第9話
☆☆☆
腕の中に抱いていた、たった一人の女性がまるで闇に解けるように消失した後、青年は真っ暗な闇にただ一人残された。
『………どうして…君は微笑んでいたの?』
青年は、最後に見た彼女の笑顔を思い出し、胸を押さえた。
暫くの間、青年が一人で嗚咽していると、ふっと温かい光が舞い降りてきた。
『…………君か……』
青年の前に舞い降りてきたのは、月白色に煌めく着物を身にまとったラピスラズリの長い髪をした美しい青年だった。
ボロボロと涙を流す青年に、舞い降りて来た美しい青年は「また会いましたね」と慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
『……僕はどうしてまた目覚めてしまったんだろう?』
「あー…貴方の息子さんが厄介な相手に喧嘩を売ってしまったのが始まりです」
『…………
唐突に名前を呼ばれたラピスラズリの髪の青年は、金色の瞳を一瞬見開いた。
まさか目の前の青年が自分のことを覚えているとは予想していなかったのだ。
「なんですか」
『僕が目を覚ました時、いつも君がいるね』
「そうですね」
『それでも、"君しか"いないんだね』
「はい」
『…………………』
「……しかし、今貴方の目の前にいるこの私も、貴方の作り出した夢に過ぎないかもしれません」
満月の言葉に、青年は自分の腕を見つめながら笑う。
『君は酷いことを言うね』
「貴方の見る夢が、世界の全てなのですから、仕方がありません」
『じゃあ、僕は今、自分の夢と会話をしていると?僕は今確かにこの瞬間、覚醒しているよ』
青年のまるで駄々っ子のような口調に、満月は小さく微笑む。
「確かにその通りです。何故だか貴方の夢には夢主である"貴方自身"が登場しないのが決まりのようですから」
『……………』
「だとすると、この世界は貴方と私しか存在しないようですね。貴方は闇、私は月。世界はとてもシンプルだ」
満月の言葉に、青年はハッと何かに気が付き、『そうか…』と呟いた瞬間、広大な宇宙を宿した両目がパンッ!と勢いよく弾けた。
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