だが、当然ながら、彼女の主張は四葩八仙花には通用しない。


「それこそ、貴方の役目でなくても宜しくなくて?財力も環境も、全てが揃う四葩八仙花がスポンサーとなれば、刻も安心出来る事だとは思わなくて?」


刻を支え続けるのならば、折紙千代姫で無くても良い。

財力も美貌も、甲斐性もある、四葩八仙花の方が上を行く。

刻の傍に相応しい戦処女神など、これだけ見れば決まった様なものなのだが。


「金のあるなしで諦めが付く程、あたしの想いは安くないッ」


想いの強さならば誰にも負けない。

その様に、折紙千代姫は四葩八仙花の体を圧した。

が、圧したと言うのは、折紙千代姫が手で彼女を押した、と言うワケではない。

相変わらず腰に手を添えたまま、胸を張った状態で、前に出た。

すると、折紙千代姫の胸の先が、四葩八仙花の巨大な胸を押したのだ。


「初めて意見が会いましたわね、私もまったく同じ事を考えていましてよ?」


丸みを帯びたうら若き乳がゴム毬を押し込む様に変形し、四葩八仙花は押し相撲に参加する様に、後退する事無く、前へと足を出す。

二人の豊満な胸が押し潰され、眼と鼻の先で二人が睨み合っていた。



「お話の中、失礼致します」


そんな二人のやり取りを、影ながら、音も無く、脱衣所で眺めている姿があった。

その声に反応して、先ず四葩八仙花が視線を向けると、先程の諍いなど無かったかの様に表情を変えた。


「ッ、トワイライトさん、何か用でして?」


金色の髪。

蜂蜜の様に光沢を帯びた髪の毛を垂らすトワイライト。

彼女達の話を傍から聞いて、うんうんと頷く素振りをしていた。


「二人の考えは良く分かりました、でしたら、お二人とも、刻さんに決めて頂ければ宜しいのでは?」


と。

トワイライトからその様な提案を受ける。

折紙千代姫は、瞬間的に、四葩八仙花の事など忘れて、周囲を見回した。


「刻ちゃん?刻ちゃんが近くに居るの?」


そう言いながら、胸元と股先を手で隠した。

如何に、刻の事を大切に思えど、自分の恥部を見られるのは恥じらいを覚えるらしい。

そんな彼女の反応を尻目に、トワイライトが柔らかな目で二人にある任務を命令した。


「〈狂械律の歯車イリーガル・ギア〉の回収を、レアンカルナシオン総戦士長が四葩八仙花さんを指名、それと、ディセンバー戦士長が、筋が良いと褒めていまして、刻さんを守りたいのならば、これ以上無い護衛だろうと言う事で、折紙千代姫さんが選ばれました」


