あの日、君が死んでから、僕の時間が始まった

 ゆつみかける様の『君に手向ける花はない』は、ひとりの少年と、すでにこの世を去った少女の邂逅から始まる、静かで切ない物語です。主人公ハヤトが向き合うのは、突如目の前に現れた霊・ミヤコの「私を殺したのはあなた」という言葉。罪悪感と戸惑いに揺れながらも、彼は少しずつ彼女の未練に歩み寄り、やがて成仏の手助けをしようと決意します。ミヤコの「私を好きになって」という願いは、幼いようでいて、実は深く重たい——

 作中で描かれるのは、死者の声に耳を傾けることで、今を生きる者がどのように変化し、何を見つけていくのかという心の旅。霊というファンタジックな題材を通じて、人はなぜ「赦されたい」と願うのか、また「赦す」とはどういうことなのかといった、幾多の問いかけが、静かに、しかし確かに響いてきます。

 死後の世界に未練を残す魂がいるのなら、生きている私たちもまた、何かを残して生きてはいないだろうか。
――死んだ者の「願い」と、生きる者の「責任」は、どこで交わるのか。

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