通夜

2024年4月15日 午前8時50分


一つだけ空席があった。

もしかしてと思う。

「今から通夜に行くぞ」

教室に入って来るなり国語の先生は言った。


ほとんどが空席を見た。

そこは曽根美奈の席。


教室が騒つく。

「誰のお通夜に行くんですか?」

震える声で岡崎マリが聞いた。

「行けば分かる。表門に停まってるバスに乗れ」

それだけ言うと立ち去る。


昇は表札を見た。

曽根と書かれている。

曽根美奈の家は一階建ての平屋。和風な家だった。

広くもなく、狭くも無い。


誰かの通夜に来るなんて初めての体験だ。

空いていた席は昇の前の席。

先週の金曜日までは、もうすぐダンス大会があるから練習を頑張らないとと、明るい笑顔で喋っていたはずだった。


29人の鮮血学園の生徒が並ぶ様は注目を浴び人が集まって来る。


「自殺らしいわよ」

「鮮血学園に入れたのにねー」


遠巻きの噂話が耳に入る。

焼香が終わった者からバスに帰って行くが、岡崎マリは棺の前で泣き崩れていた。

「自殺なんて嘘よ。するわけない…」

泣きながら小声でぶつぶつと言っている。

近くで国語の先生と岡崎エリが寄り添っている。


昇の初めての通夜は、何とも言えない不思議さがあり、曽根美奈が死んだと実感出来なかった。

今にも女の子らしい高い声が聞こえてきそうだった。

昇も焼香を終えるとバスに向かおうとし、入る時は気づかなかった玄関の写真が目に入る。

男の子3人に囲まれて笑顔の女の子。

白鷺幼稚園、白鷺組みなという名札を着けているのが分かる。が、女の子の顔が今の曽根美奈と結びつかない。

一重で低めの鼻筋。唇も薄くて、口元の右下にホクロが2つ。

曽根美奈にはホクロは無いし、一重でも鼻筋が低くもない。

「邪魔です。歩くか端によるかして頂けませんか?」

昇が写真に見入ってると後ろに七瀬みのるが立っていた。

「ごめん。歩くよ」

何か引っかかる。だが、この時点では分からなかった。

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