第29話

「バイトをしてる」


「バイト……」



歩様は私の問いにすぐに答えてくださった。



でもこんな時間までのバイトとは一体……



「二十四時間営業のファミレスの皿洗い」


「そうなのですね」



二十四時間営業ならばこの時間でもおかしくはない。


でもそれは



「時給が良いんだ」


「時給」



疲れた表情で言う歩様。



そんなに疲れてまでバイトをする理由。


聞いても良いのだろうか?


前世の記憶を持たない歩様。


だから私達はまだ出会ったばかりのクラスメイトで。



「なんでって顔してる」


「うっ!?」



顔に出てましたか!?


おもわず顔を隠すと、ハハッと笑われる。



笑顔っ。


見たい!!


顔から手を外し、歩様を見る。


けれどそれは私の見たかった笑顔ではなかった。


諦めたような笑顔。


 

「っっ」



息が出来なくなる。



何が……


何が貴方様をそんなに悩ませているのですか?



私に出来る事


!!


今はコレしかないけれど



「歩さ……歩くん!!」


「ん?」


「お腹空いてませんか!?」


「うん?」


「私今日、ココで朝ご飯食べようと思ってオニギリを握って来たんです!!一緒に食べませんか!?」



スッとオニギリを包んでいる風呂敷を差し出す。



歩様はキョトンと私を見た後……


瞳をキラキラさせた。



「良いのか?」


「はい!!なんなら全部食べてもらっても良いですよ!!」



オニギリは6個。



「1個がデカい」



ハハハッと笑われる。


さっきの疲れた笑顔ではなくて、楽しそうな笑顔。



「っっ」



この笑顔こそ成実様。



「さすがに全部は無理。一緒に食べようぜ」


「!!はい!!」



歩様が1個取ったのを見て、私も1個取る。



「五百川」


「はい?」


「ありがとう」


「っっ」



成実様!!


成実様!!



また貴方様の役に立てたのですね。



「……もったいないお言葉でございます」

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