第38話 私の防御障壁はゴムとガムの性質を併せ持つ
「私だって友達くらいいます!」
「そうなの。よかった。それでね、野生の聖女ってのは、あなたが思ってるような憧れの対象じゃないのよ」
「そんなことはありません。私ほど野生の聖女に詳しい人はいないはずです」
なにせ本人だからね。
「野生の聖女とは! 私くらいの年齢で、姿もそっくり。というか私そのもの! 森で一年も生き延びる高いサバイバル能力と戦闘力に加え、愛と平和を愛する優しい心を持つ希有なる存在! それが野生の聖女! それが私!」
「全然違うわよ。野生の聖女ってのはね、身長五十メートル、体重二万トン。海底で暮らしていた古代生物で、邪教徒の怪しげな魔法儀式によって住処を壊されて上陸したの。剣聖たちは野生の聖女に対して一斉攻撃を行い、山頂へ誘導するのに成功。なんとか火口に落としたんだけど、野生の聖女はマグマの中でも生存し続け、凄まじい再生能力によって復活したのよ」
ゴジ○かな?
昭和のと平成の設定が入り交じってるな……。
「全身の毛穴から溶解液を垂れ流してあらゆるものを溶かしながら歩き回り、口からビーム、お尻から炎を出すの。大きさを自由に変える能力もあって、人間サイズになって王都に侵入し、壁や天井を這い回って人間を監視し、自分を火口に落とした剣聖へ復讐する機会を探っている……これが野生の聖女よ」
ゴ○ラですらない化物だ!
王様の嘘つき!
王様は野生の聖女は尊敬されてるとかってたけど、まだまだ化物扱いだよ。噂が歪みすぎて真実がほとんど消えてるよ!
あれか。しょせん王宮暮らしには、下々のことは分からないってわけか。上級め!
けれど希望はある。
受付嬢さんが語った噂話の中で「口からビーム」というのだけは真実だった。
それを実演してやれば、私が野生の聖女だと納得してもらえるはずだ。
とはいえ、ビームが弱いと「今なにかしたの?」なんてラスボスみたいなこと言ってきそう。逆に本気ビームを出したらギルドの建物が抉れる。
私は冒険者になりたいのであって、野生の聖女と認めてもらうのはその手段にすぎない。
手段のために冒険者ギルドを崩壊させたら、本末転倒のお手本になってしまう。
あのビームって力加減が難しいのよね。
諦めて帰るか。
でも、あんなに号泣するお父様を振り切って家を出たのに、冒険者になりもせず帰るってのは、ちょっと気まずい。いや、お父様は喜ぶだろうけどね。私としては出鼻をくじかれた感が強い。
なんとか試験を受けられないものか……。
あ。そうだ。
受付嬢さんの中では、野生の聖女は人間に化けて壁や天井を這い回ってる系のキャラなんだよね。
なら、私がそっちによせていけばいいんだ!
足の裏に防御障壁を形成。柔らかくし、更に粘着性も付与……できた!
「今から壁と天井を走り回ってご覧に入れましょう。それができたら冒険者登録の試験を受けさせてください」
「そんなこと、あなたにできるわけ……壁を歩いてるぅぅぅ!?」
足裏の防御障壁を壁に押しつけ、私は一歩一歩登っていく。
足を離す瞬間に粘着性を消し、また粘着力を復活させる。この切り返しが難しいけど、繰り返せば慣れるだろう。
さあ、次は天井だ。
くぅ……コウモリみたいに天井からぶら下がるのは辛い。頭に血が上る。っていうかスカートがめくれる。カボチャパンツだから見られてもそんな恥ずかしくないけど、男爵令嬢としてはしたないですわ。
そこで手のひらも防御障壁で覆って、四つん這い。
おお、こりゃいい感じだ。やっぱ四駆は安定性が段違い。
ハイパワー魔力と4WD。この条件にあらずんば聖女にあらず。
段々楽しくなってきたぞ。
私の防御障壁はゴムとガムの性質を併せ持つ♥
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ!
「うおっ、なんだ、化物か!?」
「いや、よく見ると可愛い女の子だ!」
「でも動きが完全に化物だ!」
「ま、まさか……野生の聖女!?」
「うわぁぁぁっ、剣聖を呼べぇぇぇっ!」
やったー。動きだけで野生の聖女って思わせたぞ!
……喜ぶべきなのか?
冷静に考えると私の動きってゴキブリそのものだな。
人間がゴキブリみたいに天井を這い回ってたら、そりゃ怖いよね。ホラー映画だよ。
でも受付嬢さんは私が人間だと知っている。何度も話したからね。怖がらず冷静に対応してくれるはずだ。
私は天井から手足を剥がし、受付嬢さんの眼前に降り立つ。おっと、四つ足で着地しちゃった。はしたなーい。早く立ち上がらなきゃ。
ふんっ!
やだ、いっけない! 慌てたせいで粘着力がそのままだった! 床をバリーンと剥がしちゃった! っていうか粉砕! でも、このくらいなら冒険者なら普通だよね!? 荒くれ者たちだもの!
「さあ、私に試験を受けさせてください!」
「た、食べないでくださいーいっ!」
受付嬢さん、どうして泣くの!?
彼女の立場になって考えてみよう……おお、こりゃ泣くね!
完全に私のせいだ。なんとかしないと。口から火を吐く格好いい姿を見せた泣き止むか……無理だな。
「クラーラ、奇行もそこまでだ!」
「ギルドを恐怖のドン底に落としてはいけません!」
ハロルド様とリリアンヌ様の声だ。
振り返るとギルドの入口に二人が立っていた。知っている人の姿を見て、私は自然と頬が緩んだ。
そして受付嬢や冒険者たちからは歓声が上がった。
「剣聖と姫様が来てくれた!」
「た、助かったぁ……!」
強そうな冒険者たちが泣いて喜んでいる。
彼らをそこまで怯えさせたことに私は泣きそうになる。
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