第10話
この場所には、思い出がたくさんある。
彼との思い出が、たくさん溢れている。
春には縁側で二人きりでお花見をした。一緒にお弁当を作って、隣に並んで食べたりして。舞い散る桜の花びらをどちらがたくさん取れるのか、なんて。そんな勝負もした。
夏には風鈴の音を聞いてよく昼寝をした。暑くて眠れないと言う彼とは反対にどこでも寝てしまう私は、いつも彼に膝枕をしてもらって一人で睡眠を貪っていた。
秋には紅葉を眺めてお月見をした。庭師さんがつけてくれた明かりによってライトアップされる紅葉に時間を忘れて二人してずっと見惚れていた。
冬には少し積もった雪で雪だるまを作って縁側にたくさん並べた。どちらが大きい雪だるまを作れるのかという勝負を持ちかけた私に、霞さんは「手が冷えてしもたから降参。また来年しましょか」なんて毎年言うものだから結局その勝負は今でだにちゃんと出来ていない。
—————四季折々、この場所でたくさん彼と過ごして来たはずなのに。
—————私と話す機会なんて、山ほどあった筈なのに。
—————結婚なんて、昨日今日で決まった話じゃなかっただろうに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます