第2話 言霊×プログラムコード
言葉には力がある。
誰かに言った言葉も、自分が発した言葉も、誰かに伝えられた言葉も、すべからく人に変化を与える。
それが言霊
ゆえに人は言葉を惜しむ。
自らの発した言葉が、何かを変えてしまわないように。
しかし、恐れるような変化など言葉だけでは起きえない。
言葉が与える影響は少なく、それ以上に周りの環境が人を変える。
言葉は、その変化をほんの少し起こしやすくするだけだ。
言葉はただの起爆剤であり、それ自体が大きな力を持つわけではない。
……真に力ある言葉があるとすれば、
それは世界を一つ作り上げてしまいさえするだろう
「……なんでこんなところに全角スペースがあんのよ」
ぼやきながらキーボードを叩く。
いくつかの文字を飛び越えた縦棒が、存在しないはずの空間を消し去った。
それを確認して再度見聞。
異常がないことを確認して再度キーを押す。
開かれた画面の中に、注文書通りのサイトが映し出された。
「これでよし」
定型文の依頼完了メールにデータを添付して送りつけ、次のメールを開く。
「うぷっ……何これ……気持ち悪」
途端、入ってくる言葉に思わず左手を口に当てる
そのまま右手でマウスを繰りメールを読み進める
添付したシステムがOSのバージョンアップの後動かなくなったからどうにかしてほしい、とのこと。
吐き気のおさまらない体にムチを打って添付ファイルを解凍し、すぐにコードを確認する
「……化石の内蔵と汚染物質で生きれるかっつーの」
バージョンアップに対応できなかったシステムの一部を切り取り、そこに適合するようなコードを書いてつなげる。
ついでに菌糸の如く原始的な侵食を受けたパソコンのシステムを切り離して治療すれば、今回の仕事も完了である
「『マルウェア開発お断り』っと」
デジタルマイニングをしつづけるウイルスを、金融資産を売却しつづけるマルウェアに変化させて反社に送り付けて、報酬分捕ってアクセスを途絶させた。
私は
OS問わず、種類問わず、内容問わず、客層問わず。
条件は報酬をキッチリ支払うことと、勧誘しないこと、そしてオンラインでやり取りすること。
そんな感じで看板を掲げている。
どうやら結構な企業の開発陣から駆け込み寺のように思われているようで、それなりに大量のデバックを任せてもらっている。
……以前、一緒に仕事をしたエンジニアと仕事をしたときに、その仕事の速さを驚かれたことがある。
まるでどこにバグがあるのか、その対処法まで開く前に分かっているような速度でバグを取り除く姿に感動すら覚えたという。
どうすればそこまでハイスピードに処理できるのかアドバイスを貰いたいとビデオ通話を繋がれるほどだった。“勘”とだけ答えると画面の外にぶっ倒れたが。
……ちなみに、全て間違ってはいなかったりする。
勘でデータをいじっているのは間違いじゃない。
し、バグの場所と対処法も、開く前に分かっているのも間違いじゃない。
私は言霊、平たく言えば言葉のバケモノだ。
何せ言霊は『言葉の力』という概念だ。プログラムのコードほど、力を持った言葉は存在しないだろう。
受け取ったモノの内面に関係なく、言葉通りに動かせる力だ。
ゆえに私は私とコードそのものを同質化した。
今の私は、プログラムのコードそのものと言ってもいい存在だ。
……故に、
私に渡され、掌握されたプログラムに起きたバグやエラーは、私の身体を蝕む病や、肉体に直接ぶっ刺されたナイフに等しい。
(調子に乗って大企業のサーバーとか乗っ取らなくて良かった)
過去の私の判断に心底から賞賛する。
大企業のサーバーなんぞ、利用人数は万じゃくだらないだろう。
そんなサーバーを自分の肉体としてしまったら最後。
幾百幾千という
「(でももっと規模小さめにしておけばよかった)」
世界を一つ潰せるような規模を持て余し、否持てずに余らせた私の心からの言葉を吐きながら、私は次のメールに取り掛かった。
ガッシャァァァァン!!
何かが集中力ごと壊れた音がした。
「あああぁぁぁ!!お皿がぁぁぁぁ!!!」
溜息をつきながら立ち上がり音がしたキッチンを覗くと、粉々に割れた皿をかき集めていた金髪の同居人を見つけた。
「あ~あ~素手で触るな、破片で切るかもしれないから」
「切れないからダイジョブよ!……あっごめんなさい、コト。お皿洗おうとしたんだけど、滑っちゃって。」
「手伝おうとしてくれたのね、ありがと。掃除機持ってきてくれない?拾えないやつは吸っちゃおう」
「わ、分かった」
パタパタと押し入れに走っていく少女を見送って、ゴミ袋に破片を入れていく。
その時だった、違和感に気付いたのは。
(ん?破片が多い……)
一枚を割っただけならありえないほど、大きな破片が多かった。
試しに大きな破片の一部を合わせてみる。
細かな破片も出る分、破片がぴったり繋ぎ合わさることは無いけど、それにしても合わなすぎる。
「コト、掃除機持ってきたわよ。」
「ありがと」
金髪少女――梔子メリーから、彼女が持ってきた掃除機を受け取る。
「シンクに入れといてくれたら後で洗っとくから、次からはそうしてね?」
「分かったわ。次からそうする」
私の言葉にうなづいて、しゃがんで大きな破片を拾い上げるに金髪少女に問いかけた
「ねえメリーちゃん」
「なに、コト?」
「もしかしておかず乗っけてた皿とパン乗っけてた皿重ねて持ってきた?」
「あ、うん……往復するのめんどくさいなって思って……コトもよくやるでしょ?」
彼女が振り返った矢先に投げかけられた言葉に、彼女が気まずそうに目を反らした。
「そうね、私もよくやるわ、面倒だからね」
その反応を見て、さらに投げつける
「で、二、三枚とはいえ重ねてそれなりの重さになったお皿を、ギリギリ胸が出るくらいの高さのシンクで洗おうとしてたわけだ、踏み台もなしに。」
おそらく彼女はシンクまで持ち上げようとして、重ねた皿が滑ってバランスを崩したのだろう。
「とりあえず、人形の体で力入れづらいのそろそろ自覚しなさいな。アンタに関しては元々アンタの体なんだから」
「え~っと……テヘッ!」
小首をかしげたウインクで誤魔化そうとしたメリーさんの頭にチョップを叩き込んだ。
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