第4部 図書館ノ右

 わたしハ立チ上ガリ、本棚ノ隙間ニ消エテイッタ。タチマチ闇ニ呑マレテ見エナクナル。タブン、コノ空間カラ消エタノデハナイ。れいやーハ常ニ被サッテイルカラ、わたしハイツデモ私ト並行シテイル。


 わたしガ言ッタヨウニ、私ハ確カニ百年ホド前ニアル本ヲ書コウト思イツイタ。本ノたいとるハ内容ヲスベテ書キ終エテカラ決メルカラ、最初ニ第一章ノたいとるヲ決メテ、本文ヲ書キ始メヨウト試ミタ。ソノ章ノたいとるマデハ覚エテイナイ。デモ、私ガ今探シテイル、ソンナたいとるダッタヨウナ気モシテクル。


 「二ツ分ノ器」


 ソノ本ハ、タシカ小説ノ類ダッタハズダ。私ハ色々ナ本ヲ書イタコトガアルガ、小説ノ内容ハ自分デモ忘レテシマウコトガ多カッタ。タブン、一般化デキナイカラダロウ。一般化デキルモノハ、学問デシカナイ。


 闇ノ中カラボンヤリト姿ヲ現シテ、再結晶サレルヨウニわたしガコチラニ戻ッテクル。脇ニ一冊ノ分厚イ本ヲ抱エテイタ。モットモ、ココニハ抱エルクライノ大キサノ本シカナイ。


 本ヲ勢イ良クてーぶるノ上ニ放リ、わたしハ自分自身モ放ルヨウニシテ椅子ノ上ニドッカト座ル。


「電子化サレル前ノでーたべーす」本ヲ開キナガラ、わたしガ言ッタ。「ホラ、ココ」


 わたしガ指サシタ箇所ニ目ヲ向ケルト、ソコニ見覚エノアル出版年ガ記載サレテイタ。


 わたしガ持ッテキタノハ書誌情報ヲ掲載シタ書物ノヨウデ、私ガ探シテイル本ノ情報ガソノぺーじニ記載サレテイル。私ガ大学デ検索シテ見タノト同ジダ。ホカノ列ニハホカノ本ノ情報モ記載サレテイルガ、ソレラハスベテ、著者名、出版社名ナドノ項目ガ埋メラレタ状態ニアル。私ガ探シテイルソノ本ダケガ、出版年ノミノ記載ニナッテイタ。


「デモ、実際ニハ出版サレテイナイノニ、ドウシテ、出版年ガ記載サレテイルノ?」


「ノチニ誰カガ記載シタンダロウネ」わたしハ話ス。「ツマリ、トニカク出版サレタコトニシナケレバ、都合ガ悪カッタンダ」


「誰ガ?」


「サア」わたしハ首ヲ捻ル。


 シカシ、私ニハ思イ当タル候補ガアッタ。当然ノ帰結ダ。私ガ第一章ノたいとるダケヲ書キ、ソノママ放置シテ、結局ハ出版サレナカッタノニ、ソレガ出版サレタコトニナッテイルトイウコトハ、ホカデモナイ、ソノ本ガ自身ヲ出版サレタコトニシタカラダ。


 ソノ本ガ出版サレタコトニナッテイルトイウコトハ、出版サレル時点デハ、ソレハ本トシテノ体裁ヲ成シテイタコトニナル。出版サレルニハ、章ノたいとるノヨウナ句ダケデハナク、文章デナケレバナラナイカラダ。ダカラ、ソノ本ハ、自ラ本文ヲ執筆シタ。ソシテ、自ラノ書誌情報ヲ掲載スルヨウニ、でーたべーすニ交渉シタノダロウ。


「私ハ、ドウシテ、ソノ本ノ存在ヲ知ッテイタノカ?」わたしガ言ッタ。わたしハマタ煙草ヲ吸ッテイル。モウ三本目ダ。アチラノ世界ノわたしハへびーすもーかーラシイ。何カすとれすデモアルノカモシレナイ。煙草ヲ吸ウコトガすとれすニナッテイルノデハナイカ。「答エハ簡単。ソノ本ヲ書コウト思ッタノガ私自身ダカラ。デハ、私ハ、ドウシテ、ソノ本ヲ探ソウトシタノカ? ソレハ、ナクナッタノガ自分ノ持チ物ダカラ」


 わたしハ、煙草ヲ咥エタママコチラヲ見テイル。


「コレデ、大方ノコトハ明ラカニナッタ。最後ニ一ツ、疑問ガ残ル」


「ソノ本ト、ソノ本ノ情報ガ記載サレタでーたべーすトハ、誰ナノカ?」私ハ言ッタ。


「ソウ」わたしハ斜メニ構エルヨウニコチラヲ見ル。「誰ダト思ウ?」


 答エハスデニ決マッテイタ。コノ場ニ登場シタ人物ノ候補カラ、可能性ハ限ラレテイル。コノ書庫ハ、私トわたしガ密会ヲ行ナウタメノ場所ナノダカラ。


「私トわたし」私ハ答エル。


「正解」わたしハ指ヲ鳴ラシタ。「ソノ本ガ私ノ分身デ、でーたべーすガわたしノ分身ダヨ」

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