第29話

「…嗚呼。嫌やわ、結婚するん」




珍しく素直に弱音を吐いた霞さんは、涙を掬っていた私の指を自身の指で搦めとった。




力無く指を絡ませてくる彼の手を私だけのものにできたのなら。



低いけれど心地よい体温を私だけ知るものにできたのなら。





「私だって嫌です」


「撫子ともうこうやって会われへん」


「もうこうやって私が貴方に触れることはできなくなります」


「僕やて、撫子に触られへんようになる」






————どれだけ幸せだったのだろう。

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