それは、刻による〈狂械律の歯車イリーガル・ギア〉の回収の護衛任務であった。

当然ながら、折紙千代姫が此処までボロボロになるまで怪我をした理由は、刻を外に出したくない、と言う事。

彼女が任務に参加すれば、自らの思想と反する結果となる事を理解している。


「あたしは、刻ちゃんが外に出る事に賛成してない!」


至極当然な反応を、折紙千代姫は向ける。

しかし、予め彼女の反応を読んでいたのだろうか。

トワイライトは、指先を下唇に着けながら、片目を閉じて折紙千代姫が納得する様な言葉を吐いた。


「ならばこそ、貴方が守れば良いだけの話だとディセンバー戦士長の御言葉です、自信があるのでしょう?ならば、愛する武器は自らの手で守るのが筋では無いか、と」


そう言われれば、確かにそうだ、と。

折紙千代姫は納得してしまった。

確かに、刻の為ならば、戦士長ですら喧嘩を売る折紙千代姫。

それ程、刻の事が大事であるのならば、自分の手で守るのが筋と言うものだ。

これで、守れないとなれば、ただの口先だけの存在であり、折紙千代姫は今後、刻に対して口を出す権利は無くなってしまう。

なので、納得する他が無かったのだ。


「…っ、分かった、口車に乗ってあげる、けど、刻ちゃんが酷い目に遭うくらいなら…あたしが、無理矢理連れて逃げるから…」


その言葉に、トワイライトは答えず目を細める。

最強の名を冠るトワイライトが、そう簡単に刻を連れて逃げる折紙千代姫を捕らえられない筈が無い。

その自信が表情となってでており、答えずとも、折紙千代姫の逃走は叶わない事を悟らせた。

そして、もう一人。

四葩八仙花は、何故自分が選ばれたのか、分からない表情を浮かべつつあった。


「あの、何故、私が選ばれたのでして?」


「現状、刻さんの魔装凶器から元に戻った事例は戦士長と、現場に居合わせた住民、武装人器、そして戦処女神のみで、他の方には未だ公表していません」


「なので、あの現場に居た方に、護衛を務めて貰おうと思い、四葩八仙花さんに声を掛けたのですが…この後、予定でもありましたか?」


「あるんでしょ、さっさと、そっちを優先したら?」


「…いいえ、ありませんわ、あった所で、こちらの方を優先致します、御心配なく、お二人とも」


「ふふ、それはそれは、こちらとしてはとても嬉しい次第です、では、回収班として、トワイライト・折紙千代姫・四葩八仙花、そして回収の要である刻さん、以上四名で活動を開始します」


「回収する時間は何時頃になりますの?」


「今から…と言いたい所ですが、猶予を貰っています、取り合えずは、折紙千代姫さんの傷が癒えてから、出発しようと思いますので、ご準備の程、宜しくお願い致します」


刻は合流した2人に話しかけようとした。


「四葩八仙花…様と、折紙千代姫」


話をしようとしていた刻に対して四葩八仙花は呼び方に対して気にかかっていた。折紙千代姫に刻を出したくない四葩八仙花はより距離を縮めようと呼び方の改善を試みた。


「まあ、その様な呼び方、仰々しい事だとは思いませんこと?親愛を込めてヨハナとお呼び下さいまし」


親しいものからは四葩八仙花はそう呼ばれていた。本来武器に呼ばせるような名前ではなかったが刻にだけ特別にその名前を呼ばせることを許可する。四葩八仙花の愛称を聞いて主人公は少し意外だ表情を浮かべていた。


「あんたの略称ってそう言うのか…」


四葩八仙花という漢字を見ればいかにも和風っぽいのだがその呼び方だと海外の人物名に聞こえて仕方がない。距離を縮めてくる四葩八仙花に対抗して折紙千代姫は刻の腕を掴んで耳元で囁く。


「刻ちゃん、あたしはどんな呼び方でも良いけど、どんな呼び方をしてくれるの?」


のような二人だけの関係性を示す相性を折紙千代姫は求めていた。しかし武器となったことでそれより以前の頃の記憶はあまりにもおぼろげで刻は適当に折紙千代姫の名前を口にする。


「折紙」


名前の上の部分だけを呼ばれる。折紙千代姫は大きく目を見開き威嚇するように主人公に問いかけた。


「は?なんでそっちをとんの?」


もっと他に可愛らしい名称があるだろう。少なくとも上の名前より下の名前の方が断然マシだと折紙千代姫は思っていた。刻は頭を悩ませながら再び折紙千代姫に相性をつけることにした。


