最終話 大丈夫、私、お母さんだから
就職先である株式会社『
覚える事が多くて大変ではあるが、優しい先輩達の手厚いサポートのおかげで何とか楽しく働けている。
そして今日もいつも通り定時で上がり、就職祝いとして義母さんに買ってもらった中古のワンボックスカーで義母さんの待つ自宅のマンションへと帰宅した。
「ただいまー」
「あっ! まーくんおかえり! どうする? ご飯よりもお風呂よりもお母さんだよな?」
「毎回言うけどさ、帰って来たばっかりだよ? 気が早すぎるって……」
「えぇー? じゃあさっさとご飯食べて、一緒にお風呂入って…… その後はアンテナの定期点検だな!」
定期? ここのところ最低二日おきに点検してるよね? しかも休みの日なんて一日二回点検する時だってあるのに……
「細かい事は気にしない! ふふふっ」
あの『アンテナ通信講座』の撮影から二ヶ月、俺達は母子を超えた母子として毎日楽しく生活している。
まずは帰宅したことを報告するために、親父の部屋にある親父と母さんの仏壇に手を合わせた。
どうしようもないクソ親父だったけど…… 親父がいなければ義母さんとこんなに親密な関係にはなれなかったわけだし、許せはしないがそれでも今は感謝している。
よくよく考えてみたら義母さんは親父とも仲良くしていたわけで、少し複雑な気分にはなったが……
「ふふふっ、まーくん」
義母さんを…… 萌子さんをこんな笑顔に、そして幸せに出来るのは俺だけしかいないと思っているので悔しいとかそういう気持ちは全くない。
義母さんも義母さんで親父の事を『元夫』ではなく『俺の父親』くらいにしか思っていないみたいだし、未練とかは全くないから安心してくれと言っていた。
そんなお互いの想いを改めて確認し合った俺達は…… 事実婚という形にはなるが、母子から夫婦として生活する道を選んだ。
十歳以上歳の差はあるが、お互いに愛し合っているからそこは気にしてないし、たとえ他人に何を言われようが気にしない。
だって…… 歳の差や世間体なんて関係なく、これからもずっと一緒にいたいと思える人なんだから。
ただ…… 年齢を気にする部分があるのは確かだ。
「いっぱい食べていっぱい個人情報を蓄えてくれよ?」
夫婦として生活する以上お互いの個人情報を流出しても問題がないし、義母さんも三十歳になったのでこれからの生活について色々と話し合っている。
そして一番話題になっているのは、俺達の将来の家族について。
「ふふふっ、今日も楽しみだなぁ」
今まで我慢していた分、二人の時間を楽しみながらイチャイチャして過ごしたいたいという気持ちもお互いにあり、その辺が悩ましいところではあるが、義母さんの年齢を考え、そろそろ一人目を…… という結論になった。
ちなみに『メーコのアンテナ通信講座』の動画だが、今でもPAPI2動画ランキングトップ10に入るくらい人気が出て、かなりの売上になっているみたいだ。
初回の収益が振り込まれた時には義母さんと二人でかなり驚いた……
だって収益を丸々全額借金返済に回したら、一年かからず返済出来る計算になっちゃうからな。
ただ生活もあるし俺の給料もまだ少ないから全額借金返済には充てられない。
高額収入がいつまで続くか分からないが、それでも借金完済への目処が立ったから…… 義母さんは『お母さん』になりたいと言ったんだろう。
義母さんも俺もお互いに繋がりがある家族がいない。
なので賑やかな家庭にしたいという想いが強いんだ。
「なぁー、まーくぅん、さっさとお風呂に入って送受信しよう? 二日も送受信してないんだぞ? お母さんどうにかなっちゃいそうだ」
「義母さん…… 分かったよ」
義母さんは待ち切れないみたいだし、明日は休みだ…… とりあえず今は義母さんとの新婚生活を楽しむためにいっぱいイチャイチャしよう。
…………
「点検、点検ー、ふふふっ、まーくんのアンテナ点検ー」
何だよそのヘンテコな歌は……
「うん、今日も正常! 電波がビンビンに飛びそうな良いアンテナだ」
目視で確認した後は触診して、ついでに舌診。
アンテナの具合を丁寧に何度も確認すると、義母さんはくるりと反対を向き、受信機を近付けてきた。
「まーくんも確認作業を頼む、たっぷりじっくり調べてくれよ?」
接続に問題が起きないようにたっぷりじっくり確認作業…… 時々警報が鳴り、受信機のある施設が大きく揺れたりもするが構わず作業を続ける。
どんどん漏水してくるがこれは正常に受信機が作動している証拠だ。
「はぁん…… まーくんの職人技、凄いぃぃ……」
義母さんのアンテナ職人っぷりも凄いよ…… まさか蓄電池でアンテナを整備するなんて…… 大きな施設だから出来る技だ……
「まーくん、そろそろデータ送受信のために接続してぇ……」
…………
そんな甘い新婚生活を送りながら数ヶ月が経ったある日……
「ふふふっ、ついにまーくんのデータを受信完了した、つまり…… 私達の赤ちゃんがここに……」
「えっ!? 本当に!?」
「ああ、調べてもらったら間違いないと言われた…… ついに…… うぅっ…… ついに…… 家族が増えるぞ……」
「おめでとう義母さん…… 良かったぁ…… 良かったよ……」
ついに義母さんは俺との子供をお腹に宿してくれた。
共依存母子状態だった俺達が一線を越えて夫婦になり、そしてついに親になる時がきた。
そんな新たな幸せを噛み締めながら、俺達は抱き合って喜びの涙を流した。
◇◇◇
〖とある夫婦の妊活(N)・盗撮(T)・記録(R)〗
『あぁっ! もっとぉ! 高速通信してくれぇっ!』
『うっ…… □□さんっ!! □□さんっ!!』
『あぁっ…… アンテナから○○くんの個人情報…… いっぱい流出してるぅ……』
な、何だこれ…… う、嘘だろ?
