第1章

第21話 少しの時は過ぎ――


揺ら揺らと静かに燃えるオイルランタンの灯が、それを手に掲げる男の、長い影を地面に映し出す。


「ここも行き止まり、か。」


動きを阻害しない大鱗で作った胸当て、肘当て、籠手に膝当て、革ブーツといったファンタジー世界の軽戦士や狩人風の装備、その上に薄汚れた濃緑の外套マントを羽織り腰に片手剣、背に小銃を装備した男・・・コウジが見つめる先には、ただランタンの淡い灯りが照らすダンジョンの石壁があった。


「残る通路はあと一つ・・・・。俺、運なさすぎだろ・・・」


まあ、逆に言えば次はだろう。

このダンジョンの、最深層。


「今日は引き上げるか。どんなタイプのモンスターかわからんが、流石にボスと戦う準備はしてきてないし。」


地上へ繋がる上層に引き返す前、もう一度ランタンでツタ植物にに覆われた幾何学的な形の石のブロックで出来た壁をよく照らし何もない事を確認する。


「うーん、ゲームならこういった袋小路には宝箱とか何かしらのアイテムが落ちてるものなんだが、まあそんな都合のいい事はそうそうないんだよなあ・・・・うん?」


暗闇の奥、壁に垂れ下がったツタの間に、何かが煌めいたような気がした。

ランタンを近づけ、目を凝らす。


「金の、腕輪?」


警戒しながら歩き近づき、よく見る。


ダンジョンというだけあり、そこに存在するのはモンスターだけではない。


中には、探索者に対して時として致命的なダメージを与えるトラップもあるし、

モンスターにしても全てが正面から襲ってくる訳ではなく種によってはミミックなど擬態による奇襲をしてくるようなモンスターも当然いる。


まあ罠の方に関しては、それそのものが危険な場合はあまり無く、殺意マシマシなトラップが設置されているわけではなく、注意していれば避けられる程度の罠が殆どなのだが。



ツタに絡めとられる形で存在していたそれは、繊細なレリーフを施された、黄金のブレスレットだった。


芸術品として紛れもなく一級であろうそれは、微かに魔力を纏っているように浩二には感じられた。魅力的なという意味での比喩表現ではなく、文字通りの魔力をだ。



「この感じ・・・魔法具、なのか?それもユニークの・・・?何でこんところに・・・」



確かにダンジョンから採れる各種鉱物や植物は、鉱床や群生地として、つまり一見自然に見える状態でそこに存在している(これもモンスターと同じくある程度時間が経てば独りでに復活するので自然には程遠いのだが)。

しかし、武具に魔法杖、魔法具やポーション。これら明らかに人の手で作られた(誰が作ってるのかというのは置いておいて)道具、これらは設置された宝箱の中から出てくる。


だから、通路の脇に忽然と鎧が置かれていたり、ゲームのように台座に剣が突き刺さていたり、今目の前にあるようにツタに魔道具が絡んでいるということは基本的には無いはずなのだ。


少なくともコウジの五年間のダンジョン探索経験ではそんな記憶は存在しない。



「何で?誰かの忘れ物か?・・・・いや、でもこんな場所だしなあ。」



下層を踏破し、危険な深層を探索できるハンターは、そういない。

しかし、絶対に居ないわけではない。

だって5年前までは一般人だった自分が此処にいるのだもの。そういった話はあまり聞かないし、少ないのは確かだろうが、自分と同じような人間も探せばいると思う、多分。

とはいえこんな人が少ない・・・というか未だ人一人見たことがないこのダンジョンの深層に、忘れ物、それも魔道具をこんなツタに絡ませるような状態で忘れるようなケースはあまり存在しないだろう。



片手剣を鞘から抜き、ブレスレットに慎重に引っ掛けて持ち、観察する。

罠の心配はなさそうだ。


手に持ってみる。



「これ、大丈夫かな。はめたら何処かの物語の指輪みたいに冥界に引き込まれたりしないよな。

・・・・ん?二つに分かれるようになっているのか。」



よく見ると、どうやら二つの輪に分かれるようになっている。

対になることで発動するタイプの魔法具なのか?


