第33話 親子喧嘩じゃい

「お父様。私だってお父様と一緒にいる時間が好きです。でも、私が冒険者に憧れていたのを知っているでしょう? 私が『元気になったら冒険者になりたい』と言ったら、応援してくれたじゃないですか」


 前世の記憶を取り戻す前の私は、ベッドの中で本を読みまくり、冒険者に憧れまくったのだ。その感情は、今でも残っている。

 そもそも前世からして異世界WEB小説をよく読んでたし。

 森の中で色んな戦いを経験したことで、冒険者になりたいという気持ちが、ますます膨らんでいる。


「あのときはクラーラがこうして歩けるようになるなんて思ってなかったんだ!」


「私が歩けないままのほうがよかったってことですか!?」


「そうじゃない! せっかく元気になったんだから、私とお散歩したり、ピクニックにいったり……そういうことをしようじゃないか!」


「いいですね、それ!」


「おお、分かってくれたか! では冒険者は諦めるのだな?」


「それとこれとは別です!」


「強情な子め! いいか、歩けるようになったからって冒険者にはなれないんだぞ。お外は危険が沢山なんだぞ」


「知ってますよ、それくらい。私、一年も森をさまよってたんですよ!」


「い、一年程度じゃ、危険を理解したとは言えない!」


「はあ、そうですか! じゃあもう十年くらい放浪してきます!」


「ああ、いかないでくれ! 陛下、リリアンヌ様! クラーラを止めてください。この子は病弱で、歩くこともままならなかったのに、冒険者になるだなんて無謀です!」


 お父様は王様と王女様に助けを求めた。


「エヴァンさん。お気持ちは分かります。ですがクラーラさんは私よりも、いえ、剣聖ハロルドより強いのです。クラーラさんが冒険者としてやっていけないのなら、誰にできるのでしょうか?」


「うむ。強さを基準にした新しい勲章を作ってクラーラにやる、と口にしたばかりだし。娘と一緒にいたい気持ちは分かるが、自主性を認めるのも親の役目だぞ」


「あら。自主性ですか。では私とハロルドの結婚も認めてくださるのですね?」


「それとこれとは別だ! 話の腰を折るんじゃない!」


 王様ってリリアンヌ様を溺愛してるよね。

 私のお父様も負けてないけど。私を溺愛してるからこそ、こうして言い争いになってしまう。


「お父様に冒険者のなにが分かるんですか? 絶対に私のほうがお父様より強いですよ!」


「ほう……ほう!」


 私の啖呵を聞いたお父様は、怒っているような、感心したような、複雑な声を漏らした。

 なんだろう。怒鳴っているわけじゃないのに、不思議な迫力がある。

 強者の余裕みたいな……あれ? もしかしてお父様って強いの?


「疾風エヴァンとまで呼ばれたこの私に勝てると? そこまで言うなら私と戦ってもらおうか! 私に勝てたら冒険者になるのを認めよう!」


 なんか言い出したぞ。

 お父様の目、武人って感じ。

 これは本当に強いパターンだ。


「お父様って……軍の事務職なのでは……?」


 私が疑問を口にすると、王様が答えてくれた。


「いいや。エヴァンは最前線で戦う戦士だぞ。一説には、我が軍で最強とさえ言われている。剣聖ハロルドに剣術を教えたのもエヴァンだ」


「な、なんですと! そんな話、聞いたことありませんけど……むしろ、軍人だけど戦う仕事じゃないとか小さい頃に聞いた覚えがあるよな、ないような……」


 私はお父様に視線を送る。


「……そのときは本当に人事部にいたのだ。リンダがクラーラを身ごもったとき、陛下に頼んで戦闘部隊から外してもらった。できるだけ家族のそばにいたかったのだ。リンダが死に、その思いは強まった。クラーラを守っていかねば、と」


 リンダは私のお母様の名前。

 物心つく前に死んじゃったから、私はその姿を肖像画でしか知らない。でも、お父様がお母様を今でも愛しているのは知っている。


「でも戦いの場に戻ったんですね? 出張と言って留守にしていたのは、魔物との戦いだったんですね? 私、お父様が家にいなくて寂しかったです」


「済まない、クラーラ。私だって、ずっと家にいたかった。だがな。この国は……いや、人類は常に魔物の脅威にさらされているのだ。私が戦線から遠のけば、それだけ戦力が減るのだ。クラーラのそばにいるより、戦闘部隊に戻ったほうがクラーラを守ることに繋がる。魔物との戦いによる被害は広がるばかり……私は戦いの場に戻るしかなかったのだ」


「そうだったんですか……」


 昔の同僚が次々と死んでるときに、自分だけ家で娘と団らんってのは気まずいよね。


「そういう事情なら、留守がちだったのは仕方ありません。でも、お父様がどんなに凄い軍人でも、私の可能性を潰す権利はないはずです」


「私はお前を心配しているだけだ!」


「心配無用ですから。それを証明するため、お望み通り、お父様と戦って差し上げましょう。いつどこでやりますか? 今ここでやっても構いませんよ」


「私にそこまで生意気なことを言ったのはハロルド以来だ……面白い!」


 私とお父様はゴゴゴゴゴと闘志をぶつけ合う。


「待てぇい! クラーラにエヴァンよ。その勝負、ワシが預かろう! 野生の聖女と疾風エヴァンの一騎打ち、こんなところでやるのはもったいない!」


「そうです。いまだにクラーラさんを獣かなにかだと思っている人が王宮内に沢山います。クラーラさんは強くて可愛い美少女なのだと知らしめる絶好の機会です」


 王様とリリアンヌ様がなんか盛り上がってる。

 んー?

 ちょっとした親子喧嘩のつもりだったんだけど、大ごとになってきたぞ?

 お父様も「陛下が用意する場で戦えるとは、武人の誉れ」とか興奮してるし。

 いやでも、この王様、そこそこ常識人っぽいから、そんな大げさにはしない、よね?

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