第19話‐Braver‐


—あ…もしもし?ごめんね?

今、忙しい…かな?



どうした?

何か用か?



私、智久のことが心配で…

その…また、そういうところに行ってるのかなって…



別に心配なんかしなくていいよ

それに俺がどこに行こうとお前には関係ないし



そうだけど…



用がないなら切るぞ



ま、待って ねぇ、お願いだから話を…




………。



流れが変わったじゃねぇかよ

…くそ。


わかってるよ

俺が今やべーってことくらい


でも、なにかにすがりついてねぇと。

消えてしまいそうで…怖ぇんだよ—




-----------------------------------------



「はっ⋯はっ⋯⋯っ。」


どれくらい走ったか。

こんなに必死に走り回るのは久しぶりで⋯

一旦立ち止まると、私の心臓はすぐ耳元で鼓動を感じるくらいの大きな悲鳴をあげていた。


あらかた町の中でめぼしいところは探して回ったものの、

まだ彼を見つけることはできていない。



―姉ちゃんの様子が落ち着いてから、外の空気を吸ってくるって出ていったよ―



⋯⋯⋯。


シノノメさんなら⋯

きっと、優しい彼なら⋯



「⋯⋯よし。」


おそらくこんな時…彼ならアリシアさんのことを心配して彼女の為に動くだろう。

そう信じたわたしは今度は町の外を目指す。



店主さんの話だと、シノノメさんは何も持たずに出て行ったって言ってた。

間違いなく回復に使えるものや役に立つものを採取しにいったはず―。



「…一体どこに………。」



その場所はどこだろう。考えながら走っていると。

彼ではない、赤髪の彼女の後ろ姿を見つける。

月明かりだけでは辺りは暗く、ましてや離れているため完全に確認はできないけど。


でも、この状況だとほかに考えられない。



「はっ…はっ……んぐっ。あ、アリシアさんっ!待ってください!」


息を整えながら出しうる限りの大きな声で呼びかけるが、

彼女は立ち止まる気配もなく先へ先へと行ってしまう。



私よりはるかに身長が高い彼女だと歩幅が違い過ぎて必死に追いかけないと追いつけない。


「お、おねがい…待ってください…ッ」


息を切らして走る。

もう、立ち止まってしまったら足が動かなくなってしまいそうで。

視界も麻痺してきて。


ぜったいに…立ち止まっちゃだめだ。


とにかく彼のことだけを考えながら体を必死に動かす。



「―――?!」


ズザァァアッ



「いや…痛ッ…ぃ…!」


急に足が…すごく痛い…。


倒れこんでしまって全身を擦り切ってしまったが、それとは比べ物にならないくらいの痛みが足首のほうから襲い掛かる。



「あ…ぁ……ッ」


辺りが暗いためよく見えないが恐らくトラップに引っかかってしまった。

簡易的なものだが、狩猟などに使用されるトラバサミのような形をしている。


そんな。

この足じゃ…走れない…。


耐えがたい痛みとここまでの疲労感が一気にわたしを包み込む。

もう全部諦めてしまいたくなるほど。


だけど…。

もしここで諦めて取り返しのつかないことになってしまったとしたら…。


わたし、絶対に後悔する。



「…………」


おかあさんは―。


もっと、痛かった。

もっと…つらかった。

もっと…もっと…ッ!!



自分を鼓舞し、気合いと意地で立ち上がる。

そして周りに残りのトラップがないか慎重に見渡す。


が、わたしが踏んでしまったこの一つだけのようだった。



…きっと彼女はわたしに気づいていた。

だけどこんな暗闇の中で、先読んで一つだけトラップを仕掛けるなんて…。


まるでわたしが踏む場所をわかっていたかのようで恐怖を感じる。



「…今は…追いかけなきゃ…っ」


杖の先端を木に立てかけ、柄の部分をトラバサミの閉じた口に合わせつつ

魔力を使い筋力を少し上昇させてからトラップに手をかける。


そして一気に力を込めてトラバサミの口を開き、杖の柄の部分を噛ませる。


「う…ぅ……ッ」


トラバサミの鋭利な部分が指に食い込み血がにじみ出る。

わたしの全身の至るところから痛みが襲い意識が朦朧としてくる。



ガシャッ


新しい獲物を見つけたかのようにそれは杖に食らいつく。


わたしの足が小さかったから助かった。

もっとトラップの口を開かないといけなかったら外しきれなかったかもしれない。



「痛っ……ッ」


満身創痍でよろめきながらも傷ついた足をかばって立ち上がり、

泣きそうになる感情を押し殺して彼女の消えていった森の奥へ進んでいく。


痛みのせいなのか。それとも本当に静寂なのか。

自分以外の生命が存在しないかのようにあたりは静かで。



それはまるで舞台の上のわたしを誰かが見守っているかのようだった―。

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元ギャンブラーの俺が異世界転生して、なんだかんだ魔王討伐を目指すおはなし。 £AlCarD£ @alcard_t

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