第17話ーRequiem/鎮魂歌ー
「レイラさん、何か俺にできることはないか?」
このまま答えがみつからず無意味に時間が過ぎても仕方ないからな。
何かできることがあるならお手伝いをしたほうが利口だろう。
「これはまだ、絶対って自信もっては言えないんだけどね・・・」
なんだ?
女将さんが続ける。
「最初はね、なんか流行り病だったりステータス異常とかそういう類だと思ってたんだけどねぇ…違うみたいなんだよ。」
どういうことだ?
あとは毒とか、それくらいしか思い当たらない。
もしくは寒い中外にいたからワンチャンただの風邪かもな。とか思ったんだけど。
「昔、ここいらでは有名な冒険者達がいてね。魔王を復活させるためにって、魔物たちが騒ぎ始めたことがあったんだけどね。」
神妙な顔をして女将さんは続ける。
「魔王の復活を目論む魔女がいて、その儀式を阻止するためにその冒険者たちがダンジョンに潜ったんだ。みんな、あいつらなら大丈夫だろうって見届けたんだけど…」
初めて聞く話だな。
魔王の次は魔女か。
なるだけ剣は交えたくないが、俺の聖剣エクスカリバーならお相手願いたい。
「結果、パーティは崩壊して深手を負って帰ってきたんだ。その時に逃げ帰ってきた冒険者の一人が魔女に呪いをかけられてね。その症状に似てるんだよ。」
少しおふざけが過ぎる俺の思考がぶった切られる。
「え、あ…呪い?」
急な話過ぎて変な声が出た。
いきなり物騒すぎるだろ。
いやでも…
風邪にしては発疹は明らかにオーバーすぎるし、もしアレルギーならこんなに早く見てわかるほど回復しないはずだ。
「その呪いにはどんな悪影響があるんだ?」
女将さんは、力なく首を横に振る。
「結局呪いってのは、ふたを開けてみなきゃわからないんだ。どんな呪いなのか…それは呪いをかけた術者本人にしか知り様がないんだよ。」
言われてみればそうだ。
元いた世界にも呪いのような都市伝説はあった。
藁人形を使って相手を呪うとかそういうやつだ。
たしかに、一言で呪うといってもどんな内容なのかなんて本人にしかわからない。
「⋯どうすれば治せる?」
転生する前の俺なら呪いなんて絶対に信じてなかった。
が…魔法も奇跡もあるような世界なんじゃ信じるしかない。
「そうだね…実際に呪いをかけられたことがある本人に聞いてみるのがいいかもしれない。そうすれば何かわかるかも。今日は遅いし、明日主人に案内してもらうかい?」
「ああ。そうしよう。あの丘の向こうにぽつんと立った家だったよな?あそこなら俺も知ってるから案内できる。」
日が昇ると、冒険者たちは出払うからほとんどの宿泊客はいなくなるらしい。
その暇な時間帯におやっさんに案内してもらえることになった。
「なにからなにまで。本当に助かる。」
「すまない」と頭を下げると、肩をポンと叩かれ頭上からおやっさんの声がする。
「なぁに、困ったときはお互い様さ。それにもう兄ちゃんも姉ちゃんも嬢ちゃんも。みーんな家族みたいなもんだしな!」
ガハハと頼りがいのある笑顔で励ましてくれた。
少し胸が熱くなる。
俺も。
もといた世界でこんな人と知り合えてたら変われてたのかもな。
ちょっと泣きそうになるじゃんね。
「ありがとう。おかげさまでアリシアも今はだいぶ落ち着いてきているようだし。少し外の空気を吸ってくるよ。明日はよろしく頼む。ノエルには、朝までに戻ると伝えてくれ。」
「モテる男はつらいな!」とおやっさんの温かいジョークに見送られて外に出る。
今の俺にできることは何もないが、かといって何もしないのは落ち着かない。
外の空気を吸うついでに俺の本業である薬草摘みでもしてから戻る所存である。
「薔薇の花束じゃなくて悪いけどな。」
俺は自嘲気味に笑ってから、とっておきの薬草を探しに町の外に向けて足を運んだ。
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アリシアの為に、薬草を摘みながら色んな事を考える。
魔王の次は…魔女…ね。
次から次へと迷惑極まりない話だ。
こっちは異世界転生してエンジョイライフを期待してたってのにな。
色んな意味で。
そもそも俺レベルの冒険者が世界を救うなんて大層なこと、夢のまた夢なんだよな。
チートスキルっぽいものが一応あるとはいえ。
使い道が難しすぎる。
「ノエル、怒ってるかな。」
放置プレイしてきた、ちいさな魔王討伐メンバーのことを思い出す。
このスキルのおかげであいつを救うことができた。
正直、あの時も運が悪ければ二人仲良く晩飯にされていた。
誰かの為に、自分を犠牲にしたのは初めてだったかもしれない。