まあ鑑定球で調べたらどういったものかある程度はわかるだろう。


そう思って浩二は背負っているバッグへとブレスレットを仕舞った。



「思いがけない収穫もあったし、帰るか。」


ランタンの火を落とし、来た道を歩いて引き返す。



「相変わらずこのダンジョンの深層は暗いな。植物も生えてないし。がどうなっているか分からないし、本格的に攻略する前に別のダンジョンで一度火薬草の補給だけはしといたほうがいいな。


こっちに来て三ヶ月、結構ダラダラ過ごしちまったな。」



まあアイツも楽しそうに、いや最近は少し怠惰にすぎる気もするけどまあ本人が楽しいならいいだろう。



暗闇の中、落とし穴や仕掛け矢などのトラップを避け、時々襲ってくるモンスターを片手剣で往なしたり、気づかれる前に狙撃したりしながら浩二は石畳と石壁で出来た通路を歩き、幾つもの階段を上って行く。




暫くそうして移動していると、幾つもの通路が繋がった、天井が見えない程に高い吹き抜けになっている円形の広場のような場所に出る。


その複数の通路の中で、唯一上に繋がっている階段の前に、綺麗な青色の羽毛を纏った小型の鳥型モンスター(小型と言っても比較的で軽自動車ぐらいはあるわけだが)、カケドリのジェイドがいた。


氷のブレスで襲ってきたモンスターを氷漬けにして弄んでいる――――


―――カケドリ、ということにしているジェイドがいた。



「・・・ジェイド、帰るぞ。」



数十じゃきかない氷像に囲まれている頼もしい相棒に声を掛ける。


「グウェっ!」


「よし、じゃあ頼む。」


コウジは背負われた鞍に跨り、自分を乗せたジェイドに声を掛ける。


ジェイドは器用に階段を物凄い速さで走り始め、一人と一匹は地上へと向かう。






三時間ほどが経っただろうか。

暗く広大な深層域を抜け、今下層域から中層域への階段を通り過ぎ――――


「ん?どうした?」


走り続けていたジェイドが、十字路に差し掛かった瞬間急に止まった。

振り落されないように体に力を入れる。

頻りに首を回して何かを気にする素振りを見せている。



「何かあったのか?・・・・うん?」


『さ・・・・い・・・・ノ!』

『そ・・・姉さ・・・・』


その時、微かに人の声が聞こえたような気がした。

続いて、響く戦いの音を感じる。


「・・・右か。」


今いるのは中層下部、といったところか。

さて、どうしようか。

聞いたところ、あまり余裕は無さそうだ。


「よし、。ジェイド、あっちだ。」


ジェイドは右を向き、再び薄暗闇の中を走り出した。








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投稿間隔空いてすいません!

ちょいと構成の練り直しなり、閃いてしまった幾つかの別タイトルの検討をしたり、体調の方がいまいちだったりと、まあ色々言い訳を述べていますがかなり停滞してしまいました。


そしてちょっと投稿している本作を自分なりに読み返してみると、まあ色々詰めの甘さだったり構成のテンポだったり目立つ、と。「今更何言うてんねんお前」という話ではあるのですが。


まあ其処らへんはいつか改稿していくことがあるかもしれません。

基本的にあまり話の大筋とかには影響しないよう気を付けるつもりですが、もしかしたら少し違和感を感じてしまうようなことがあるかもしれません。

そうなったら、ごめんなさい。初投稿作品ということで大目に見て頂ければ嬉しいです。

改めて、予防線を張らせていただきました。


それにしても、書きたい作品の構想が現時点で三作品はあるんですよ。

大まかな物語の雰囲気と世界設定、主人公設定ぐらいしか考えれてないんですが。

投稿できるのはいつになるやら・・・。



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