第18話 くぐって~
「わかりました。早速ですいませんが、禁足地への無断立ち寄り、登録なしでのダンジョンへの侵入、武器の無資格所持及び使用は違法です。特に武器については極刑ものです。」
で、す、よ、ねー・・・
・・・よし、逃げるか。
そう考えた時、続けて戌鋳一曹・・・真面目そうな女性自衛官が言葉を発した。
「とはいえハンター業界は万年人手不足です。迷宮氾濫の予防及び防衛時の補助。食料に資源、途絶したに等しいそれら輸入品分を賄うための狩猟と採取、採掘活動。他国への示威・・・・。今やこの国はハンターの存在無くして回りません。経済面でも、国防の面でも。」
おおっ?
流れ変わったな。
「Aランクハンター、それも業界内でも名高い『
フォーバンデット・・・・パーティ名的なやつか?
確かに牧田さんは山賊顔だな。普通に良い人だったけど。
てか、業界内でも名高いって、牧田さん達実は凄い人?
「禁足地に指定されるよりも前に入った・・・というか元からそこにいてしかも世間の情報から隔離されていたのですからしょうがなかった。武器の所持と使用は、モンスターから身を守るため止む無く行った正当防衛である、という見方もできます。いや、します。」
真面目そうな顔を崩さずに、戌鋳さんは言う。
こじ付け感が半端じゃないな・・・。
「もしかして、許される感じですか?」
「上いわく、多少のことは揉み消す、だそうです。既に迷宮対策本部から警察の方へ圧力をかけてるでしょう。これまでのことについてはおとがめなしといった感じになると思います。」
おぅ、社会の闇を見た気分だぜ・・・
まあそういった柔軟さがないと有事の際は生き残れないということか。
でも、何で俺たちにそんなことをしてくれるんだろうか?
言うてちょと強い根無草二人やぞ?
まあ、いいか。
またダンジョンに潜り、自由に探索をできさえすれば何の文句もない。
「ありがとうございます。」
「いえいえ。・・・ただ、もし貴方方が日本の秩序を乱すようなことがあれば、我々は容赦をしないでしょう・・・・これだけは覚えておいてください。」
これからはちゃんと法に従えとね。
もとよりそのつもりだ。
「はい。ああ、武器預けておきますね。」
ここは誠意を見せておくべきだろう。
俺とシエスは、腰に下げていたロングソードを鞘を持って手渡す。
「あ、はい・・・・。いや、絶対隠してますよね?魔法鞄に。」
・・・・・・・・・・・・・。
バレてる・・・。
牧田さん、昨日通信していた時に俺たちの装備も言いやがったな!?
浩二とシエスはそっと目を逸らした。
「はぁ、まあいいです。あと、『頼むから使う前に猟銃所持許可はとってくれ。目撃されたら流石にそれは庇えん』と上が言っていました。」
「はい・・・。」
怒られなくて良かった・・・。
でもこれは暫くは足止めをくらいそうだな・・・。
社会に関わりを持とうとする以上、仕方が無いこと、か。
牧田さんに聞いて、どうせ免許なり資格なりを取らねばならぬことはも元から覚悟していたことだし、正々堂々武器を持ち、ダンジョンを歩けるならば苦ではない。
まあ少し羽を休めるには丁度いいかもしれない。
いや、この際ついでに装備も更新してしまおうか?
どうせシエスのハルバードを作ろうとしていたのだ。
折角、竜の素材があるのだ。防具や剣もこの際新しく作ってしまおう。
今使っている銃も性能的に少し厳しくなってきたんだ。ネット環境があるならもっと良い設計を参考にできるだろうし、そうしたら構造的にもっと性能を強化できる。所持許可はそれに合わせて取ろう。
久しぶりの現代的な生活を楽しみつつ、食料品などの買い出し、装備の新調、正々堂々とダンジョンに潜れるように各資格の取得。
あとは・・・役に立つかもしれない情報集めとかか?
当面することはこれくらいかな。
ディーゼル機関と、レールの繋ぎ目と車輪が奏でるガタンゴトンという音を終わりの見えない長い長いトンネルに響かせながら、僅か3両の列車は暗闇のなかを進む。
数時間は経っただろうか?漸く前方に小さな光点が見えてきた。
光点は次第に大きくなり、外の世界を映し出しはじめ、遂に列車はトンネルを抜け地上へと這い出る。
「コージさん、随分と物々しいですね。」
「ああ、そうだな。」
まるで要塞だ。
トンネルがある斜面の向かいの丘にずらりと並んだ、坑口へと向けられた対戦車砲の砲列。
トーチカ内から突き出た、重機関銃の銃身。
歩哨のように立つ、刀や剣を持ち迷彩服を着た人影。
掩体壕から覗く、戦車の重厚な砲塔。
幾重にも張り巡らされた対モンスター用の陣地の中を引かれた線路の上を、列車はゆっくりと走り抜けていく。
「幸いやのは、海洋性のモンスターが存在せえへんことやな。お陰で、こうしてトンネルと空さえ守っとけば外からのモンスターの侵入は防げる。島国さまさまやな!」
「偶に泳いで辿り着くモンスターもいますから、油断は出来ませんがね。」
念のため後ろを確認すると、しっかりと台車の後ろを追走するジェイドとヤーデが見えた。
今のところモンスターだからと、いきなり撃たれるなんて事にはなっていない。
「どこまで乗って行くんですか?あんまり目立つのは嫌なんですが・・・」
流石にこの状態で、このまま市街地まで彼らを連れて行くと混乱が巻き起こりそうだ。
「もうすぐ進むと仮設の駅があってなあ。ほぼ自衛隊専用みたいなもんやし、迎えが来るはずやから心配はあらへんで。」
それなら良かった。
人混みとか、あまり大勢の人に囲まれるとどうしても気疲れしてしまう。
きっと、無意識のうちに作ってしまうんだと思う。他人を前にすると多少なりとも心の仮面を。
そうしてあんまりにも疲れがたまると、一人になりたくなるんだ。
でも人と話すのが嫌いな訳ではないため、それが続くと寂しく感じ誰かとの関わりを持とうとする、どうしようもない人間が俺だ。
自分ながらめんどくさい性格しているなと思う。
そうこう考えていると、列車は速度を落としはじめ、本線から引込線へとゆっくり入っていく。
モーターカーは、積荷を昇降させやすいように高さを列車に合わせたコンクリートで作られたスロープ以外何もない空間で停車した。
「これが、駅?」
「ああ、駅や。駅と言えば駅や。」
ほな駅かぁ・・・。
俺達は台車から降りた。
「・・・やっぱり魔力も感じない。不思議ですね、この国の乗り物は。」
シエスはというと、停まったモーターカーを四方から観察している。
うん、好奇心があるのは良いことだ。
でもね、周りの皆さんからすっごい奇妙な人を見る目で見られているんだよねぇ・・・。
このままでは早々にこの世界の住人じゃないことがバレそうだけど、まあ、もういいや。
そう思い、浩二は遠い目で羊雲が出てきた澄んだ青い秋空を眺めるのだった。
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