第40話 一次試験スタート。そしてクリア

 冒険者登録の試験が明日だと言うので、ギルド直営の宿屋に一泊しようとした。

 でも受付嬢さんに止められた。

 安いだけで汚く、幼い少女が泊まるようなところではない、とのこと。


へへん。汚いからなんだってんだ。こちとら一年も野宿生活に耐えたんだぞ。

 とはいえ、せっかく気遣ってもらったので、ギルドの宿に泊まるのはやめた。

 けれど実家には帰りたくない。今頃、お父様と王様がお酒を飲みまくっているはずだ。酔っ払いに絡まれたくない。そもそも冒険者になると言って家を出たのに、試験に合格もせずに帰るのは恰好が悪い。


 リリアンヌ様を頼って王宮に行くのも面倒なので……冒険者ギルドの近くの橋の下で野宿した。

 安宿より酷いって?

 そうなんだけど、足が自然とね……。

 もう体が野宿を求めてるのよ……。

 そのうち「体が生肉を求めるぅぅぅ」とか言い出したら、自分で自分にドン引きだわ。

 あ、でも、刺身の一種だと思えばアリなのでは?

 魔物の寿司を握るのもいいかもしれない。

 寿司って高級料理な扱いだったけど、江戸時代は屋台で売ってるファストフード的ポジションだったらしいじゃん。

 私もそれに習って、王都のどこかで屋台を引っ張って、頭にハチマキ巻いて「へい、らっしゃい!」とか言って魔物寿司を出せば、一儲けできるかも。


 え、食中毒?

 魔物の肉は常人には毒?

 ふふふ、違いますね。常人だけじゃなく私にも毒ですから。

 私も食べるたびに毒に冒され、魔法で解毒してるだけですから。

 だから、お客さんが「うっ!」と苦しみだしたら、すかさず「てやんでぃ。当店は解毒もサービスでぃ!」と治してやるのだ。

 珍味を味わえる上に臨死体験ができる屋台として評判に……いかん、いかん。野生の聖女が更に訳分からん存在になってしまう。


 寿司のこと考えてたらお米を食べたくなってきた。

 麦があるんだから米だってどこかにあるはずよね。

 こういうファンタジー世界は、東に行けば日本っぽい文明が栄えてたりするもんだ。いつか東を目指してみよう。


 それはさておき、まずは冒険者の登録試験だ。

 集合場所は王都を出てすぐの草原。

 若者がずらーっと並んでいて、最終的に三十人くらい集まった。


「時間だな」


 と、顔に傷があるマッチョなオジサンが呟いた。

 時計の代わりに、影の角度で判断してるっぽい。


「俺が今日の試験官だ。よろしくな。さて、当たり前のことだが、冒険者をやるには最低限の体力や戦闘力が必要だ。せっかくギルドが仕事を割り振ってやったのに、達成できないままトンズラされたり死なれたりしたら困るからな。ってわけで一次試験は、あの山の山頂に、正午までに辿り着くことだ」


 試験官のオジサンは、遠くの山を指さした。


「どんな方法を使ってもいい。一人で登ろうと、協力し合おうと。鳥になって飛んでいけるスキルがあるならそうすればいい。俺は一足先に行って待ってるぜ。太陽が一番上に来たと俺が判断したら、そこで一次試験終了だ。抗議は認めねぇから、あんまりギリギリにならないほうがいいぜ。それじゃあな」


 試験官は風のように走り出し、あっという間に見えなくなった。


「すげぇ! さすが試験官をやるような冒険者は違うな!」


「俺も早くあのくらい強くなりたいぜ!」


「おい、そこの少女。どういういきさつでこの試験に参加したのか知らないが、今からでも帰ったほうが身のためだぞ。なにせあの山は道が険しいだけでなく、魔物が多いと聞く。お前などが足を踏み入れたら、十分と保たない」


「これはご親切に。けれど大丈夫です。私、強いので」


「そんな細身で? 魔法に自信があるのか……いや、待て。その容姿。ま、まさか野生の聖女か!?」


「本当だ! 野生の聖女だ! ギルド前のマンホールで見たぞ!」


「王都を滅ぼしに来たというあの!?」


「いや、本当は心優しい貴族令嬢らしいぞ」


「神々が地上に遣わした天使だと俺は聞いたが」


 色んな噂があるもんだなぁ。

 さーて。山頂を目指しますか。

 いっせーの。音速猪突!


