第2話 新しい家族

村の奥にある赤い花が咲き乱れている崖ー


赤い花はレッドマジックリリーと言う花である。村ではレッドマジックリリーは今まで殺されてきた忌み子たちの涙で育っていると言われている。実際にこの花は季節問わずに、恐ろしいほど咲き乱れているのだ。

そこへ忌み子を連れたシュラフと村長が来た。


「ここはいつ来ても恐ろしいほど美しい…そう、思わぬか?シュラフよ」

「父さんここは美しいなんて生ぬるい表現で表すな。ここは呪われているんだ。父さん"も"分かるだろう?」


「………血は争えぬな。」


「…………。」


シュラフは黙り込んだ。シュラフもまた忌み子の片割れだったのだ。


「着いたな。」


赤く残酷なほど美しい花。そこから下は深く深く続く暗闇。そこに忌み子を落とす。


「さぁ、シュラフよ。忌み子を落としなさい。」

「……あぁ。」


シュラフは一瞬躊躇ためらったが忌み子を崖から落とした。

忌み子を落とし屋敷に帰るときはシュラフも村長も無言だった。シュラフの帰り道に足元を濡らした一粒の滴を村長は見ないふりをしていた。


二人が屋敷に戻る頃にはすっかりあたりは暗くなっていた。


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一方その頃。


先程村にいた少年が忌み子を落とした崖に自ら飛び込んでいた。少年は落下している赤子を魔法で浮遊させ空中でキャッチした。


「あそこの村の大人達は本当に馬鹿だな。ウィンベル様を怒らせるなんて終わったのと同然だ。」


少年はそう呟いた。


「おや、ようやく拾えたかい。フロム。」


「ウィ、ウィンベル様。あ、あはは…。」


「とても可愛らしい赤子だね。目はレッドマジックリリーのように美しい赤だ。そうだね…。名前は“ラズ”にしよう!」


「素敵な名前ですね。」


フロムは先ほどの呟きがウィンベルに聞こえてないと思って安心していた。


「フロム。君はここ何日かあの村で頑張っていたからね。先ほどの呟きは聞こえなかったことにしよう。」


「………すみません。」


神様がそう簡単に聞き逃すわけがないかとフロムは苦笑いをした。


「フロム。」


「はい?なんでしょう?」


「お疲れ様。帰ろうか。」


ウィンベルはフロムに微笑んだ。疲弊しきっているフロムにはとても嬉しい言葉だった。


(俺と同様にこの忌み子、いや"ラズ"も帰る場所がある)


新しい家族が増えたフロムはとても喜んでいた。帰ったら久しぶりにウィリアム様に美味しいご飯を作ろうと心に決めて。


フロムは知らないだろう。

ラズを抱いていたウィリアムが村に冷ややかな目を向けていたことを。フロムが言ったとおりあの村は神様がお怒りになっていることは知らないだろう。



神様だって自らの意志を持ち合わせているのだから。



ウィリアムとフロムは箒に乗り家に帰っていた。


「はぁ〜、疲れたぁ」


フロムは呟いた。それもそのはずフロムはウィリアムの使いであの小さな村にいたからだ。まるで最初から居るように村に住んでいた。


フロムは何故自分があの村に使いに出されたか知らなかった。ただある日に行ってきてと言われただけである。


「ウィリアム様は俺を何故あの村に送ったんですか??」


フロムは思い切ってウィリアムに聞いてみた。


「君にはまだ早いかな」


フロムは勘がよかった。

 

(あぁ、またか。俺は踏み込んではいけない領域だ。)


フロムが落ち込んで下を向いたその時。


「なに、まだ話すべきじゃないと僕は判断しただけだよ。時期が来れば君にも話すさ。」


ウィリアムは笑っていた。


(そんなもんか、本当に教えてくれるのだろうか。

いや、きっとウィリアム様は教えてくれるだろう。

それまで気長に待つか!)


フロムはウィリアムが嘘をつかないことは一番知っている。それほど信頼があるのだろう。


ウィリアムが今までに話していた声より何トーンかあがって話し始めた。


「フロムがあの村に行っている間美味しいご飯を食べれなかった…。久しぶりにフロムのご馳走を食べたいな?」


フロムはウィリアムの顔を見るために目線を下からウィリアムに向けた。ウィリアムの顔はニンマリとしていた。


(あぁ、してやられた……)


フロムはウィリアムにいつも丸め込められている。今回もウィリアムに全て丸め込まれた。


「そうですね!!俺がいない間ウィリアム様は美味しいご飯を食べれなかったですもんね!!作りますよ!!ラズのミルクと一緒に!!」


フロムは叫んだ。結局丸め込められてもウィリアムが好きだからだ。


「ふふっ。ありがとう。美味しいご飯楽しみにしてるね。後はそうだな。フロムに言いたいことがあるんだ」


空中での移動も終わり箒を降りて家に入ろうとしていた時だった。家の扉の前でウィリアムは言った。フロムに言いたいことがあると。フロムは嫌な予感がした。


「なんでしょうか……。」


「フロム、ごめんね。」


フロムはこの一言を聞いて急いで扉を開けた。

そこに広がっていたのは出かける前に綺麗にした部屋ではなく、洗濯が散らばっていて、ゴミはその辺に転がっていて食器は洗われていない。どこからどう見ても神様が住む家ではなかった。


(あんなにも綺麗にしたのに。出かける前にしっかりとメモも残したのに。)


フロムはわなわなと震えたいた。


「ごらぁぁぁぁ!!!!!こんのゴミ神ぃぃぃぃ!!!」


フロムはウィリアムに掃除をさせようと振り返った。


そこにはウィリアムもラズもいなかった。

フロムはまたウィリアムにしてやられたのだ。

フロムは家に入りエプロンをつけ三角巾をマスクをした。物置き場やから箒や塵取りバケツ雑巾など掃除用具を準備した。


「はぁ…。ご馳走作る前にこの部屋を綺麗にしなきゃいけないのかぁ。帰ってきたら尻に一発叩き込んでやる。」


フロムはそう言い掃除を始めた。ご馳走は何を作ろうかと考えながら。

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