第11話 クランクが来る!
前線に着くと、ミリンダ少尉の命令で『ファイグレネード』の火球をボンボン発射して敵陣を攻撃した。
「わりと単調ですね、ロッカ先輩」
「戦争はな、暇な時は死ぬほど暇で、忙しい時は三日三晩ぶっ通しで戦うぐらい忙しくなるぜ」
「極端な場所なんですね」
「戦場だからな」
なんだか急に空気がピリピリとした。
――なんだろう。
敵陣の方から、何か巨大な物が近づいて来るような、そんな感じ。
「クランク来来!!」
「げえええっ」
敵陣遠くから、クランク師がもの凄い速度で駆けてくるのが見えた。
土埃がもうもうと散って後にながれる。
塹壕を飛び越して荒野をまっすぐこちらに走ってくる。
火魔女部隊が『ファイガトリング』を『ファイヤーボール』を無数に発射して、クランクを仕留めようとした。
クランクは身の丈ほどもある大剣を背中から抜いて、斬った。
文字通り、魔法を斬った。
『ファイヤーボール』が手元で消滅した。
『ファイガトリング』の火種がクランクの皮装甲の表面で弾けて消えた。
「ま、魔法が効いてませんよ! 師匠!」
「皮膚の表面に障壁魔法を張ってるだなあ、そして、身体強化魔法でもの凄い速度と力で斬り伏せるでよ」
クランクの持つ魔剣は切れ味が悪い。
ただただ『頑丈』の魔法陣が刻まれた鈍刀だ。
それを力任せに振り下ろす。
フルプレートの重戦士が真っ二つになって、血しぶきを天に向けてまき散らした。
返す剣で魔女の首を切り落とした。
その間、立ち止まりもしないで全速力で走る。
「ゾーヤ!! ターラー!! 楽しもうぜえ!!」
「げえええっ!」
クランクの目当ては、ゾーヤとターラーのようだった。
身体強化魔法を掛けた恐るべき速力でクランク師が血刀をひっさげて駆けてくる。
「ターラー、逃げるよ」
「は、はいっ!」
ゾーヤとターラーは踵を返して全速力で逃げ始めた。
「待てよう、戦おうぜえ、『六枚刃のゾーヤ』『付け火のターラー』」
クランク師はゲラゲラ笑いながら二人の後を追う。
荒野で走りにくい、塹壕に落ちて倒れたら、一巻の終わりだ。
ターラーは恐怖しながら逃げた。
ただただ怖かった。
なるほど、クランクに斬られたく無いからランドランド軍に付く魔女が居るわけだと腑に落ちた。
ぜいぜいと息が切れる。
クランクの速力は早い。
もうすぐ追いつかれてしまう。
「師匠、なんとか戦う手は」
「ねえ、あの戦闘馬鹿へは死ぬ気で逃げるしかねえ」
「そんなあ~」
だんだん二人の速度が落ちてきた、クランクは身体強化の影響なのか、まったく速度が落ちない。
「ターラーちゃんが危ないっ!」
「ちくしょう、この戦闘馬鹿魔女め」
「俺達がお前を止めるぞっ」
兵隊さんが五人、クランクの前に立ち塞がる。
が。
一瞬で首が落ちた。
「ターラー、お前、人気あるなあ、げっげっげっ」
怖い怖い怖い。
もうすぐ追いつかれる。
もうすぐ相手の間合い、一間半だ。
クランクの間合いに入った物はバターよりもたやすく両断されてしまう。
どうすればどうすれば。
ターラーは杖の金具をガチャンと開いた。
「師匠掴まって!」
「何をするんだい?」
「飛ぶ!」
ターラーはゾーヤの体を抱きしめて、杖の金具に足を掛けて呪文を唱えた。
ドドドドドと轟音と共にまばゆい炎が噴出して、ターラーとゾーヤは空中に飛んだ。
「げえ、なんだそれ、下りて来いよ!」
ターラーは真っ青になっていた。
追い詰められて咄嗟に使った火の移動魔法だが、クランクが怖すぎで斜めに飛んでしまった。
着陸をどうするか考えていない。
ちょうど峡谷を飛び越す形になるので、クランクは追ってこられないが、このままでは師弟共にぺっちゃんこになってしまう。
放物線の頂点でターラーは体をひねり杖を落下方向に向けて火を噴射させた。
が、塩梅がわからなくて、ひっくり返りそうになった。
どんどん地面が近づいてくる。
このままでは死ぬ、とターラーは覚悟した。
「『エアークッション』」
ゾーヤの詠唱と共に、風で出来たクッションに二人は包まれて安全に地面に降りれた。
師弟は地面に大の字になって倒れた。
息が荒い。
そして空がどこまでも青い。
何とか生きて助かった。
「ターラーお前ね、着地も考えないで飛ぶんじゃないよ」
「ご、ごめんなさい、これは垂直に飛ぶ魔法で、でも、師匠と一緒なら安全に着陸できますね」
「『エアクッション』は発動時間が短いからね、危ないんだよ。今回は上手く行ったけど、二度とごめんだねえ」
「ええー、でもでもー」
「自分で噴射の練習をして、着地できるようになりな。いろいろと便利だよ。迷宮で高い所に移動するときとか、山で谷を越えたい時とかね」
それは確かにそうだが、だれもやったことのない術だから難しそうだ。
ロッカ先輩と一緒に開発しようかな、と、ターラーは思った。
その後、ゾーヤとターラーは渓谷を大きく迂回してリンデル軍の本陣に戻った。
とっぷりと夜になっていた。
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