「「「消えたぁぁぁっ!?」」」


 みんなの大声も、私が大気を爆ぜさせた衝撃で消えてしまう。

 あっという間に山の麓だ。途中で試験官を追い越しちゃったけど、向こうは気づいてないみたい。


 木々の隙間を直進。ぶつかりそうになったら止まって、また直進。

 ジグザグと稲妻みたいに山を登る。


「到着! うひょー、いい眺め!」


 遠くの草原で受験生たちが必死に走ってる。頑張れよー。

 それにしても、ここは本当に景色がいい。かつて私がさまよっていた森と違って目の前が開けているから、圧迫感がない。日光とマイナスイオンが降り注ぐ。

 お弁当食べたいなぁ。お昼には早いけど、小腹が減ったなぁ。

 あ、ウサギの魔物だ!

 捕まえて、逆さまにして、首を捻りきる!

 血がドバアアアアアア。はい、血抜き完了。

 いただきまぁす……。

 って、いつもの癖で生で食べるところだった。

 口からファイアー。全体をまんべんなく焼く。外はいいけど中は焼けてない感じ。腹を割いて直接焼くか。ファイヤー。おお、香ばしい匂い。

 前世より料理上手になったかも。やっぱりファイアブレスはイケてる女子の嗜みだわ。

 気になる彼がお腹を空かせているのに火元がないってとき、その辺の動物を絞めて火を吐いて焼肉を作ってやればハートを鷲掴みだぜ。

 あと女子会でも盛り上がると思う。友達が火を吐いて焼きマシュマロとか作ってくれたら私ならテンション爆上がりだわ。


 うーん、美味ちぃ。

 こりゃ一匹じゃ足りないね。

 もう一匹出てこないかなぁ。

 むむ? 茂みがガサガサしたぞ。

 

「おかわり!? って、なーんだ。試験官さんでしたか」


「うわっ、野生の聖女!? なんで俺より先にいるんだ!」


「追い越したからです」


「信じられねぇスピードだな……それよりも、さっきの目、殺気があったぞ! お前、俺を食べようとしただろ!」


「違います。食べ物が歩いて来たかと思ったら試験官さんだったのでガッカリしただけです。野生の聖女なんて呼ばれてますが、人間を食べたりしませんから。安心してください。そして周りにも言いふらしてください」


「食べ物が歩いてくるってなんだよ! こんな山奥で食べ物が歩いてるわけ……いや、町中でも歩かねぇよ!」


「ふふん。ベテラン冒険者っぽい顔してるのに野宿エアプですか? 現にこうして私の手にウサギの丸焼きがあるでしょう。歩いて来たんですよ」


「歩いていたときは丸焼きじゃなかっただろ! お前に捕まってそうなったんだよ! そもそも、そのウサギ、魔物じゃねーか! どう足掻いても人間の食い物じゃねぇ! 毒だ!」


「確かに毒があってお腹が痛くなりますけど、即死するほどじゃありません。死ぬ前に解毒魔法を使えば平気です。試験官さんも食べますか? 美味しいですよ? ちゃんと解毒魔法かけてあげるので」


「お前……噂には聞いていたけど、本当に苦労したんだなぁ……」


 私は魔物グルメを広めたいだけなのに、心底から同情されてしまった。

 本当に美味しいんだぞ。内臓が全部ひっくり返ったような痛みはあるけど、すぐ慣れるって。

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