごい勢いで駆け寄ってきて、俺の右腕を手に取った。


「ゆ、ユウキさん!? 大丈夫ですか!? お怪我は!?」

「大丈夫です。無傷です」

「でゅ、デュラハンに斬られたように見えたのですが……!?」

「あはは。ちょっと身体が硬くて助かりました」

「ちょっとってレベルじゃないですよ!? エリートデュラハンは優れた騎士でも厳しい相手なのに……信じられません!?」


 ベルセリオンの防御力のおかげだな。

 いや本当によかった。マジで焦った。死ぬかと思った……。


 もう少し自分の力について、ちゃんと研究したほうがいいかもしれないな。

 デュラハンが消えた後には、腕輪みたいなアイテムが落ちている。


【鎧のお守り】・・・装備者への攻撃を三回まで無効化する。三回使用後は壊れる。


 お、レアドロップだ。

 敵の攻撃を確実に三回無効化してくれる強アイテム。


 どんな攻撃でも防いでくれるから強いんだよな。よし腕につけておこう。

 鎧のお守りを拾った後。俺はミーシャさんに心配をかけないように笑いかける。

 

「ミーシャさん。ひとまず試したいことも終わったので、帰りたいのですが大丈夫でしょうか?」

「もちろんです! 念のため、店で治療しましょう!」


 そうして俺たちは魔女の薬屋に戻って、ミーシャさんに腕を改めて見てもらった。

 だがやはり傷はまったくなくて。


「し、信じられないです……」

「あはは……生まれつき身体が硬くて……」


 というやり取りを繰り返すことになったのだった。

 ちなみに黄金のインゴットは、この世界だと二万ガルドほどらしい。


 思ったより安いな。これならインゴットは日本で売った方がよさそうだ。

 問題はどこで売れるかだな。ネット検索してみようかな。


 そうして俺は日本の自宅へと戻ったら、スマホに通知が来た。


 どうやらSNSにメッセージが着ている。しかもエリカさんから!?

 慌てて確認すると、以下のような文章だった。


 ――今週の土曜日の夜、時間は空いていますか? 


 エリカさんから食事のお誘いだ! 即OKと返事をした。

 なにせ『空いているか?』じゃなくて『空けますよ!』だからな。



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