順調に活動する義母さんが不安な俺
高校生活もあとわずか。
俺は進学はせずに就職することに決めていた。
就職先の会社も訪問して色々説明を受けてきたので、後は高校を卒業するだけなのだが……
「まーくん、お母さんをひとりぼっちにしないでくれぇ……」
「就職はするけど出ていくとは言ってないだろ?」
「そう言って、就職したら『不便だから一人暮らしする』とか言うんだろ? お母さん知ってるんだからな!」
いや…… 就職先はこの家からそんなに離れてないし、今は自動車学校に通っているけど、免許を取って車を買えば通勤時間もそんなにかからない。
それに…… 義母さんを一人にするのは心配過ぎるから出て行けないよ。
「じゃあ出て行かないって証明してくれ!」
義母さん…… 凄いめんどくさい女みたくなってるよ? しかもベッドの上でする話でもないし。
「証明って…… 何をすればいいんだよ」
「んっ!」
いや、唇を指差して突き出すようにされてもどうしていいか困るんだが……
「んーっ!!」
『早く!』とでも言いたそうな目だな…… はぁ……
「んっ…… ………… ぷはっ…… ふへへっ……」
キスぐらいで出て行かないと証明出来るのかは疑問だが、とりあえず『今は』納得してくれたみたいだ…… と言うより、ただキスがしたかっただけじゃないの?
「ふへへっ、まーくん、お母さんのこと好きすぎー! ふふふっ」
証明はどこへ行った? ……まあ、今に始まった事じゃないからもう慣れちゃったけど。
おかしいのは分かってるんだ、でも…… お互いにお互いの存在に依存している状態なんだろう、俺達は……
義母さんには家族がいない、そして俺も親戚はいるが縁がかなり薄い。
義母さんは小学生の時に両親が亡くなり祖母に育てられ、そして夢であった教員になる前に、祖母も亡くなったと言っていた。
それからは彼氏もいたらしいが別れて、そんな時に親父に出会ったとか…… 赤裸々に話してくれるのは百歩譲っていいとして、息子に聞かせる話じゃないよと思う話もあったな……
『男の人って、どうしてまーくんみたいに優しくないんだ? 自分のアンテナのメンテナンスする事しか考えてないんだろうな……』
と、アンテナを整備しながら話されても…… そもそも整備中にそんな話をするな。
『ふふふっ、もしかして嫉妬した? アンテナが反応したぞ?』
そしてわざわざ煽るような事も言ってくるし…… そんな話を聞かされてもあまり良い気分はしないんだけど。
『その点、まーくんは優しいからね、メンテナンスする手つきが凄いし、特に受信機周りの整備が上手…… お母さん、まーくんとなら専属契約したい…… ふふっ』
本当に…… 息子に言うことではないよ。
しかもご近所さんにもペラペラと話しているみたいだし。
……その話を聞いているご近所さんも少しおかしいんだけどな。
とりあえず、俺が何を言いたいのかというと……
「まーくん…… 高校だってもう卒業なんだから、こっちも『卒業』した方がいいんじゃないか?」
「ダメダメ! それ以上言うなら、もうしないよ?」
「うぅっ…… 分かったよ…… んっ……」
…………
…………
義母さんの投稿、配信活動も順調のようで、安定こそしてないがかなりの収入になっているみたいだ。
そんな義母さんは最近、税理士さんと話しをしたりと活動以外にも忙しいらしく、外出する日が増えてきた。
テーブルに置かれている料理と『温めて食べてね!』というメモを見ながら、少し寂しさを感じていた。
でも…… 義母さんと一緒に暮らし始める前よりはマシか。
親父は仕事なのか女遊びが忙しかったのかは分からないが、いつも夜遅くに帰って来ていたから、俺はほとんど家に一人だった……
『仕方ない』と諦めて、別に一人でも大丈夫だと思っていたが…… 義母さんにはそうは見えなかったんだろうな。
親父が構ってくれない分を、まるで義母さんが取り返すかのように…… 甘やかして甘やかして、甘やかしの嵐だったもんな。
そんな子供じゃないから! と突っぱねてみたが、義母さんが聞くわけもなく、俺を赤ちゃんのように……
『ふふふっ、お母さんが隅の隅まで綺麗にしてあげるからな……』
赤ちゃんのように……
『アンテナも正常に機能するか確認作業が必要なんだ! これもお母さんの大事な仕事! アンテナ職人の朝は早い!』
赤ちゃん…… か?
『バブバブでもペロペロでもまーくんの好きにしていいからな…… だって私…… お母さんだから』
赤ちゃんにそんな事…… させないよな? 義母さんと生活しているうちに普通の家族というものが分からなくなってきた!
…………
「ただいまぁー! あぁ、まーくん、遅くなってごめんー…… って、まだご飯食べてなかったのか? どうしたんだ、まーくん?」
おっと、変な事を考えていたら義母さんが帰って来てしまった…… といっても十九時か、税理士さんとの話し合いってそんなにかかるのか?
「どこか調子悪いのか? 大丈夫?」
「いや…… 何ともないよ、今から食べる所だったんだ」
「そう…… じゃあお母さん、先にお風呂入って来る!」
「あ、あぁ……」
しかも帰って来るとすぐに風呂に向かうし…… 怪しい。
まさか…… 義母さん、彼氏でも出来たのか?
いや、それなら俺に言ってくれるはずだ…… じゃあ……
『借金返済のために…… 萌子、あなたのポールでダンシングします……』
税理士と会うというのは嘘で、実は借金返済のために足りない分を外で稼いでいるとか……
そして最後にはファンクラブの会員を集めて……
『皆さん、集まってくれてありがとう…… 今日は朝まで…… 生配信するからなー!』
なんて事になったりして…… はぁっ、考え過ぎか、刺激が強いモノの見過ぎだな。
そんな事になるはずがない……
頭の中の下らない妄想を振り払い、義母さんが風呂に入っている間に、テーブルの上に置かれた晩ご飯をレンジで温めて食べた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます