第7話 ネズミ退治

「マルク」

「おー、怖っ。そのつい先程殺ってきましたオーラ、どうにかならない?」


 執務机でうたた寝をしていたマルク王子は、びくりと肩を跳ね上げる。


 その剽軽ひょうきんなオーラはどうにかならないものか、とセインは王子に思う。

 今は生産性のない言い合いをしている場合ではないので、口には出さなかったが。


「街で襲われた。調べたところ、どうやらクレオアが雇った刺客らしい」

「血濡れの騎士団長を襲うなんて、クレオアは随分と勇敢な選択をするね」

「狙われたのは俺じゃない。リゼリアだ」


 あの時、通行人に扮した刺客は魔力ごと気配を断ち、リゼリアを狙っていた。


 セインのように戦闘経験を積んだ人間であれば、魔法の発動前の微かな予兆で殺意に気づくので、返り討ちは容易だった。

 今までも、これからも、リゼリアを護る自信はある。しかしながら、そういうことではない。


 クレオアは、彼女の国は、和平を願って異国に嫁いだ姫を切り捨てようとしたのだ。


「だから怒っているわけね」

「何が和平だ。自ら戦いの火種を蒔こうとしているくせに」

「本当にね。今回の件でクレオアの思惑は明らかだ。後はどう対処するかだな」


 マルクは少し癖のある前髪を弄りながら言う。

 いい加減そうに見えて聡い男だ。僅かな情報から多くのことを想像し、全てを言わずとも的確に理解する。


 刺客をけしかけたクレオアの思惑は恐らく、全面戦争の開始だろう。


 リゼリアを屠り、大切な末の姫が殺されたとザールセンを責めるつもりなのだ。

 厄介な黒騎士団長の処分までも要求してくるに違いない。


「向こうにいる協力者に聞いたけど、彼女、ずっと城に幽閉されていたみたい。そうなったのは、妹の美貌を恨んだ姉の陰謀だとか」

「道理で時折おかしな発言をするわけだ」


 セインの中で静かに怒りが燃える。


(彼女はもう、俺の妻だ。妻の命を狙う者を許すことはできない)


 魔法でクレオアの城ごと吹き飛ばしてしまおうか。セインの人並外れた魔力量ならそれも可能だ。


「セイン、怒り任せにクレオアに殴り込むのはやめてくれよ」

「止めるのであれば、何か方法を考えろ」

「そうだねぇ。どうやら城の中にもネズミが紛れ込んでいるみたいなんだ。折角なら上手く泳がして会食の場で一芝居打ってみようか」


 王子は組んだ手に顎を乗せ、にやりと笑う。


 策略家で、一応やる時はやる男だ。こうなればセインは幼馴染の計画通りに動けば良い。

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