『ふふふっ…… あっ、受信機から個人情報が溢れて…… ○○くん、ティッシュと…… 視聴者さんにおすすめされた赤ちゃん用のお尻拭きシートを取ってくれ…… って、何をそんなに見つめているんだ?』
『いやぁ…… 何かデータを受信機に送信するのって……』
『ふふっ、この受信機を独占生放送、○○くん専用チャンネルにしたような気分になって良いんだろ? 安心しろ、今もこれからもここは…… ○○くんの電波のみ送受信可能だからな!』
『俺…… 専用……』
『あはっ! またアンテナを立てるつもりか? 仕方ない…… こちらはいつでも接続可能だぞ?』
『□□さん!』
『あぁーん!』
…………
◇◇◇
「義母さん…… これはどういう事だ?」
「あの…… これは、その……」
「もう新規の動画販売は終わりって言ったよな!?」
「だ、だってぇ…… 愛し合って妊活している記録も撮っておきたくて……」
「なら記録するだけにしとおけよ! 何で販売するんだよ……」
「かなり上手く盗撮…… じゃなくて記録出来たから自慢したくなって…… ベ、別にイチャイチャ自慢したって良いじゃないか! それにかなり売れているし、お腹の子のためにもお金をいっぱい稼がなければならないんだ! 怒らないでくれよぉ…… うぅぅ……」
そう言い訳をして、自分の大きくなったお腹をさすりながら泣き真似をする義母さ…… じゃなくて萌子さん。
妊娠が分かり私生活が色々と忙しくなっていたから、萌子さんのファンクラブを全くチェックしていなかったが、たまたま開いてみたら…… 俺が知らない間に新たな動画が販売されているのに気が付いた。
その動画の中身は萌子さんとの共同アンテナ工事、しかも個人情報をやりとりする特殊な作業風景だった。
しかもどこに隠してあったのか、様々な視点から撮影されていて、アンテナから飛ばされた大量の個人情報が溢れ出る受信機まで撮影されていた。
名前を言っている部分は自主規制音で隠され顔や接続部分はモザイクがかかってはいるが……
「うぅっ…… でも、この動画のおかげで借金が更に減ったぞ? 生まれてくる私達の赤ちゃんのためにも良い事じゃないか?」
それは……
確かに俺の収入だけじゃ子供が生まれたら貧乏生活になってしまいそうだが……
「もう売ってしまったものは仕方ないから諦めるしかないんだ、もう身体を売らないから怒らないでくれ…… 両親が喧嘩している所をお腹の子に聞かせたくないだろ?」
うっ! 愛おしそうにお腹を撫でながら悲しい顔で俺を見つめるなんて…… 萌子さん、卑怯だぞ! あと『身体を売る』って言い方を何とかしてくれ!
「ふふふっ、じゃあまーくん、仲直りしよ? そこで…… 安定期に入ったし、久しぶりにアンテナ工事で仲直りしないか?」
えっ…… お、おい、萌子さん!? 何故ここで服を脱ぐんだ!
「んっ、しょっ…… ふぅっ、まーくん…… こんなお腹が大きくて、蓄電池の形や色も変わったが…… 変わらず愛してくれるか?」
…………
借金返済のため、義母さんである萌子さんが『身体を売る』と言った時はビックリして反対したが…… 今はそのおかげで萌子さんとこうして幸せに愛し合いながら生活できるようになった。
そして萌子さんのお腹に新たな命も宿り、俺達の未来は更に明るいものになっていく。
「もちろん、萌子さん愛してるよ」
「ふふふっ、まーくんありがとう…… 私も愛してる……」
あと二ヶ月くらいで生まれる我が子のため、俺達夫婦は更に愛を深めるために『仲良し』をした。
…………
「萌子さん! これは一体どういう事だ!」
「だってぇ…… 妊娠中の私も愛してくれるまーくんを自慢したくて……」
「だからってまた動画を売るなよ!! もうしないって言っただろ!?」
「この子が幸せに生活するためにお金はいくらあってもいいだろ? せっかくなら自慢ついでに『身体を売った』方がお得じゃないか! 身バレ対策もしてるし…… 大丈夫、私、お母さんだから!」
だから言い方ぁぁぁー!!
でも、今の萌子さんはある意味無敵の最強な状態なのかもしれない。
だって…… 幸せという最強のオーラに包まれた『お母さん』だから。
親父が残した借金返済のために義母が…… それを見守る俺 ぱぴっぷ @papipupepyou
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