「…じゃあ、ヨハナ様の間を取ってオリヒメで」


これならば少し女の子らしい名前で可愛らしく思えるだろう。この名前ならば折紙千代姫も納得してくれるはずだと思っていたのだが。


「なんで四葩八仙花からあやかってんの?」


どうやら四葩八仙花から連想して名前を名付けられることが嫌だったらしい。ぐいぐいと突っかかってくる折紙千代姫に主人公は噛み付いた。


「そんなに突っかかってくるなよ、俺はともかく、ヨハナ様に失礼だろッ」


そばにいる四葩八仙花の顔色を伺いながら刻はそう言うのだった。そして話に割って帰ってくる金色の髪を持つ女性。トワイライトが自らの大きな胸に手を添えて話しかける。


「では、私はどうでしょうか?トワイライト、から取りまして…」


満面の笑みを浮かべる。目が細くなると目元にある泣きぼくろがかすかに動いたような気がした。そうしてトワイライトは自ら考えた相性を3人に告げた。


「性欲発散トワイライトなどは」


何ともひどい愛称である。そういった前兆は所々感じていたのだが刻は改めてトワイライトに向けて行った。


「トワイライト様って、もしかしなくてもそういうキャラなんですね…」


清楚な見た目からしてとんでもないことを口走るトワイライト様。そのギャップがいいと言う人間もいるのだろうが刻は少し引いていた。

「公の場でもありませんし、トワと呼んでも良くて?」

咳払いをした後。四葩八仙花はトワイライトに向けてそう言った。その言葉を聞き受けたトワイライト様は頷きくだけた会話で四葩八仙花と話し始める。

「えぇ、構いませんよ、ヨハナ」

2人の関係性が同一であるかのような会話だった。驚きの表情を浮かべる刻は2人の関係性を知ろうと話題を振った。

「…二人はお知り合いなんですか?」

そう言うとトワイライトが刻の質問に答えてくれる。

「えぇ、ヨハナは戦士長候補ですし、教育係を複数の戦士長が務めていますので」

どうやら四葩八仙花は次の戦士長候補であるらしい。そういった理由で2人は少なからず親密な関係であるらしい。予想外の関係性に刻は驚いていた。

「へえ、ヨハナ様って戦士長候補なのか」

刻がそう言うと四葩八仙花は得意げに胸を張って答える。

「勿論です事よ、雅を戦処神器セイヴァードへ進化させましたもの」

四葩八仙花の言葉に刻は執事の服を着た女体化した武器の姿を思い出した。そういえば戦闘をしている最中でも四葩八仙花はその武器のことを戦処神器と言っていたことを思い出す。

「戦士長へ階級を上げる複数の条件の中で、固有の戦処神器を持つ、と言う項目がありますの」


「それ以外だと、魔装凶器の討伐数が百体を超える事だったり、過半数の戦士長の推薦を得たり、様々なものがありますね」


「因みに、トワは戦処神器を持たない唯一の例外ですの」


「はい、私にとって、全ての武装人器は私の戦処神器なのですから、ある意味、皆さまの力で私は戦士長になった様なものですね」


「へえ…ヨハナ様が雅である事は分かりますけど…トワ様はどんな武器なんですか?」


「…気になりますか?」


「え、あ、はい…」


「でしたら…今夜、貴方の眠るベッドの中で、教えてあげますね…」


「なんで?」


「ダメですわ、トワ、貴方、この方を武装人器として扱うだなんて!」


「絶対に、刻ちゃんは渡さない…ベッドの隣はあたしのものなんだからッ!!」


「お前のものではねぇよ…まあ、企業秘密的な感じと言うワケっすね…分かりましたよ」


「ふふ、残念、十分に貴方の魅力を理解したので…深い仲になりたいと思っていたのでしたが…」


「トワ、貴方が刻を使えばどうなるか分かって言ってますの?」


「別に、使わずとも…そういう関係である事は問題はないでしょう?大丈夫、ただ、エッチな事をするだけですから」


「最重要人物になんて真似をしようとしてるんですの、貴方はッ!!」







指先が缶切りの刃となっている。

その事から、兇罪者の能力は其処まで良いものでは無いと悟る。

しかし、人質を盾にされている為に、迂闊に手を出す事が出来なかった。


(くッ…雅の能力を使おうにも、扇を振るうと言う動作が必要ですわ…少しでも動けば…)


