第40話 田舎の猫 ファティマについて語る

 「えっ……なんでっ? このゴッドフィールドには何人たりとも侵入できないはずなのにっ」

 ウリエルは混乱している。ウリエルはメガパニを唱えた。ウリエルは更に混乱した。そして歌い始めた。


 「君とメガパニっ……バーニン、バーニン……ゆせん?」

 なんて? そのネタは私にもよく分かりませんね……(GGRKS) 


 『何人たりとも侵入不可』であるゴッドフィールド。だが、侵入不可ということは侵入しなければいい。そうだ、ラビィは最初からそこにいたのだ。流石は隠密兎である。


  彼女が一度(ひとたび)『隠密』の能力を使えばラフィにも私にも視えない。それはウリエルも同じだ。だから彼女はずっとウリエルの背後にいた。後ろにくっ付いて動いていたのだ。


  じゃあ何故私がその事を知っていたか?ラフィや私には視えないけれど視えている者がいたからだ。そうマーシャさん、ミーシャ、リーシャの3人である。

 

 ファティマの目というものがある。この目の持ち主は直感力が高いので、人や物事の本質を瞬時に見抜くことが出来る。つまり本来視えないはずの物をまるで視えているかのように感じる事ができるのだ。そしてファティマの村に住む者の殆どがこの目を持っている。だからこそ世界樹の葉から世界樹を造り出す奇跡を起こす事が出来たのだ。


  私がこの目の存在を知ったのは偶然だった。ある日村人が空を見つめてこう呟くのを聞いたのだ。「明日は嵐が来るわね」と。その日は朝からピーカンで、とても急に天気が崩れるようには思えなかった。でも、次の日は実際に嵐が吹き荒れたのだ。


 これだけなら天気に聡い人がいるのだなと思うだけで済んだ。でも、村人のほぼ全員が毎回明日の天気を正確に当てるのだ。不思議に思った私がリーシャに聞いてみると、こんな話を教えてくれた。


  ファティマ村の始まりの祖はエルフではなく二人の人間の男女だった。そのうちの女性がファティマの目とファティマの手と呼ばれる力を持っていた。ファティマの目を持つ者は直感力に優れるだけでなく状況判断力にも優れており、たった2人でどんどん村を切り開いていったそうだ。


  ある日ダンジョンに入った2人は宝箱から林檎の実を見つける。その実を食べた2人は体調を崩し寝込んでしまったんだそう。そして目が覚めると他種族であるエルフになっていた。これがファティマ村の始まりの物語。 


 まぁ、何となく前の世界のアダムとイブのストーリーに似ている部分もある。禁断の林檎の実を食べた2人ってヤツね。興味深いのはファティマの力が女性にしか受け継がれない事。そのうちファティマの手の能力が発現するのはホントに稀だそうだ。 


 ファティマの手は、女性を妬みや嫉妬などの邪視から守る、子宝授、安産、そして、強くなるためのパワーを与えてくれる力だ。始祖である女性はこの力と長寿でファティマ村の人口を増やしていった。だからファティマ村の村人たちは殆どが彼女の子孫である。名字がほぼ全員ファティマなのはその為なのである。


 私がアカシックレコードで調べたところによれば、ファティマの手は元の世界ではその力を授けるお守りだったようだけど、この世界ではファティマの目と同じくファティマ村の村人に伝わる特殊能力である。


  この能力が発現した者は子孫を残す力に優れる。そう、ハイパーエルフというのはこのファティマの手を持つエルフの事を指すのだ。そして現在ファティマ村でファティマの手を持つ者はマーシャさんしかいない。言ってみれば彼女はファティマ村の始祖の生まれ変わりなのだ。皆から敬われているのも当然なのである。


  さて、長々とファティマについて語ってしまったわね。話を元に戻すと、私にラビィの動きが分かるのはファティマの目を持つマーシャさんたちとリンクしているから。彼女たちを通して私はラフィの動きを視ていたってわけなのよ。 


 え? 最初からラビィとリンクしとけば良いんじゃないかって?いや、それはさぁ、私のゲス……もとい、酸いも甘いもかみ分けた大人の思考がラビィやラフィに伝わる恐れがあるじゃん? 純真な青少年を朱く染めるのはちょっと憚られるのよね。だからダンジョン内ではラフィとラビィのリンクは切っていたってわけ。


  マーシャさん、ミーシャ、リーシャは良いのかって? 彼女たちは間違いなくこっち側の存在だからね。忘れてるかも知れないけど人攫いを攫ったのよ? こんなサイコパスな思考の持ち主、普通であるはずないわよね。


 そんな思考の海から抜け出た私は視線をラビィに戻した。すると珍しく彼女が激高しているのが見て取れた。 


 「ひとぉつ人の世の生き血をすすり~。ふたぁつ不埒な悪行三昧。みぃっつう~……」

 あー、それね……。隠密とか桃太郎とか兎人って時代劇ファンが多いのかしらね? この世界にも異世界ファンタジーストーリーは存在してて、その一つの人気ジャンルなのよね。元の世界の時代劇って。 


 「昇天なさりませ~っ!」

 ラビィが吠えながら回し蹴りを入れる。天使だけに? いや、ゴッフィーだけに? と心の中でツッコミを入れながら二人の動向を見守る私。ラビィに蹴られる度にウリエルの体がすっ飛ぶ。この『ペ天使』はどうやら口だけで、戦闘力は53しかないようだ。


  そして何度か同じ事が繰り返された後、ウリエルの体が急に輝き始めた。

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