第28話 つい片言設定を忘れてしまった
ずっと行方不明だった婚約者がいきなり出てきた。
病弱で寝たきりだったはずのそいつが、剣聖の攻撃でさえ通じない敵を殴り飛ばした。
うん。慌てるのは当然ね。
済まねぇ、ハロルド様。あとで説明するからさ。上手く説明できるか自信ないけど。
それより今は、聖女パンチが通じたのを喜ぼう。
こいつは霊的な奴なのだ。
霧状でスカスカなのに、聖女パンチだと手応えがあった。霧散しないで塊のまま吹っ飛んでいった。
よし、敵は空中。この角度なら誰も巻き込まない。
「んがっ!」
歯医者で治療されてるときみたいにお口を開いて、ダークネスブレス発射。
霧の怪物に大穴が空いた。
私はダークネスブレスを放ちながら頭を動かす。
鉛筆画を消しゴムで擦ったかのように、黒い霧が消えていく。霧散したんじゃない。消滅だ。気配さえ消えてしまった。
ダークネスブレスって強力なのはいいけど、食べるところがなくなっちゃうのよね。
まあ、もともと霧は食べられないか。
「た、倒した、だと!? 今のは魔物の霊の集合体だぞ! 王都の外で俺とリリアンヌが魔物退治をしていたら、死後にゴーストに進化した魔物がいて……周りの霊体を取り込んで巨大化したんだ。なんとか足止めしようとしたが、王都に侵入されてしまった。霊体への攻撃手段を持つ誰かが助けに来るのを信じてここで頑張っていたのだけど……君は、クラーラの幽霊なのか……?」
「違います。生きてます。お久しぶりですハロルド様。ほら、この通り元気です」
私はぴょんぴょん跳ねてみせる。
「この通りって……以前の君は、調子のいいときでもゆっくり歩くのがやっとだったじゃないか。なのに、そんな軽やかに。霊体を殴っていたし、やはり君自身も霊体なんだな……済まない。生きているうちに見つけてやれなくて。君が悪霊になって、口からビームを吐けるくらい強くなって王都に復讐に来るなんて噂があったが、まさか本当だったとは……頼む! 王都には手を出さないでくれ。君を見つけてやれなかった俺だけを殺すんだ!」
「なんですか、その変な噂は。幽霊じゃないですってば。ちょっと色々あって強くなったんです。ところで白いオオカミは放っておいていいんですか? あれって、リリアンヌ様のオオカミなんですよね?」
「ああ、そうだ! リリアンヌ、リリアンヌ、大丈夫か!?」
ハロルド様が叫ぶと、オオカミが瓦礫の中から歩いてきた。白かった毛並みが、血で赤く染まっている。ハロルド様が駆け寄ると、オオカミはすぐに倒れてしまった。痛々しい。
ん?
オオカミが小さくなっていく? 穴が空いた風船みたいに萎んで……オオカミがリリアンヌ様になった!?
あのオオカミってリリアンヌ様が召喚したんじゃなくて、変身した姿だったのか!
変身が解けたあと服を着てるなんて便利な能力ね。駄目な変身能力は巨大化するとき服がビリビリ破れるからね。やっぱ魔法少女みたいに服ごと変身できるほうが便利よ。
って、そんなこと考えてる場合じゃない。
オオカミの傷がそのままリリアンヌ様に残ってる。ボロッボロだ。
治さなきゃ。
ほらポーションをお飲み!
てやっ!
「ん……クラーラさんが治してくれたんですね。霧の怪物を倒すところも見ていました。王都の危機に駆けつけるなんて……やはり、あなたは正義の心を持っているのですね」
傷が完治したリリアンヌ様は、私にキラキラした視線を送ってくる。
むふふ、もっと褒めて。
「よかった、リリアンヌ……あれほどの傷が一瞬で治るなんて……クラーラがやってくれたのか? ありがとう……ところでリリアンヌとクラーラは知り合いなのか?」
「あら、ハロルド。あなたこそクラーラさんを知っているのですか?」
「当然だ。彼女はクラーラ・リンフィールド。リンフィールド男爵家の一人娘であり、俺の『
クラーラ・リンフィールド。
うーん、久しぶりに自分のフルネームを聞いたぜ。なんなら、初めて聞いたんじゃないかってくらい久しぶりだ。
「え? ええ!? そんなはずありません。だってクラーラさんは噂の『野生の聖女』なんですよ? 言葉をろくに話せず、魔物の生肉を喰らい、泥の中から突然飛び出してくる、あの野生の聖女です!」
「馬鹿な! クラーラがそんな野性的なわけがない! この子は病弱で、物静かで……」
「ですが私はこの目で見たんです! クラーラさんがゴブリン・ロードを倒すところも、その肉を食べるところも! なんならサラマンダーも倒してましたよ。というか、さっき口からビーム出してたじゃないですか! 病弱で物静かな子が口からビーム出しますか!?」
「そ、それは……すると、この子は俺の知ってるクラーラと瓜二つだが、別人なのか……? いや、似てるとかじゃなくて完全に本人だ。どういうことなんだ……!」
ハロルド様が混乱している。
でも私だって混乱してるぞ。
だって、だって。
「ハロルド様、
別にあなたと結婚したかったわけじゃないけど。
結婚破棄されたってなると、我が家の沽券にかかわるぞ。私は今まで、家名に泥を塗りたくない一心で誰にも助けを求めずに頑張ってきたのに。
剣聖さんよ、真実の愛に目覚めたのかい。
「ク、クラーラさんが流暢に喋ってますぅぅぅぅっ!?」
リリアンヌ様が素っ頓狂な声を上げる。
おっと、しまった。つい片言設定を忘れてしまった。でも、ハロルド様を前にして片言を続けたら、それはそれで話が変になりそう。
ええい、もうどうにでもなーれ。
私は邪教徒に襲われてから今までの出来事を語ることにした。ありのーままにー。
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