第3話 幻術って? ああ!
「ガキ相手に固有術式を使うか!?
やばいだろ!!」
「ほらほら、
もっと早く逃げないと
追いつかれますよ!!」
今、俺は屋敷から
少し離れた林を全力疾走している。
五歳児の足では到底ありえない速度で。
そもそも幻術とはなにか。
脳に干渉し、対象に幻覚を見せる。
それが幻術の基礎技術と言える
……らしい。
だがその基礎技術は幻力によって
簡単に防御されてしまう。
つまり幻術師に基礎的な
幻術・幻覚は通用しないのだ。
たとえまだ幻力を纏うことしか
出来ない子供相手であっても。
では幻術師はどうやって戦うのか?
その答えが──これだ。
幻術師の戦闘法、その一。
幻力で肉体を強化する。
もちろん装備なども
強化することができる。
もっとも基礎的な強化は肉体から
離れると、著しく弱っていってしまうが。
故に拳銃とかを強化しても
あんまり意味はない。
火薬の爆発力とか引き上げても
拳銃が壊れてしまうしな。
上手くすればまた別だろうが……。
基本的に幻術師は飛び道具は使わない。
もちろんあくまで基礎的な強化の話だ。
で幻術師の戦闘法、その二。
今の八雲を見ればわかる。
八雲は今、足元を凍らせて
そこを滑っている。
スノーボードも
自分の氷で作っているのだ。
こちらは基礎的な幻術──幻覚とは違う。
幻想。つまり異能やら魔法とかの分野だ。
強化や幻覚など幻力を
使った基礎的な幻術を基礎術式。
ああいった幻想を用いる幻術を
固有術式と読んでいる。
なぜならば幻想は
似ているものがあっても一人に一つ。
それも独自のものが存在するからだ。
八雲のは氷の固有術式というわけだな。
だがしかし──
五歳児を固有術式バリバリ使って
追うのは卑怯すぎるだろ!!
俺まだ固有術式使えないんだぞ!?
「うおぉおおおおおおお!?」
「私に凍らされたら、
ゲーム終了ですからね!」
「凍らされたら凍傷になっちゃうだろ!?」
「ならないように
幻力で防御してくださいね!」
そう言うと、八雲は
手を伸ばし氷弾を撃ち出してきた。
とっさに避けるが、
当たった木々は凍りついている。
更に攻撃はそれだけではない。
手を振ったかと思うと
いくつもの氷弾が生まれ、
こちらに飛んでくる!!
ただの強化ならば、
肉体を離れると弱まっていくが
こうして固有術式を
使う場合は違うわけだ!!
足に幻力を溜め込み、
ますます速度を上げる。
なんとか氷弾を避けられた──
かと思うと。
「いいですね!
ではレベルアップしますよ!
氷雪演舞——狼華!!」
今度は地面の氷が狼の形になり
こちらへと向かってきた。
それだけではない。今度の氷弾は鳥の形。
しかも上手いこと羽ばたいている!!
「どうぶつランドの開催かよ!」
「ええ、どうぞ頑張ってお逃げください!」
頑張ってと言われても、
速度を上げるしかない。
しかしこれ以上引き上げたら──。
ああ、やっぱり!!
もう”走り”じゃなくて
ジャンプになってしまってる!!
だが、おかげで林から脱出し──。
今度は道路に出た。
「げっ!?」
突然目の前に現れるトラック。
いや俺が悪いんだけど、
このままじゃぶつかる!
しかし走るにせよ、飛ぶにせよ、
まだ足が地面についてない!!
くっ──仕方ない!
全身の幻力を全開で防御に回す!!
——気がつくと俺は空を浮いていた。
上を見ると、巨大な氷鳥が。
さらにその上には八雲が乗っていた。
「大丈夫ですか? 伯斗さま」
「ああ、なんとかな……」
「では鬼ごっこは私の勝ちですね」
「おいこら卑怯だぞ!?」
こっちは危うく死ぬところだったのに!
教育係としてどうなんだ!!
「あ〜〜あ〜〜聞こえない〜〜」
俺の説教を耳を塞いで聞き流す八雲。
こんな奴に負けるなんて……!
いや、俺は負けたとは思ってない。
だって死ななきゃ負けじゃないからな!
危うく死ぬところだったけど!
「しかし五歳児にしてこの実力……
行く末が本当に恐ろしいですね」
八雲のいつもの台詞も
氷鳥に持ち上げられてる現状では
聞いちゃいられない。
よし、まず八雲から
鬼ごっこで逃げ切ることを
目標にしよう……!
今に見てろよ八雲!!
そうして俺と八雲の鬼ごっこは
日々の日課になったのだった。
ちなみに当然八雲は
父さんに怒られた。
そりゃそうだろ……。
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