第38話 田舎の猫 叩きのめす

 「そこを退いてっ!」

 叫ぶウリエル。でも、当然サーシャさんが道を譲る事は無い。スタッフでウリエルの頭を打ちつけようとする。


 「ウリエル様っ!」

 ウリエルを護ろうとサリエルが身を翻しウリエルの元に駆けつけようとした。でも、私がそんな事を許すわけがない。


 「そうはいかないわ。貴方の相手は私よっ!」

 そう言うが早くサリエルの体を後ろから羽交い締めにした。そしてそのまま体を反らしてジャーマンスープレックスの態勢に入る。しかしサリエルも頭を地面にたたき付けられる寸前に反動をつけて足から着地した。


 「くっ……やるわねっ」

 サリエルの重力を無視した体裁きに私は思わず呟いた。そしてそのまま両手を地面につき回転しながらの蹴りを狙う。サリエルはそれをスウェーして交わしながら私の背中にカウンターの右ストレートを放った。私はそれを右に跳びながら交わし距離をとった。


 私たちは互いに相手を睨みつけながらお互いに決め手を欠いていた。しかしその均衡は長く続かなかった。


 「きゃあっ!」

 私の背後から叫び声が聞こえた。ウリエルの声だ。恐らくサーシャさんがウリエルを攻撃したのだろう。サリエルの位置からは私越しにその姿が見えている。サリエルの集中が私から逸れた。


 その隙を見逃す私じゃない。私は全速力でサリエルに向かって走り込み、すれ違い様にアックスボンバーを喉元に食らわした。


 「いっちば~ん!」

 雄叫びをあげる私。


 「ぐはっ」 吹っ飛びながらも態勢を立て直そうとするサリエル。しかしサリエルの努力もそこまでだった。私はサリエルの足下に滑り込み……股間に膝蹴りを見舞った。


 「ぐぎゃっ……」

 潰された蛙のような鳴き声を漏らし、サリエルの体が硬直した。そしてその後ゆっくりと膝をつき地に倒れた。


 「へぇ~、やっぱり天使って両性具有なんだ……」

 なんか前の世界で聞いたような覚えがあったんだよね。ってことはウリエルもそうなのか? 見た目は完全にBBAなんだけど。


 そんなくだらないことを考えながらサーシャさんの方を見ると、ウリエルも地面に転がっていた。サーシャさんが散々スタッフで叩きのめしたようだ。


 「終わりましたか?」

 そこへミーシャとリーシャが近づいてきた。彼女たちはどうやら城の中を探索してたみたいだ。


 「ちょうど今終わったわ。貴女たちの方はどう? 世界樹は見つかった?」


 「城の中庭に植えてありました。ただ、ちょっとやっかいな事になっていて……」


 リーシャとミーシャの話によると、世界樹が瘴気の発生源になっているんだそう。そしてそれを祓う為にラフィが側で舞っているが、祓う事ができずにいるらしい。


 「なんで世界樹が……?」


 「取り敢えず現場を見てください」

 リーシャが言った。


 私はその言葉に肯くと、ウリエルとサリエルをインドアに突っ込み城の中庭に向かった。

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