不器用な自己紹介

 写真部の部室の扉が、静かにきしむ音を立てながら開いた。その音に反応して、中にいた唯一の人物が顔を上げる。室内では、直がいつもの席に座り、写真やほぼ完成したコラージュの切れ端に囲まれていた。彼女は手を止め、視線を扉に向けると、すぐに侵入者の一人を認識し、その鋭い目つきが少し柔らかくなる。


「おや、生徒会長さん。」

 彼女は丁寧に席を立ち、二人を見比べる。「今日はどういったご用件で? 部の視察ですか?それとも……そちらはどなた?」


 詩織は相変わらず落ち着いた態度で、腕を組みながら一歩前に出る。即座に鋭く返答した。

「このバカが君の部に入りたいそうだ。」


 直は瞬きをし、少し首をかしげながら困惑した表情を浮かべる。「バカ?」


 詩織は悲劇的な真実を告げるように、まじめくさった顔で頷く。「完全にバカ。」


 薫は一瞬詩織を睨みつけ、彼女の不親切な発言を無言でたしなめる。すぐに直に視線を戻し、(バカなんかじゃない、信じて!)と言わんばかりの穏やかな表情を作った。「えっと…木漏れ日薫といいます。お邪魔してすみません……でも、ここは写真部ですよね?あの…入部したいのですが……」


 直の目は詩織から薫に移り、知らない相手に対して再び鋭く冷たい目つきになる。その視線に、薫は背筋がぞくっとした。どうして部長なのにこんなに怖いんだ?普通、部長ってもっと優しいもんじゃないのか?


 彼女は考え込むように鼻を鳴らしながら目を細めた。「ふーん……君が私の部に入りたいと?」腕を組み、疑わしげに彼を見つめる。「それで、写真について何を知ってるの?」


 薫は口を開こうとするが、自分の知識不足を思い知り、言葉が詰まる。何か、少しでもそれらしいことを言おうと必死になるが、言葉が出てこない。頭の中には聞き覚えのある単語が駆け巡る。「F値?シャッタースピード?遮蔽?」だが、そのどれも彼には全く意味が分からない。


 彼の無様な姿を見て、大山崎は目を閉じ、小声で呆れとも驚きとも取れるような言葉を漏らした。「まさか、何も知らないで来たのかしら……」


 彼女の言葉にさらに追い詰められるように感じた薫は、かろうじて言い訳を口にした。「あ…その…もっといい写真を撮れるようになりたくて……?」


「もちろん…」直は目を細めて、明らかに感心していない様子で呟く。眼鏡を直し、その鋭い視線を彼に向けた。「それで?本当の理由を話すつもりがあるのか、それともすぐにここから追い出された方がいいのかしら?」


 薫は慌てて手を振り、必死の表情で訴えた。「待って、待って!追い出さないで!お願いだから…俺は……」

 普段の彼らしからぬ行動をしている自分に驚きつつも、しどろもどろになりながら本音を吐き出した。「小笠原っていう人を知りたくて…この部にいるって聞いたから、それが本当の理由で……」


「ほう?つまり君は霞さんを目当てに私の部に入りたいと?ふざけないでちょうだい。時間の無駄だから、さっさとお引き取りを―」


 直が彼を追い返そうとするその直前、詩織は呆れたようにため息をつき、一歩前に出て片手を挙げて話を止めた。

「もしよろしければ、白原さん。」


 彼女の声は穏やかだが、いつもの真面目な調子が滲んでいた。「こう見えても、私は彼を昔から知っているんです。」


 軽く彼を振り返り、平坦で冷めた表情を向ける。「彼には、そう…何というか…見た目の問題がある。それに加えて取り返しのつかないバカですが、害はないと保証します。」


「ですから、生徒会長として一言申し上げますと、彼を入部させてやっていただけないでしょうか。初めての部活ですし、経験豊富なあなたの指導があれば、このバカにも多少は役に立つかと思います。」


 直は椅子に背を預け、薫と詩織を交互に見つめながら沈黙した。その視線は批判的で、決して柔らかくはならない。しばらくの間、厳しい眼差しが続いた後、彼女は鋭く息を吐き、眼鏡をきっちりと直した。


「いいわよ、ばかさん。」しぶしぶという様子でため息をつきながら、どこか不満げな口調で答えた。視線は薫の肩にかけられたカメラバッグに移る。「カメラバッグを持っているみたいね。それで、どんなものを撮っているか見せてもらえるかしら?」

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