第36話 田舎の猫 ノリノリになる

 ラビィはフリスビーを投げた後、そのまま手近なゴブリンをぶん殴った。そして両手を地面につくと、馬が時々するみたいに両足で真後ろにいる敵を蹴り上げた。兎人の驚異的な脚力で蹴り飛ばされたゴブリンは、空中で光の粒子に変わった。 


 「フィジカルもいけるんだ、あのウサギは……」


 ミーシャは安定の切り裂き魔と化していた。ユラユラとオークの群れの中を突き進む。ミーシャの通った後は魔石の道がただ続いていた。


  これまたダンジョン名物の魔石。魔石とは魔力の込められた石である。前の世界で言えば電池が一番近い存在だろうか。ラビィのフリスビーにもこれが搭載されている。魔石にもランクがあり、強い魔物からドロップするモノ程高性能であるのはよく知られている。 


 「勿体ないわね~」

 元の世界の国民性が思わず出てしまった私は、周りに落ちている魔石をせっせとインドアに収納する。一度入れてしまえば、見つけるたびにオートで収納してくれる機能があるので、戦闘しながらでも集められる。いや、ホント便利だわ…… 


 マーシャさんも嬉々としてスタッフを振り回してるし、リーシャも秒速で光の矢を複数打ち出してるしで心配のカケラもいらない連中ばかり。唯一の懸念材料があるとしたらマッパで踊るロリの存在だけ……いや、怖いのはお巡りさんだけどね。 


 ラフィの周りに『フィールド』張った私はリザードマンの群れに駆けより、先頭のヤツにドロップキックを食らわした。そのまま後方宙返りを決めると、ジャンプして上空へ跳ぶ。そして地上をチラリと見てターゲットを決めると、2匹の脳天に両足でかかと落としを決めた。 


 「ゴメンナサイね……」

 私は思わず呟いた。


 マーシャさん、ドン引きしてゴメンなさい。私やっぱり……殴るのってた~のし~っ!蹴とばすのって~のし~っ!!母よ、貴女は正しかった……  


 殴る蹴るの連続技を繰り出し、10匹程のリザードマンを屠った時にそれは起きた……いや、落ちた。キラキラと光る葉っぱはまごう事なき『世界樹の葉』だ。そう、大元の『世界樹の葉』はダンジョン産なのである。ドロップアイテムだとは聞いてなかったけど。


 「音子さんすご~い! 普通は宝箱から出るんですよ~。それもかなりレアな確率なんです」


 リーシャが光の矢を撃ちながら話しかけてきた。つまりSSRってこと? 何それ胸熱じゃん。テンション爆上がりだわ~!  気分はノリノリで私は魔物を狩り続けた。すると大体10回に1回位の確率で、私だけに『世界樹の葉』がドロップするのだ。何この確変状態? ちょっと怖いんですけど。


  思い出した。そう言えば前の世界でもそうだったわ。ガチャ運が良いのは私の取り柄の一つだった。10連を引くとほぼ必ずSSRが引けるという、運営泣かせの設定がこの世界でも生きてたかぁ。そういえばチートなスキルも当たったしなぁ…… 


 となると、やることは1つだ。魔法で一度に倒すのは現実感がない? 拳で語り合うのこそ正義? まあ、そういう意見もあるのは認めるけど、効率の良さを求めるのも正義なのよ。何事も時と場合によるの。臨機応変って言葉が私は大好きよ。現実主義万歳…… 


 過去の自分の発言を全否定した私は唱えた。   

 「スターダストレインッ!」

 星屑の雨が魔物たちに降り注ぐ。上空にいる敵にも地上にいる敵にも分け隔てなく。それはとっても幻想的な風景で……その光の雫を受けた魔物たちは光の粒子に変わって行った。そして辺り一面に広がる『世界樹の葉』……


  「アンタさ~、手のひらクルックルッよね。恥ずかしくないの?」

 ラフィのツッコミにも動ぜず、私は黙々と魔石と『世界樹の葉』をインドアに収納し続ける。「獲物をNTRされた」というマーシャさんの非難めいた視線を掻い潜りながら。 


 まあ確かに……確かにノリでやった感は否めないけどさ。これが反省はしている、でも後悔はしてないってヤツよね。


 そんな風に思考の海を揺蕩っていた私を現実世界に引き戻す存在が現れたのよ。 


 「何すんのよ、この『泥棒猫』があっ!」

 それはいつの間にか戻ってきていたBBAだった。そいつは私を睨みつけると吠えるように言った。 


 かっち~ん! 


 私の『良心』という最後のロックボルトが弾ける音がした。

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