三年前3
兄はそれからすぐに息を引き取った。会場は大混乱だ。
「毒だ! 毒が盛られた!」
誰かが叫ぶ。
「皆様、どうか落ち着いてください!」
主催者が声を張り上げ、少しずつではあるが混乱は収まった。
「……このような事態になってしまい、大変申し訳ございません。ただいま、調理に関わった者を取り調べしているところでございます」
主催者の声は、ほとんど怒号にかき消された。
「ふざけるな!」
「どうなってるんだ!」
「サイン氏に出されたもの以外には毒は入っていないんだろうな!」
主催者は何度も頭を下げ、こう言った。
「念のため、皆様の持ち物を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
また怒号が飛ぶ。
「我々を疑うと言うのか!」
主催者は、
「一応の確認でございます。ご協力いただけないでしょうか」と何度もお願いした。
結局そのうち反対の声は収まり、不服そうな表情を浮かべているものの、全員持ち物検査に応じ始めた。俺はそれを他人事のように呆然と眺めていた。まだ頭が激しく混乱していたのだ。
なぜカルミアがこの場に来ていた?
あの笑顔はなんだ?
何故兄が殺された?
脳が疑問に埋め尽くされ、上手く思考ができない。とりあえず、俺はどうすればいいのだろうか。逃げるわけにはいかない。今ここで逃げるのは、俺がやりましたと言うようなものだ。幸い、俺は凶器を持っているわけではない。招待状を拝借するために使った麻酔銃はカルミアに預かってもらっている。
「失礼します」
身体検査に取り掛かった執事に対して俺は頷いてみせた。この期に及んでも、俺はまだ自分がどういう状況にあるか知らなかった。執事が俺のポケットからカルミアに貰ったお守りを取り出した時でさえ、俺は危機感を持っていなかった。
「こちらは?」
執事が問うてくる。
「友人から貰ったお守りです」
「お守り? ──中身を確認してもよろしいですか?」
「え? はい。構いませんが……」
執事が小袋から取り出したのは、植物の葉だった。執事はぎょっとして俺の顔を見る。
「これは、何の葉ですか?」
問い詰められる。
「……は? え、なんで。お守りが入ってるはずじゃ……」
執事が小袋からもう一つ何かを取り出した。それは紙の切れ端で、
『128』
と書かれていた。128の後にもいくつか数字が書かれていたが、記憶に靄がかかったように、何故かその数字を思い出すことはできない。俺は状況が飲み込めなかった。
どうして葉っぱなんて入ってるんだ?
紙に書かれている128から始まる数字の意味は何だ?
混乱する俺を差し置いて執事は主催者の元へ駆けて行き、何やら耳打ちした。主催者は頷くと、執事に何か指示を出した。すぐに取り囲まれる。俺はこの時になってようやく理解した。
嵌められた。
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