こんばんは、シチュー

@Tokiu-2023

第1話 今晩はシチューだよ

「レイラさん、ちょっとお使い頼まれてくれません?」

「………あ、今なにか言った?」

 私は視線を読んでいた本から台所の方へ向けて聞き返した。ユーは目を細めて不機嫌そうな顔でこちらをにらんでくる。

「あなたという人は…まあいいです。ちょっとスーパーまでお使い頼まれてくれません?今晩はシチューにしようと思ってたんですが牛乳とルー切らしてて」

 包丁で人参の皮を剥きながら彼女は言った。料理が苦手な私はピーラーさえまともに使いこなせないが、彼女は包丁一本で全て仕上げられる。いつもならその美しい包丁さばきに感心するところだが、今日は表情が相まって手慣れた動きが怖く感じる。

「今から行くと外暗くなるしスーパーまで結構あるからやだ」

「自転車の鍵貸しますから。それにあなた、一昨日おとといから一歩も外に出てませんよね?いくらなんでもだらし無さすぎますよ」

 確かに、私はこの連休中ずっと家に籠って自堕落な日々を送っていた。ユーが料理も洗濯もやってくれるからついつい甘えすぎたかもしれない。明日からまた仕事が始まるのにこの調子ではいけない。

「分かったよ。何買ってくればいい?」

「牛乳とごみ袋さえ買っていただければ大丈夫です。あとはパンでも惣菜でもお好きにどうぞ」

「オッケー………うん、あと30分だけ待ってくれない?」

「その本置いて今すぐ行きなさい」

 彼女が包丁と玉ねぎで強迫してくるので急いで家を出た。ここでは誰も彼女には逆らえない。

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