第33話 田舎の猫 ダンジョンを進む

 殴る、蹴る、切り裂く、射る。それぞれ敵を狩り取って行く。およそ100体程倒した頃だろうか、敵が湧いて来なくなった。


 「ようやく止まったわね……」

 私がそう言うと

 「まだ油断しちゃダメですよっ!」

 と相変わらずリーシャから檄が飛ぶ。

 「そうね……でも一旦休憩して作戦会議しない?」

 私はそう提案して座り込んだ。そして周囲を取り囲むように『フィールド』を展開する。


  ラフィにも舞うのを一度止めるように言ったのだが、沸き上がるパッションがそれを許さないんだそうだ。彼女はロックな女らしい。 

 「さて、ここからどうするかよね。このまま待ちの姿勢で行くかそれとも……」

 私がそこまで言ったとき案内役のエルフの一人が話し始めた。


 「ダンジョンの造りは以前とは全く違います。案内役を買って出ましたがお役に立てそうもありません。すみません……」

  「それは仕方ないと思いますよ。誰もこんなことは想定していなかったのですから。」

 と、マーシャさんが慰めの言葉をかける。

 それに答えるように

 「もし進むのであれば、私たちは足手まといになるような気がします。私たちは一度村に戻った方が……」

 と、もう一人のエルフが言った。


 彼女たちもダンジョンを探索していた経験があるので決して戦えない訳ではないのだが、未知の敵と戦うとなると荷が重いのだろう。ちゃんと自分の力量を分析できるところがエルフのエルフたる所以だ。

 

 「分かった。でも村へ帰るのはちょっと待ってくれる? 私に考えがあるから」

 私としてはここで敵を待つよりも先に進みたい。籠城戦は性に合わないからね。そしてこの先に進むのであれば、探索の経験者は一人でも多い方が良い。この異常空間を抜けたら元のダンジョンが姿を現すかもしれないからね。


 私がそう言うと

 「しかし、入り口から離れると自力では戻れなくなってしまいます……」

 エルフの一人が弱々しい声で呟いた。

 「それについては大丈夫よ」

 私は自分の考えを話した。


  しばし休憩した後私たちは探索を開始した。エルフの二人は今インドアの中で待機中である。 まぁね、私がやられちゃったらインドアの中もアウトなので絶対安全とは言い切れないんだけどね。そうなったら村も安全じゃなくなる可能性が高いからってマーシャさんが口添えしてくれたのよ。それでエルフたちも納得してインドアの中に入ってくれたわけ。 


 こうして歩き始めた私たち一行はフォーメーションを組み直す。案内役のエルフたちがいないので先頭は私だ。身体強化をしている私が一番固いからね。


  背後を振り返るとマーシャさんとミーシャが続き、その後ろにリーシャが控える。そしてその後ろには素っ裸で舞いながら歩く少女の姿が……。うん……元の世界なら『もしもしポリスメン?』案件だね。とってもシュールだわ…… 


 そうして小1時間ほど歩いていると空からソイツらが現れた。瘴気の中から湧いてくるように現れたのは…… 

 

 「黒いキューピッド?」

 見た目は前の世界で見たことのあるキューピッドなのに、その色は瘴気を纏って真っ黒だった。  ソイツらは空から嫌らしく弓を使って攻撃してきた。私は改めて『フィールド』を展開する。ヤツらの弓程度では貫通してくることはないから案全地帯の完成だ。 


 私は展開した『フィールド』の中から『ウインドエッジ』を飛ばす。その風の刃は黒いキューピッド共を一度に数匹ずつ切り裂いていく。


 マーシャさんは精霊魔法を使っていた。火の精霊の力でキューピッド達を焼き殺している。絵面は集団で焼き殺されるG……。うん、そちらを見るのはやめておこう。


  ミーシャは魔法はあまり得意でないのか様子見をしているようだ。そしてリーシャはというと、光の矢をまとめて数本ずつ撃ち放っていた。光の矢は光の精霊の力を矢の形に変えたものなので実体がない。すなわち『フィールド』の中から攻撃できるのだ。彼女の放った矢は次々とキューピッド達に突き刺さって行った。 


 戦いというより一方的な蹂躙をしていると、私の背中をつつく者がいる。誰? と振り返るとそこにはラビィがいた。 


 「え? 貴女いたの?」

 驚愕で目を見開く私。

 「ひどいですわ~っ!私ちゃんと最初からいましてよっ!」

 拗ねたような声でラビィが言う。


 「え……マジ? ごめん、気づかなかったんだけど。」

 私が心底すまないという態度を示すと、ラビィはクスっと笑って言った。

 「冗談ですわ。『隠密』は私たち兎人の特異能力なんですの。いわゆる認識阻害能力なのですわ」 


 なるほど……そこにいるのに気づかれない能力なのか。それなら納得だ。決して影が薄いなんて思ってないからね、ホントよ。


 「そろそろ私も活躍したいな~なんて思うのですけどよろしいかしら?」

 うん? 貴女戦闘もできるの? 

 「兎って見た目によらないんですのよ?」

 そう言えば兎の喧嘩は凄絶だってグリーンフィールドのご老人たちが言ってたな……


  「どうしたらいい?」

 私がそう言うとラビィは答えた。

 「一瞬『フィールド』を切ってもらっても大丈夫です?」

 えっと、この様子なら大丈夫かな? と計算してから私は答える。


 「何するつもり?」

 「私の武器は『フィールド』の中からは使えないのですわ。ですので一旦外に出ます」

 「そんなことしたら針山になるわよ?」

 「私の『隠密』を甘く見ないで下さいまし。あんなヘナチョコな矢は一本たりとも当たりませんわ」 

 そう言うと彼女は背中のリュックから武器を取り出した。それはまるで……


 「フリスビー?」

 「ええ、でもただのフリスビーではございません。このフリスビーは私の意思によって空中を自由に飛び回る事が出来るのですわ」 

  なるほど、ドローンのような物か。


 「しかもこのように……」

 いきなりエッジの部分から刃が出た。これは凶悪だ。こんなものを空中に翔ばしたら、あのキューピッド達をスパスパと切り刻む事なんて簡単だろう。


  「了解! 今から3秒間だけ『フィールド』の解除をするわ」

 私はその旨をリンクで皆に告げた。そして『リンク』を切るとラビィは爆発的なスピードで外に飛び出して行く。そしてフリスビーを徐に投げると直ぐにこちらに戻って来た。


  このスピードなら『隠密』するまでもないな。流石は兎人。私は再び『フィールド』を張り直す。ラビィは『フィールド』の中からフリスビーを操り始めた。


 「さあ、行きますわよ~っ!」

  ……翔びまわる丸ノコギリに追い回され、切り刻まれたキューピッド達が全滅したのはわずか1分後の事だった。

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