第11話 後輩の戦闘力が上がりました
「おいっ! 」
制止が後輩の耳に届いた時には、【開花の薬錠】はスルリと喉元を流れ、抵抗なく体内に収まってしまっていた。
そしてしばらくして後輩の肉体が一瞬だけ淡く輝く。その様子を不思議そうに見る後輩の顔には痛みや苦しみなどはなく、いつもと変わらずとぼけたような表情をしているだけだ。
「お前も人のこと言えないじゃないかよ……」
「いやぁ、ここに連れてきた誰かが私たちに何かをさせようっていう魂胆なら、こんなところで殺しはしないでしょー! ま、万が一何かあったとしても、たぶん私なら何とかできるだろうし」
そうあっけらかんと笑う後輩があまりにもいつも通り過ぎて、薄ら寒いものを感じる。
まるで自分は絶対に大丈夫だと言わんばかりの自信……とは違う何かが言葉の端に滲んでいた。
自身を犠牲にすることを何とも思っていないような、相容れない何か。それは歩んできた人生の中で悟った彼女なりの鼓舞なのか、はたまた諦めなのか。
「殺されなくても精神を支配されるとか、自我が無くなるとか、そんな場合だってあるだろ」
「いや、ここまで色々とお膳立てしているわけですから、私たちの意識込みでやらせたいはずですよ。そうじゃなきゃ、わざわざスマホを魔改造して持たせますか? こんなにいろんな機能つけて、現代人の私たちにわかりやすいようにしてまで? 現代の便利さを残しつつこの世界に馴染めるような物を沢山用意しておいて、私たちに不利益になるような何かするっていう方がしっくりこないって言うか……」
「そりゃあ、まぁ……そうだけど」
確かにその通りだとこちらが言い澱んだのを見て、後輩も我に返ったのか、言い過ぎたとばかりにばつが悪そうに頬を搔く。
こちらに色々と説教した後で、慣れない場所でいきなり獣を倒してくるという自分自身の行動を思い返したのだろう。
「すみません、私もちょっと神経質になりすぎてるところがありましたから、お相子にしましょ! とりあえず、今のところ体に問題はなさそうです。ステータスは……あ、【魔力開花】ってのが付きましたね。えっと、魔力の回復時間短縮と魔力のコントロールがしやすくなるパッシブスキルみたいです。マジでゲームみたいですよねぇ」
話を逸らすようにスマホをいじりながらそう言った後輩に倣ってスマホに目を落とす。
後輩のスキル欄には【魔力開花】というスキルが増え、それ以上は特に変わった様子はない。
このスマホだってどこまで信用してよいかわからないが、この訳のわからない状況を打破するためには絶対にこのスマホは必要になってくる。
腹をくくり持ち物欄から【開花の薬錠】を取り出すと、後輩と同じように口に放り込んで飲み込んだ。
すぐに淡く体が光り、胸元辺りがふんわりと温かくなるのを感じる。
特に体調がすぐれないというわけでもなく、あまりにいつも通りすぎてどうにも信じられないが、スキル欄には確かに【魔力開花】というスキルが増えていた。
「特に変わったことは無い……というか、むしろ調子が良い? さっきよりも呼吸がしやすいっていうか」
「あぁ、それわかります。なんていうか体が軽いんですよねぇ。今なら飛べそうな気がする……って、わっ! 」
後輩はそう言いながらその場で軽くジャンプしたが、想像をはるかに超えて高く飛び上がってしまい、驚きの声をあげながら咄嗟に空中で体を捻って猫のような体制で着地する。
その際にスカートの中の花園がこんにちはしていたが、生憎と自分が渡した例のブツがガッチリとガードしていたため、誰かが望んでいるであろう展開にはならず、その見慣れたストライプ模様のアレにスッと心が凪いでいく。
彼女はそんなこちらの様子に気づかないまま、自分の身体能力の向上に目を輝かせ、その場で屈伸をしたり飛んでみたりして体の調子を確認していた。
「見てください! ほら、ちょっと強めに蹴ると軽くビルの一階分くらいは飛びますよ? え? 何メートル? 」
「たぶん四メートルくらい、か? 衝撃は? 」
「それがまったくって言っていいほどなくて……って、今度は【身体強化】っていうスキルが増えてる! 」
調子に乗った後輩がその場でシャドーボクシングのような動きをし始めたが、だんだんと体が【身体強化】に慣れてきたのか、体を鞭のようにしならせて様々な技を繰り出し始める。【マーシャルアーツ】が仕事をしているのか、はたまたこれが素の動きなのか、体幹にブレなどなく、スムーズに蹴り技を繋げてコンボを作る。その一つ一つが鋭く、空気を切る音もやけに重い。
ここまで来るともはや拳や足が見えないどころか動きが素早すぎて残像しか見えない。
先輩マジでヤバいんですけどー! と言いながら楽しそうに空中回し蹴りや漫画顔負けの立体的な動きをしている後輩は、激しい動きをしているにもかかわらず、息を切らすことなく絶対に人間が出来なさそうな動きを続けている。
ヤバいのはお前の戦闘能力だと言ってしまいたい。
「おぉ、神よ。けして与えてはいけない相手になんてスキルを……」
「ム、ムムゥゥ……ッ」
人外じみた動きをする後輩を見て怖がる天使ちゃんを優しく撫でながら、遠くを見つめてそう神に問いかける。
魔獣までドン引きさせるような戦闘能力を期待して異世界に呼び込んだのなら、人材としては満点だろう。
むしろこんな戦闘能力を持つ人間がどうしてうちのような商社に居たのか不思議でならない。
うちの社長、マフィアとかヤの付く家業の人たちにでも狙われていたのだろうか?
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