第22話 一日目 七月二二日 八時二九分(09:03:31)
「アハハハハッ! アッハハハハハッ!」
オレは高笑いを上げながら、金属バットでショーウィンドウを叩き割っていた。
すごく楽しい。こんなに楽しいのならもっと早くやっておけば良かった。何で今の今までやらなかったんだろう? 人生損してた。
「イエーイ、見てるぅ? ピースピース」
オレは撮影している
「センパイくん……ドン引きだよ!」
「うっせ」
理乃は後ほど、店で破壊した物と窃盗した物を弁償するため、【黒のスマホ】で動画を撮影していた。
「生徒に犯罪を犯させるなんて……私は教師失格だわ…………」
「理乃先生……ドンマイっス」
「大丈夫大丈夫! しゃーないしゃーない! 切り替えてこー!」
オレは綾、理乃、誠也に騎士の五人組で強盗に及んでいた。他にも教師や保護者同伴でチームを組み、生徒たちは近隣の店舗を襲撃していた。今や九弦学園高校は、大規模な犯罪集団の
ショーウィンドウを粉々にし、オレはガラス片を踏みしめながら店内に侵入。入口まで移動し、掛けられていた鍵を内側から開いた。
「おおーっ」
照明をつけると、多彩なカラーリングのバイクがズラリと並んでいた。このバイクを盗んで、拠点への移動手段にするのだ。非常事態にあっては、違法な略奪も許されるに違いなかった。
「うっひょーいっ! どれにしよっかなー♪」
喜々としてバイクの品定めをしていると、オレは重大なことに気づく。
「あれ……キーが付いてない?」
「売り物だからね。きっとガソリンも入ってないよ」
「ダメじゃねえか」
キーはどこだキーは。
「理乃ちゃん先生。これじゃね?」
「ちゃんは要らないから」
騎士が発見したのは、壁に設置されたキーボックスだった。だが鍵が掛かっていた。
「キーボックスのキーがいるな」
五人で顔を見合わせ、店中を捜索する。しかし机や戸棚の中にも、それらしいものは無かった。
「壊すか」
幸い、キーボックスは金属製でも、かなり薄かった。バットで破壊可能と見た。
オレは金属バットを振りかぶ――ろうとして、止めた。
「
「え?」
「あ、なら私が、」
「理乃ちゃん先生は撮影係」
オレは交代しようとする理乃を跳ね除け、誠也にバットの柄を突き出す。キョトンとした顔で誠也はオレを見返してくる。
「さっきから汚れ仕事やってんの、オレばっかじゃねーか。お前もやれよ」
「え? …………え?」
誠也が助けを求めるように他の三人を伺うが、それぞれ思い思いの表情をするだけで助けようとはしなかった。
理乃は一人だけに犯罪行為をさせるのはフェアではないと悩み、綾は誰がやってもいいと思っていそうだ。騎士は男同士の感覚で、オレの意図を理解しているようだった。
誠也には積極性が足りない。短い付き合いだが、いつも人の後ろにいて判断を他人任せにするところがあった。それは
「アンジェ、可哀想だったよな。『お母さん、お母さん』って叫んで、でも誰にも助けられずに氷漬けになって……それをあんな姿になってまで救おうとするビアンカは、立派だよな?」
「アンジェ、ちゃん……ビアンカ、さん…………」
誠也は、金属バットを握る自らの手を見ながらブルブルと震えている。彼の脳裏には、
「幼い子供と
「う…………うわあああああっっっ!」
誠也は大声を上げ、キーボックスを叩く。一八六センチの肉体は伊達ではなく、一発で蓋が破壊される。衝撃で散らばった鍵には、メーカーと車番が書かれたシールが貼ってあった。
「良くやった」
オレは誠也の肩を抱く。店に無断侵入し器物を破壊する。一連の過程は理乃が撮影している。言い訳のできない犯罪行為だ。
「これでオレたちは、共犯者だ」
「あ……ああ、あ……あ…………」
誠也は口をパクパクさせ膝をつく。手からこぼれ落ちたバットが、カランと音を立てて転がる。
「ハーハッハッハッ!」
前言撤回。誠也のためと言ったが、あれは嘘だ。オレはただ、真面目に野球に取り組んできた純真な男が犯罪に手を染めるところが見たかっただけなのだろう。根がクズだから。
ようこそ
「お止めなさい」
「あた」
綾に頭を叩かれる。
「理乃ちゃん先生、ヘルメットあるぜ〜」
「じゃあヘルメット選んだ後、バイクを車に運んで。あと、ちゃんはいらない」
騎士と理乃はこちらのことなど気にも留めず、淡々と次の作業へ移っていた。
「センパイくんはバイクを運んで。司賀先輩も立って。この人はこういう性格だから、一々真に受けちゃいけないよ?」
誠也は綾に引っ張り起こされている。
「行くよ、センパイくん」
綾に
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