「さっさと武装人器を解除しろッ!じゃねえと、この人質が、どうなっても知らねぇぞ!!」


そう叫ぶ兇罪者。

思う様に動く事が出来ない四葩八仙花。


『四葩八仙花、一先ずは言う通りにしましょう』


戦処神器である雅が言う。

武器を手放す様な真似はしたくは無かった。

だが、仕方無く、四葩八仙花は屈辱を感じながら神聖色を断ち、雅を人型へと戻す。

人型へと戻る、執事の衣服を着込んだ雅。

深緑の色を帯びた髪の毛が左右に揺れた。


「へ、へへッ!そうだ、俺の言う事を聞くんだ!戦処女神めが…俺の事を馬鹿にしやがって…ッ」


武装人器は、戦処女神に深い恨みを抱いている。

缶切りになる事しか出来ない能力を持つ兇罪者だが、その過去は陰湿な人生を歩んできたのだろう。

だが、今は違う。

少なくとも、彼女達は、彼の言いなりになる事しか出来ないのだ。

調子に乗り始めた兇罪者は、人質の首を強く締めながら言う。


「もっと、この俺に無様な姿を晒しやがれッ!そうだな…脱げ、この場で、全裸になれ、戦処女神ッ!!」


公衆の面前である。

四葩八仙花は思わず声を漏らす。

自らの衣服に手を添えて、自己を守るポーズをした。


「こ、この場で…脱げ、と」


公開ストリップショーを、兇罪者は望んでいた。

一枚一枚丁寧に脱がせ、辱めてやろうと考えているらしい。


「早くしろ!!この女がどうなっても良いのかァ!?」


そう叫び、急かす。

既にこの時点で、四葩八仙花は屈辱を感じていた。

この男の言いなりにならなければならない。

そうしなければ人質の命は無い。

下唇を噛み締める、自らの裸体を周囲に見せつけるなど、淑女がして良い行いでは無い。

だが、言いなりにならなければ、人質は傷を付けられる。

缶切り、などと言う粗悪な武器化だ、傷口は醜く痕を残す可能性がある。

歯軋りをしながら、彼女は自らのシャツのボタンに手を伸ばす。


「わ、分かりました…」


言いなりになろうとした。

その時。

彼女の隣に居た雅が前に出る。

気品さが漂う、容姿端麗な女性。

元々は男であるのだが、それを考慮しても、美しさが優る。

そんな彼女が、燕尾服を脱ぎ出した。


「おい、お前じゃねぇ!勝手に脱ぐんじゃねぇ!!」


と、そう言った。

だが、雅は構う事無く、ベルトに手を伸ばし、ズボンを脱ぐ。

そして、紫色のレース生地のパンティを脱ぐと共に、シャツ一枚となった。

余りの戸惑いの無い行いに、思わず兇罪者は固唾を呑んだ。


「お、おい…シャツを脱げ、全裸になって、この俺に土下座しろッ!!」


綺麗な顔をした雅は眉を顰めた。

その表情から屈辱を覚えている事を感じ、兇罪者は卑下た笑みを浮かべる。


「へ、へへッ…良いじゃねぇかよ、ほら、脱げッ!!」


周囲の目が、雅に向けられる。

鋭い目つきで相手を睨みながら、ワイシャツのボタンを一つ一つ外していき、ブラジャーも外した末に、完全に全裸となった。

線の細い彼女の肉体は、慎ましい胸でありながらも男を欲情させるのに十分過ぎる肉質をしている。


「ほら、土下座しろッ!俺に謝れッ!!」


そう叫びながら土下座を強要する。

雅は兇罪者の言葉に従い、すぐさま、頭を地面に擦り付ける様に、土下座をする。


「申し訳ありませんでした」


謝罪の言葉を口にする。

しかし、兇罪者はそれでも足りないらしい。


「使えない武器の癖に、調子に乗って申し訳ありません、そう言えェ!!」


完璧に有頂天になっていた。

近くに居た四葩八仙花は、大切な道具が自分の代わりに罵られている事に悔しさを覚えている。

雅は、頭を下げた状態で、声を漏らした。


「…それは自己紹介か?クズめ」


その言葉と共に。

ゆっくりと顔を上げる。




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