結果的には運がよかっただけかもしれないが、俺が何もしなかったら。
ノエルとも、アリシアとも今一緒にいることはなかったと思う。
……………。
アリシアに至ってはまだ出会って間もないはずなのに、初めてな気がしないんだよな。
あのぶっ飛んだ言い回しとか嫌いじゃないし。
なんなんだろうな。
これから⋯あいつらと一緒に旅をして、一緒に一喜一憂して。
いろんなこと共有しながらのんびり先を目指していくのも悪くはないのかもな。
直接はまだ流石に恥ずかしい。
だからいまは草むしりながら独り言いうくらいでちょうどいい。
でもいつか。ちゃんと伝えたいと思う。
クソみたいな俺を変えてくれて、ありがとうって。
なんだか嬉しくなって口元が緩んで。
俺気持ち悪いなって。
ついでになんか泣きそうになって。
だけど、嫌じゃなかった。
「あんまり待たせたら悪いかな。」
俺は腰をおさえながら立ち上がり、いそいで集めたとっておきの薬草たちを大事に束ねてポーチに入れる。
その時、背後で何かが近づいてくる気配がする。
「こんな時に⋯まさか魔物か?」
まずい。今は何も獲物がない。
宿屋に置いてきてしまっていた。
どうしたものかと考えながら警戒して振りかえると、
それは少し離れたところで立ち止まった。
夜風が冷たい。
だが、寒気よりも悪寒のほうが俺を包み込んでいた。
ガサ…
ザッ…ザッ…
近づいてくる。
木々の隙間から月明かりが差し込んでいて。
それが近づくたびに、
足元から少しずつその姿が照らされていく。
鉄で覆われたブーツ。
女性を彷彿とさせるスカート、胸周り。
そして、赤髪のポニーテール。
今。まさに無事を願っていた相手がそこにいた。
俺は警戒を解き、目の前の俺の大事な仲間に声をかける。
「なんだ…アリシアか。お前、もう動いて平気なのか?」
早く会いたい。
さっきまでの俺の思考が余計にその気持ちを加速させていた。
「ノエルは大人しくしてたか?俺もいま用が済んで帰ろうと思ってたとこだ。」
アリシアに近づく。
「薬草を摘んでたんだ。これくらいしかできなくて悪い。」
俺は薬草をアリシアに渡そうと思って、ポーチを胸の前まで回して中を覗き込む。
そして薬草に手を伸ばしたその時。
ドッ
下向きの視界にひろがるポーチの中に異物が飛び込んできた。
想像すらしてなかったものが。
それはポーチを貫いて、ポーチの中を通って。
俺の胸と背中をも貫いていた。
声が出ない。
痛みのせいなのか、ショックによるものなのか。
何がどうなったのか理解もできない。
「はっ、はっ…がっ…あ……」
待て、どういうことだ。
なんでこうなる?いや待て、待て待て。
なんだよこれ。なんなんだよ。
パニックになりながら、答えを見つけようとするが目の前の光景を受け入れることすら出来てない俺には到底無理な話だった。
ポーチの中を貫通している刃物に俺の血が伝い、
薬草が少しずつ真っ赤に染められていく。
「あ…アリっ……ッ…」
涙が止まらない。
痛い。
言葉で表現できないほどの痛みに思考が定まらない。
胸が痛い。
そりゃ痛いだろ。胸貫かれてんだから。
いや。仲間に、目の前の光景に、胸が痛いのか。
もう⋯どっちでも…両方でも…。
なんでもいい。
とにかくこの状況を。
なんとかしないと文字通り俺は死んでしまう。
だめだ。絶対に。
俺は一か八か、目の前に意識を集中し【ギルティラック】を使用するためにステータスウィンドウを呼び出す。
「ぐぁ…⋯ッあ⋯!」
アリシアが俺に近づきながら剣を根元まで差し込んでくる。
だめだ。
もう。意識がもう飛びそうだ。
「⋯ごめんね。でも、もう大丈夫だから。智久。」
耳元でアリシアが囁く。
⋯なんでだよ。
ふざけんなよ。
それは俺の⋯⋯⋯
俺とポーチを貫いていた剣先がゆっくりと離れていく。
それを薄れゆく意識の中で、追いかける。
近くまできていたアリシアの顔を見ると、泣いていた。
そして、アリシアの肩越しに。
目を見開いて立ち尽くすノエルの姿があった。
ばか。
そんな顔すんなよ。
死ぬわけねぇだろ。俺が。
まだ。
やること。
言いたいこと。
俺の手から離れたそれらは宙に舞い
天地がひっくり返ってしまった俺の視界に降り注いだ
それはまるで
真っ赤な薔薇のように見えて
俺を祝福してくれているようだった
―ステータス―
【体力:25】
【筋力:49】
【魔力:35】
【運:1】
【固有スキル:なし】
【習得スキル:ウォーター、フレア、ウィンド、ヒール】
第1章 -完-
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