暖かな人肌の中
刻は目を覚ます。
ここは一体どこであるのか、周囲を見回した。
見覚えのない空間である。
壁紙も天井も全てが真っ白だった。
部屋の中はアルコールの臭いが充満していた。
体を包み込む暖かな空気。
羽毛のように軽い布団に包まれていた。
そこは何だか保健室に似ていると刻は思った。
上半身を起き上がらせる。
すると鋭い痛みが頭の中から響きだした。
頭痛である。
しかし痛みというものはそれだけであり、体はどこにも異変を感じなかった。
(あんだけ傷ついたのに怪我がどこにもない)
自らの両手を見る。
どこにも怪我はなかった。
ヴァルハラという組織では、どのような怪我を受けても完治に近い状態にすることができる人物がいると聞いたことがある。
もしかすればその人物によって体を治してくれたのかもしれないと刻は思った。
(もしそうだとしたら、この施設は ヴァルハラ内部か?)
刻は思った。
だとすれば、見たことのない設備が揃っているのも納得だった。
ゆっくりと体を起こそうとした時、不意に下半身が重たいものにのしかかっていることに気がついた。
(…何だ?誰か乗っている)
暖かな触り心地である。
大型犬のようなさらさらな毛並みではない。
だとすれば、これほど大きな体格から察して人であることが分かった。
足を動かそうとする。
すると布団の中からくぐもった声が漏れ出した。
あまりにも甘くて耳がとろけてしまいそうなほどの喘ぎ声だった。
その声が女性であると察した刻は、思い切り布団を剥ぐ。
すると、そこにいたのは黄金よりも明るい金髪をした女性であった。
その女性は全裸だった。
真っ白な肌。
両手で覆いきれないほどの巨大な胸。
美術品かと思わせてしまうほどの肉体美を備え持つ女性の姿だった。
彼女の顔に刻は見覚えがあった。
「トワイライト、様っ!?」
刻は驚きの声と共にそう言った。
その声に反応してか、あるいは布団をはがされたことによって全身が出てしまい、布団の中のぬくもりを奪われたことで寒気を感じて眠気がなくなってしまったのか。
彼女はゆっくりと顔を上げて、長いまつげを生やしたまぶたを開く。
エメラルドのような綺麗な瞳を刻の方に向けると、目尻を指先でこすりながら小さくあくびをした。
「ふぁ…んん、…目覚めたのですね」
トワイライトはそう言った。
刻は混乱している。
なぜ布団の中にトワイライトが眠っていたのかわからなかった。
説明を求めようと刻は彼女に何か言おうとしたが、あまりにも美しい肉体を前に声が出なかった。
唖然としている刻を尻目に、彼女はいたずらっ子のような笑みを浮かべて薄い桜色の唇を動かして喋り出した。
「状況を説明して欲しい顔ですね、端的に言ってしまえば、あなたは監禁状態にあります」
トワイライトはそう言った。
耳を疑うような内容だった。
なぜ自分が監禁されなければならないのか、そう言いたそうな目をしていた。
「私はあなたを監視するためにここにいるのです」
彼女はそう言った。
少なくともその理由に対して理解できるし、納得できる。
しかし、今一番納得できないことがあるとすれば。
「何で全裸なんですか?!」
一番説明して欲しい部分はそこだった。
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